仕事のプロ

2021.01.15

ポストコロナ時代のイノベーションとは?〈後編〉

イノベーターは戦略的に育成する

ポストコロナに向けて、多くの企業がイノベーション創出に本気で挑み始めている。しかし、コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部で働き方改革プロジェクトアドバイザーを務める坂本崇博氏は、「イノベーター(イノベーションを生み出す人材)が不足している今の状態では難しい」と指摘する。後編では、イノベーションに向けた人材育成についてお聞きする。

なぜ、日本企業で
イノベーターが育たないのか

コロナ禍をきっかけに消費者の生活は一変し、それをきっかけにビジネス市場も激変しています。既存の商品やサービスで苦戦を強いられている企業が多い一方で、新規事業開発に向けて動き始めた企業もあります。

しかし、イノベーションは、新しいモノ・コト創りを目指すイノベーター同士がアイデアをぶつけ合いながら起こしていくものですが、現状では、社内にイノベーターが圧倒的に不足しています。

なぜなら、これまでの人材育成手法に課題がり、企業内にイノベーター人材が育っていないからです。

今までの人材育成は、端的に言えば『一人前(イチニンマエ)に育てる』ことを目的に行われていました。一人前(イチニンマエ)とは、周りの社員がやっているのと同じ仕事を一人でできる、といった意味合いです。つまり、横並びに同じスキルをもつ人材を育てようとしていたわけです。

このやり方では、突出したことを始めようとするイノベーターは育ちません。これからは一人前(イチニンマエ)ではなく、『一人前(ヒトリマエ)』を育てるべきでしょう。これは、『横並びを脱却し、誰もやったことのない領域に1人で前に出て挑戦する人材』という意味です。

2_bus_089_01.jpg


イノベーターは戦略的に育てる

大企業によるこれまでのイノベーション創出は、初めから資質をもった従業員が手を挙げて行うことが多かったと思います。

しかしこの状態では、社員がイノベーションを起こせるかどうかは偶然に左右されることになります。これからの企業は、戦略的にイノベーターを育成していくことが必要です。

運に任せるより、計画的に育てる方が合理的ですから。イノベーターと一口にいっても、ゼロからイチを生み出すのが得意な人や、作り出したものを維持・改善していく人など、新しいことを始めるにはいろいろなタイプが求められます。こうした人材を育てるために企業は、育成はもちろん、採用や報酬の考え方などをトータルで見直していくべきでしょう。



イノベーターを戦略的に育てる
3つのポイント

では、イノベーターとなる人材を育てるために、企業はどこから手をつけていくべきなのか。育成法に唯一の正解はありませんが、イノベーターが育つ土壌を整えるポイントは3つあります。


1.従業員のエンゲージメントに訴えかける制度づくり

従業員が企業に対してエンゲージメント(帰属意識)を感じれば、仕事を通じて企業に貢献しようとします。そのためにも、企業は従業員の成長や幸福に向けた行動を起こしていくべきでしょう。

例えば、多様な経験ができるよう兼業・副業を認めたり、海外研修制度をつくるといったこともその一環です。多様な経験をした社員は、企業に新しい提案をしてくれる可能性が高いはずです。

そしてもちろん、『会社は自分の成長を考えてくれている』と思うことで、従業員の貢献意識も高まるでしょう。


2.全体の傾向より「個」に注目する

企業は従業員の幸福に向けた制度をつくるだけでなく、一人ひとりに働きかけていくことも大切です。

近年は、商品開発などビジネス自体も『誰もが喜ぶモノ』ではなく"個"をイメージして行われるようになっています。従業員に対しても、一人ひとりに目を向けることが大切です。

例えば制度を活用してもらうにしても、成長意欲のある社員に個別に働きかける方が効果的なのは自明でしょう。

10年前に比べて近年は、企業規模が大きくても"個"を見ることが容易になってきています。テクノロジーが発達し、AIなどを活用して大量のデータを簡単に分析きるようになったからです。アンケート調査などによって成長意欲の高い人を探し、その人に働きかければいいのです。

2_bus_089_02.jpg

3.従業員満足に注力する

1、2と関連して、従業員満足をミッションとする人材を組織内に配置することも必要です。

もちろん多くの企業は人事部を備えていますが、このような部署が社員の幸福や選択肢拡充を追求しているかといえば、まだまだではないでしょうか。

欧米では近年、従業員の幸福をマネジメントするCHO(Chief Happiness Officer)という役職が存在する企業がみられるようになってきました。従業員の健康増進を担ったり、一人ひとりの多様性を活かした就労環境を整備したり、エンゲージメントを高めるための評価制度づくりや、社内へのインターナルブランディングを進める役割です。

このように、イノベーションの土壌づくりには、従業員の幸福を担う部署に人材や資金を投入するのも一案だと思います。


坂本 崇博(Sakamoto Takahiro)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/働き方改革PJアドバイザー/一般健康管理指導員
2001年コクヨ入社。資料作成や文書管理、アウトソーシング、会議改革など数々の働き方改革ソリューションの立ち上げ、事業化に参画。残業削減、ダイバーシティ、イノベーション、健康経営といったテーマで、企業や自治体を対象に働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポートするコンサルタント。

文/横堀夏代