リサーチ

2020.10.16

ポストコロナ時代に向けた働き方の変化とは

在宅勤務でワーカーの意識はどう変わったのか

新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、多くの働き手は半ば強制的に在宅勤務を経験することになった。労働環境が急激に変化する中で、働き方に対する意識も大きく変わりつつある。新型コロナウイルスをきっかけに起こった「ワーカーの意識変化」と、その変化から見えてくる新しい働き方の兆しについて、コクヨ株式会社ワークスタイル研究所の田中康寛が解説する。

在宅勤務でみえてきた
働き方における11の変化の兆し

コクヨ株式会社では緊急事態宣言直後の5月末、『在宅勤務実施中の意識や行動の変化について』というテーマで、全国約3000人のワーカーに向けてWEBアンケートを実施しました。対象者の雇用形態や年齢、職種、家庭環境をできるだけ偏りなく分散させ、より信頼性の高い傾向分析を目指しました。

調査結果から、長期のテレワークを経験したワーカーに大きな意識変化が起こっていることが明らかになりました。変化の内容は、下記の図のような11の傾向に分類することができます。

11の兆しは、大きく4つのカテゴリーに分類できます。兆し1が「働き方全般」に関する内容で、オフィスに集まるスタイルから分散する働き方に変化すると考えられます。兆し2・3・4・5が「個人の働き方・生き方」で、1人ひとりが働き方や生き方を自律的に見つめなおす兆しがみられます。兆し6・7・8が「周りとの関係性」で、仕事仲間とのコミュニケーションや関係構築、部下のマネジメントスタイルに変化が起こりそうです。兆し9・10・11が「オフィスが担う役割」についてで、オフィスの位置づけや空間づくりがこれまでと変わると考えられます。

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在宅勤務をきっかけに
同僚の多様性を受け入れる土壌がつくられた

私が特に注目しているのは兆し6です。これは、在宅ワークによって社内メンバーと離れた場所で働く機会が増えたため、相手の仕事状況や家庭環境を気遣い合ったり、社内メンバーの大切さに改めて気づいたりした人が多いことからみえてきた兆しです。

様々な調査結果では、在宅勤務によって同僚や会社へのエンゲージメントは低下すると言われていた中で、相反する傾向がみられたのは意外でした。

アンケート回答では、「相手の状況を意識する」と回答した人が約8割、「社内メンバーは大切な存在だと感じる」が7割超に上っています。テレワークは、仲間を思いやることだけでなく、社内メンバーの多様性に気づくきっかけにもなったようです。

例えばオンライン会議の場では、相手の自宅が映ったり、家族やペットの気配が感じられることが多々あります。オフィス外でのメンバーの一面を知ることによって、「同じ会社で仕事をしていても、それぞれ違うバッググラウンドがあるんだな」と気づき、少しずつ多様性を受け入れるようになると考えられます。

アンケートでも、「会社やチーム内ではさまざまな意見を受け入れる雰囲気が強まった」と回答した人が4割もみられました。

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在宅勤務が続くと
互いへの思いやりが薄れる恐れも

ただし、緊急事態宣言解除から数か月を経た今、懸念事項もあります。それぞれ離れた場所で働くことが当たり前になると、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションで関係性を再構築する機会をつくるのが難しくなります。この状態が続くとメンバー間の関係性が希薄になり、一度は高まった互いを思いやる気持ちがいつの間にか薄れてしまう恐れもあるのです。

社内メンバー同士のよりよい関係性を維持するには、オフィスでの仕事とリモートワークを併用し、互いの状況や気持ちを確認しながら関係性を深化させていくことが必要ではないでしょうか。

今回の調査でも、テレワークの長期化によって「社内メンバーとの気軽な情報交換や雑談、仕事以外の交流が行いにくい」「初対面・関係の薄い相手とのコミュニケーションがとりにくい」という声が上がっています。今後は、仕事仲間と関係性を深め、拡げたいときや、相手の表情や雰囲気を大切にするコミュニケーションが必要なときにオフィスへ出かける人が増えるのではないかと予測できます。



田中 康寛(Tanaka Yasuhiro)

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 / ワークスタイルコンサルタント
2013年コクヨ株式会社入社。オフィス家具の商品企画・マーケティングを担当した後、2016年より働き方の研究・コンサルティング活動に従事。国内外のワークスタイルリサーチ、働く人の価値観調査などに携わっている。

文/横堀夏代