組織の力

2020.11.17

WITHコロナ時代のモチベーションアップ術

オンラインコミュニケーションの工夫で働く意欲を高める

新型コロナウィルス感染拡大以降、在宅ワーク中心の働き方による孤立やコミュニケーション不足から、マイナスの影響を受けたワーカーも少なくないだろう。WTTHコロナ時代に生産性高く仕事をするには、ワーカー一人ひとりのモチベーションがカギになる。メンバーのやる気を高めるためるコミュニケーションの工夫や、自分自身でモチベーションをアップさせる手法について、コクヨ株式会社でワークスタイルコンサルタントを務める小笠原純女氏にお聞きする。

在宅ワークの長期化により求められる
「新しい働き方」

コロナ禍をきっかけに、ワーカーは半強制的に在宅ワークを経験することになった。そして現在も、在宅ワークを続ける人が少なくない。小笠原氏は、「在宅ワークの長期化によって、ワーカーは今までにない働き方を求められている」と指摘する。


■働く環境は自らつくる

「在宅ワークは、単に仕事の場所が自宅に変わるだけではありません。仕事向きのチェアやデスク、インターネット環境などが整っているとは限らないうえ、家族と同じ空間で働かなくてはならないことも多々あります」

「今までは、会社から与えられたオフィスという働くことを目的とした環境で仕事をすることができましたが、これからは、働く環境もそこでの働き方もワーカー一人ひとりがつくっていかなければならないのです」

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■自己管理と自律が求められる

今までとは違う働き方を始めたワーカーは、在宅ワークならではのメリットとデメリットを経験することになったという。メリットの一つとして小笠原氏は、「周りを気にせずに自分のペースで仕事ができること」を挙げる。

「ただ、自分のペースで働くのには、当然ながら自己管理や自律が求められます。例えば好きな時間に仕事をしてよいとなると、夜型の生活になったり食事の時間を削ったりする人もいて、心身の不調につながる場合もあるでしょう」

「また、在宅ワークでは、生活空間の中にワークとライフが混在することになるため、両立がしやすくなるメリットは大きいですが、だらけてしまうことで、仕事全体へのモチベーションが下がる危険性もあります。オフィスよりも自由に働ける環境だからこそ、自己管理と自律が大切なのです」



「新しい働き方」に潜む
重大な問題とは?

在宅ワークが長期化するなか、コミュニケーション不足が課題となっているが、そのコミュニケーション不足を要因とする重大な問題として「ワーカーの成長機会の減少」と「働く意欲の低下」があると小笠原氏は指摘する。

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■教わる側も教える側も「見て学ぶ」機会が減っている

日々オフィスで行われていた、ちょっとしたコミュニケーションが重要な情報交換の機会であり学びの場であったことから、在宅ワーク下では、多くのワーカーが学びの機会を失ったといえる。その中でも深刻なのは新人や若手のワーカーだ。

「コミュニケーションがオンライン中心になると、新人や若手のワーカーは、例えば先輩がお客さまにどう接しているかを見る機会がほとんどありません。その結果、社会人らしい振る舞いが入社して半年たっても身につかないことも起こり得るのです」

また、在宅ワークは、教える側にも影響を及ぼしているという。 「特にこれまでのOJTでは、自分のやり方を見て学んでもらうことが多かったと思います。しかしテレワーク下では、『成長してもらうために、何を伝えればよいか』を考えなければなりません。困っている指導担当者もいるのではないでしょうか」

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■承認しあう機会が減ることで働く意欲が低下する?

在宅ワークの長期化によって、メンバー同士がコミュニケーションをとる機会も明らかに減っている。小笠原氏は、このメンバー同士のコミュニケーションの減少が、働く意欲の低下につながっているのではないかと懸念している。

その根拠の一つとして挙げるのが、アメリカの心理学者アブラハム・H・マズローが唱えた「欲求五段階説」だ。人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されており低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を満たそうとする傾向がある。

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「コミュニケーションが不足すると、自分の仕事を上司に評価してもらったり、同僚から感謝されたりする機会が減ります。その結果、ワーカーの『所属欲求』(集団の一員として受け容れられたい欲求)や『承認欲求』(自律した個人として認められ尊敬されたい欲求)」が満たされなくなり、組織への貢献意欲が下がってしまうと考えられるのです。当然ながら、仕事へのモチベーションも低下しやすくなります」

コミュニケーション不足をワーカーが実感していることは、データとしても表れている。コクヨが2020年5月末に行ったアンケート調査では、新型コロナによる働き方の変化について経営者と従業員に質問した。

その結果を見ると、経営者・従業員共に「コミュニケーションは問題なく交わせる」と回答した人が4割程度しかいなかったのだ。つまりこの調査において、6割のワーカーは「コミュニケーションに課題がある」と考えているわけだ。



モチベーションを高めるコミュニケーションの工夫が
「新しい働き方」の秘策となる

コミュニケーション不足によるさらなる問題として挙げた、「ワーカーの成長機会の減少」と「働く意欲の低下」は、在宅ワークが長期化すればするほどより深刻化する危険がある。

今後も多くの企業で、在宅ワーク中心の働き方を続けていくなか、すぐにでも始められる具体的な対策として有効なのが、モチベーションを高めることだと、小笠原氏は説く。

「コミュニケーション不足の問題は、コミュニケーションの量を増やすことが一番の策ですが、テレワーク下という状況では、そのコミュニケーションの質を工夫することが重要です。とくに意識したいのはモチベーションを高めること」

「とくにリーダー的立場の人には、メンバーの意欲を引き出すアプローチをしていくことが求められます。一方、ワーカー自身も、モチベーションを意識的に高めて仕事に臨む必要があります」

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小笠原 純女(Ogasawara Junko)


コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/一級建築士
建築学科卒業後、1998年にコクヨに入社。入社後10年ほどはモノづくり(文具開発、家具開発、働き方の研究、オフィス構築)に携わり、その後、ヒトづくり(人材育成、意識改革、働き方改革など)を中心にサービスを提供し、現在に至る。

文/横堀夏代