組織の力

2020.10.21

ウィズコロナのオフィスに求められる機能〈前編〉

オフィスは「明確な目的を持って行く場」へ

新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに半強制的な在宅勤務を経験し、「オフィスに出社しなくてもある程度は快適に働ける」と実感したワーカーは多い。緊急事態宣言解除から数か月後もテレワーク推奨の流れが続く中で、オフィスの価値はどこにあるのか。コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部でワークスタイルコンサルタントを務める太田裕也氏に、今後のオフィスに求められる役割についてお聞きする。

コロナによる働き方の変化
在宅勤務が一つの主流に

ワークシーンにおいて、コロナウイルス感染症拡大の前後で大きく変化した要素を太田氏に聞くと、「働く場の軸足がオフィスではなくなったこと」という答えが返ってきた。

「もちろんコロナ前からテレワーク推奨の動きはあり、制度を導入している企業もありましたが、国土交通省が2019年に発表した調査結果では、テレワーク制度を導入済みの企業は全体の2割弱。そのうち実際にテレワークを実践しているのは5割弱にとどまっており、普及が進んでいるとはいえない状況でした」

「コクヨが従業員約3000人を対象に実施した調査でも、2020年2月時点では出社率が約9割でした。よくも悪くも、オフィス中心の働き方だったわけです」

しかし、コロナ禍によって状況は一変した。緊急事態宣言明けの6月において、コクヨでは従業員の出社率は約3割と低く、お客さま先やコワーキング利用の外出も1割程度。その他6割は終日在宅勤務を実践していた。太田氏によれば、「4か月経ってもこの比率は大きくは変わっていない」という。

また、259社を対象としたコクヨの独自調査でも95%の企業が「在宅勤務を今後も取り入れ続ける」と回答。オフィス中心の働き方は崩れ、在宅勤務が一つの主流に躍り出たのだ。



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在宅勤務を経験し
働き方はどう変わったのか?

長期の在宅勤務を経験し、「在宅勤務でも仕事ができた」と実感したワーカーは多く、働き方に対する意識や行動に大きな影響を与えている。

同時に、満員電車によるストレスフルな通勤からの解放といった心身への負担軽減、家族やパートナーと過ごす有意義な時間の増加、趣味や自己研鑽など学びや成長のための時間が確保できるなど、ワークとライフ共に在宅勤務のメリットを享受したことが、ワーカーの意識と行動の変化に大きく影響している。

では具体的に、働き方はどう変わったのか。コクヨが行った調査結果から、その変化は大きく3つ挙げられる。

〈関連記事〉ポストコロナ時代に向けた働き方の変化とは


■働く場は、オフィスと在宅が半々に
オフィス中心の働き方から、オフィスと在宅が半々の働き方にシフトしている。

「緊急事態宣言解除後も自粛ムードが続いているため、カフェやコワーキングなどのサードプレイスの利用者は少なく、お客さま先に出向く機会も減っています。また、出社制限を設けている企業も多くあり、意識的に出社を控えているワーカーが多いことも影響していますが、働く場はオフィスが5割弱、自宅は4割とほぼ半々ぐらいを希望するワーカーが増えています」

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■在宅勤務で効率化できる業務が明確に
「資料作成や情報収集などのソロワークは、自宅で取り組むことで生産性が上がると感じたワーカーは多かったのではないか」と太田氏は指摘する。

調査結果では、在宅勤務で快適に行える業務として、メールの処理・事務作業、一人での思考・発想が挙がっている。一方で、雑談や相談、意思決定などの相互コミュニケーションはオンラインよりリアルな場が向いている、と実感しているようだ。

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自身の業務の中で、在宅で効率的に行える業務とそうでない業務を実感したことで、業務内容によってオフィスと自宅を使い分ける方が生産的だと考えるワーカーは増えただろう。「仕事のためにオフィスに行く」から「この業務だからオフィスに行こう」と、明確な出社理由をもつようになったのではないだろうか。


■コミュニケーションの種類によってオンラインとリアルの使い分けが必要
「また、コミュニケーションに関しても、ワーカーの認識は大きく変わったと思います。外出自粛前は、オンラインによる会議や顧客との商談に対する不安の声をあちこちで聞きました。しかし実際に取り組んでみると、報告や情報共有を目的とするものなら、オンラインコミュニケーションでも問題ないと実感した人が多かったようです」

「ただし、ここで重要なのは、オンラインコミュニケーションでもおおむね問題はないと実感できた一方で、オンラインでは代替えが難しいコミュニケーションがあることにも気づき、リアルに会ってコミュニケーションをとることの価値を再認識していることです」

具体的には、オフィスであれば自然発生的に生まれていた雑談やタイムリーな相談。また、意思決定など相互で話しあいながら詰めていくような場合は、リアルなコミュニケーションであることが重要なようだ。

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太田 裕也 (Ohta Hironari)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/プロジェクトディレクター
建築学科卒業後、2005年にコクヨへ入社。「働く場」としてのオフィス、「学ぶ場」としての教育施設、「暮らす場」としてのホテル等、多彩な場の空間デザインを手掛け、「日経ニューオフィス賞」等のアワードを数多く受賞。 2011年以降、「意識・行動・空間」を多面的にデザインするコンサルタントとして、「2ndプレイス(オフィス)」のみならず、「1stプレイス(自宅)」や「3rdプレイス(シェアオフィス等)」もスコープに含めた戦略的ワークスタイルの実現を支援している。

文/横堀夏代