レポート

2021.04.06

自然がもたらす創造性の効果とは?

創造性をハックするネイチャーワークスタイリング

「創造性をハックするネイチャーワークスタイリング」と題して、「自然と働く」をテーマに開催された『アフターコロナの働き方新常識!INTENTIONAL WORKING~意図を持って働く』(2021年3月9日開催)のイベントの模様をレポートする。

登壇者

■村瀬亮氏(株式会社スノーピーク取締役・執行役員、株式会社スノーピークビジネスソリューションズ代表取締役社長)※肩書はイベント当時

■中條大希氏(ヤマガタデザイン株式会社専務取締役)
■モデレーター:ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(株式会社プロノイア・グループ 代表取締役)




自然に関わって働く

ゲスト登壇者の2名は、それぞれ異なる立場で自然と関わりながら働いている、株式会社スノーピークビジネスソリューションズ代表取締役社長の村瀬亮氏と、ヤマガタデザイン株式会社専務取締役の中條大希氏だ。

村瀬氏が社長を務めるスノーピークビジネスソリューションズは、アウトドア用品製造会社であるスノーピークの子会社で、企業向けにアウトドア研修やオフィスのアウトドアインテリアを提案している。

村瀬氏は、「5年前だとアウトドア研修をご提案してもピンとこない人が多かったけれど、今は『三密も防げるこれからの働き方として理想的』と言ってくださる方が増えました」と新型コロナウイルス感染拡大を経たワーカーの認識変化を語る。

6_rep_006_01.jpg 中條氏は、2015年に親族の介護のために出身地である山形県にUターン帰郷した。それを機にヤマガタデザインに入社し、交流人口や関係人口の創出を目的としたホテル事業「スイデンテラス」や、教育環境の充実を目的とした教育事業「キッズドームソライ」の立ち上げに関わってきた。現在は農業部門の管掌役員として、持続可能な農業の実現に取り組んでいる。

中條氏は、「山形県庄内地方のような消滅可能性都市は日本にたくさんあります。社会課題を解決しながら地域の資源を生かして持続可能なビジネスを構築できれば、世界的にハッピーな社会をつくれるのではないかと考えています」と事業のビジョンを語る。

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アウフヘーベンで考える
「自然」と「働く」

2人のゲストに続いて自己紹介を行った株式会社プロノイア・グループ代表取締役のピョートル氏は、「ポーランドにある私の実家は農家です。自然は美しいし動物はかわいいけれど、農業は過酷な仕事。牛のような重量のある動物を扱うのは大変なんですよ」とコメントし、キーノートスピーチを始める。

6_rep_005_05.pngピョートル:「今日はみなさんに、ドイツの哲学者であるヘーゲルが唱えた『アウフヘーベン』という考え方をご紹介します。アウフヘーベンを日本語に訳すと『止揚』です。なんだか難しそうですが、2つの相反するものがあったときに、『どちらかを完全に捨て去るのではなく、より高い次元で活かす』といった意味です。例えば、宗教と哲学はある段階では対立するものかもしれません。しかし、この2つはどちらも人生の意味を考えたり、死に向き合ったりするための仕組みです、ですから、より高い段階で一体化して考えることができるのです」

6_rep_006_03.png 本イベントのテーマは「自然と働く」。「自然」と「働く」も、「相反する要素ではないか」と考えるビジネスパーソンがいるかもしれない。登壇者、参加者とも、イベントを通してそれぞれの「アウフヘーベン」について考えていく。




問い1:何が「自然」で何が「不自然」なのか?

ここからはパネルディスカッションとして、2名のゲストとピョートル氏に3つの問いが投げかけられた。最初の問いは、「何が『自然』で何が『不自然』なのか?」だ。

6_rep_006_04.jpg村瀬:「生命が進化し、いろいろ工夫して何かを創り出すこと自体は不自然ではありません。ただ、短期に結果を追求するのは不自然だと思いますね。例えば、人間がこの100年でやってきたことは、感覚的には不自然と感じています。私たちは化石燃料を掘り出して効率よく燃やす、といったことを、進化を超えたレベルでやりすぎたと思います。生命体としてもっているスピード感を無視したものは不自然ではないでしょうか」

6_rep_006_05.jpg中條:「農業という切り口で言えば、農業は不自然です。自然界では一つの植物が特定のエリアにはびこっている状況はあり得ないので、人工的にその状態をつくっているという点で、農業は不自然だと思います。ただ、農業という活動そのものは自然だと思っています。というのも、どんな生き物にも生存・共存の営みがあります。それは、人間も同じだからです。ただし、人間は脳の発達により、種を増やすためにいろいろな施策がとれたことで、かえって自らの首を絞める結果になってきたものもあり、どう回収していくかという問いを突きつけられています」

6_rep_005_05.pngピョートル:「我々の価値観は、衝動的な感情に基づいていることが多いと思います。例えば、キッチンにゴキブリやハエがたくさん出てきたら、私たちは殺虫剤をまきまくるでしょう。でも、これがウサギやリスならそうはしないはずです。どちらも同じ生き物ですが、私たちは自分勝手なバイアスで、何が自然で何が不自然(許容できないこと)かを決めたがる傾向があります」




問い2:自然と働くことは自由になること?

続いての問いは「自然と働くことは自由になること?」だ。連続イベントの通しテーマがINTENTIONAL WORKING(意図をもって働くこと)ということもあり、異なる立場から自然と関わるゲスト2名、そしてピョートル氏に「自然」「働く」という2要素についての質問が投げかけられた。

中條:「農業に従事していて思うのは、場所に関しては不自由ということですね。農業では農地が大切なので、居場所を固定されてしまうんです。また、気候という読みにくいものに左右されるので、働き方が固定される面もあると思います。ただ、植物次第ですが、必ず決まった時間にこの作業をする、といった縛りはなく、時間の自由度は高いと感じます」

村瀬:「中條さんと比べると私の方が自由かもしれません。ずっと自然の中にいるか、たまに自然の中へ出かけていくかの違いでしょうか。もともと人間は、自然の中で、五感にほどよく刺激を送りながら働いていました。それを自分たち自身で『働く』と『自然』に分断してしまったのです。五感への刺激を健全にしなければ企画や発想も生まれないし、このままいくと人間はAIにコントロールされて動くようになってしまうのではないでしょうか」

ピョートル:「自然の中で働くとしても、例えばスーパーやコンビニ、レストランがまったくないと、動物を獲ったり野草や木の実を採取したりして食べるしかなく、これが自由とは必ずしも言えない気がします。自然と働くというスタイルにおいて、自分に最適な働き方と生き方のバランスは必ずあります。自分にとってどんなバランスが最適かを考えることが、自由になるための出発点になると思います」



ピョートル・フェリクス・グジバチ

ポーランド生まれ。2000年に来日後、モルガン・スタンレーなどを経て、グーグルのアジア・パシフィック地域における人材開発と組織開発、リーダーシップ開発分野で活躍。2015年に株式会社プロノイア・グループを設立し、企業がイノベーションを起こすための組織文化変革に向けてコンサルティングを行う。『世界最高のチーム』(朝日新聞出版)や『日本人の知らない会議の鉄則』(ダイヤモンド社)、『パラダイムシフト』(かんき出版)など著書多数。

村瀬 亮

株式会社スノーピーク専務取締役 株式会社スノーピークビジネスソリューションズ代表取締役社長

中條 大希

ヤマガタデザイン株式会社 専務取締役

文/横堀夏代