ライフのコツ

2015.11.30

ザ・ヤングアメリカンズ

音楽とダンスを通じ、コミュニケーションを交わす

アメリカのNPO団体・ヤングアメリカンズによる、音楽の「出張授業」が、石巻市雄勝町の『モリウミアス ルサイル』で開催された。これは東日本大震災により被災した宮城・福島・岩手の3県に住むこどもたちを対象に、心のケアと国際交流を趣旨とし、4年にわたり継続されてきたもの。これまでに2万人を超える参加者から絶賛されてきたという、そのプログラムを体験してきた。

アメリカの若者たちによる「出張音楽教室」
「ウーエ、シータ、ナミ~、モデルー!」 指示の声に従いつつ波のように手をうねらせ、そしてモデルのようにポーズを決める参加者たち。指示を出すのは「キャスト」と呼ばれるヤングアメリカンズのメンバーだ。キャストの9割が英語話者であるが、片言の日本語とボディーランゲージを駆使し、明快に、そして楽しく指導していく。
9月下旬、宮城県石巻市雄勝町にある体験合宿施設『モリウミアス ルサイル』で開催されている「ヤングアメリカンズ・インターナショナル・ミュージック・アウトリーチ・プログラム」を訪ねた。「ヤングアメリカンズ(以下YA)」とは、ミルトン・C・アンダーソン氏によって設立された、アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置く非営利活動団体。現在は18歳から25歳の若者たち約300人のキャストたちが所属し、音楽公演と、歌や踊りのワークショップを通じた音楽教育という2本柱をベースに活動している。
2011年より「東北プロジェクト」として、東日本大震災による被災3県(福島・宮城・岩手)のこどもたちを対象に、15名のYA精鋭キャストが歌とダンスのワークショップを行っており、今回のプログラムもその一環だ。傷ついたこどもたちの心を開き、自信を回復させ、外国語や異文化に興味を持たせることを趣旨とし 、これまでに東北20市区町村、128ヶ所で開催。参加者は2万5千名を超えている。
ヤングアメリカンズは過去2年間雄勝中学校に来ており、今年は『モリウミアス ルサイル』のオープン記念として、この地で開催することとなった。
はじめは怯えていたこどもたちも
だんだんと笑顔になっていく
秋晴れの空の下、集った参加者はこどもから大人まで総勢25名。プログラムはまず「あいさつ」からスタートした。YAのキャストたちが、参加者一人ひとりとハイタッチをし、お互いに名前を言い合う。ときにはこどもが泣いてしまう場面もあったが、キャストはこどもたちの目線までかがみ、優しく触れながら声をかけていた。こうして時間をかけながら距離感を縮め、参加者たちの緊張を解いていく。
次に2人の日本人キャストの通訳をはさみながら、YAたちが自己紹介。歌やダンスを交えながらテンポよく進む自己紹介に、固かった参加者たちの表情にも、だんだんと笑顔が増えていく。そしていよいよプログラムは次のステップ「ダンスの時間」に入った。
まずはお手本となるキャストのダンスを確認した後、参加者が好きなキャストを先生に選び、7分間の練習タイムへ。ダンスは全部で3パターンあり、3チームに分かれた参加者たちは、それぞれ異なる動きを身につける。そして最終的には3つの動きを連動させた1つのダンスパフォーマンスを完成させるのだ。
「オイシイスシ、ダ・イ・ス・キ、オイシイスシ、ヤ・キ・ニ・ク!」。 ユニークな掛け声に、思わず吹き出す瞬間も。しかし体の動きと絶妙にマッチし、難しそうな動作もなんとなく覚えてしまうのだから面白い。初めて触れあう異国の人にとまどう子、ダンスに照れを感じ思うように動けない子など、全体に広がるおずおずとしたムードは、次第にYAの明るいオーラに触発され、イキイキと躍動的なものへと変化するのが見て取れた。
続いての「歌の時間」では、「キラメキ☆MMMBOP 」など、日本でも耳馴染みのよいヒット曲をミックスしながら、歌詞のない歌を最終的に全員で歌い上げる。そして即興劇のゲームを最後に、トータル2時間の「午前の部」を終え、昼休みに入った。
スタート時は見ている方が心配になるほど、参加者たちの雰囲気はおとなしいものだった。しかし午前を終えてみると、いつの間にか一人ひとりの所作が大きく、伸びやかになっている。音楽にあわせて声を出し、体を動かす楽しさに目覚めつつある様子だ。
「本番」では参加者全員に見せ場を用意
午後からの「ミュージカルの時間」では、「ライオンキング」のフィナーレを再現。キャストのひとりが「これまで8つの国でライオンキングを教えてきたが、人にはそれぞれ異なるストーリーがあるはず。それを見せてほしい」と参加者に伝え、レッスンがスタートした。躍動感あふれる太鼓の音をバックに、歌い上げる「サークル・オブ・ライフ」。「自分たちもまた自然の一部である」という歌詞の意味を考えながら、参加者たちはその世界観を全身で表した。最後はヤングアメリカンズ流の「おじぎ」、そして「イフ・ウィ・ホールド・オン・トゥゲザー」を歌いながら、歌詞の世界を手話で表現するパートをレクチャー。これで一連のレッスンが終了した。
10分ほどの休憩をはさんだ後、キャスト・参加者ともにおそろいのTシャツを着用し、いよいよリハーサルへ。実はここまでのレッスンパートをつなげると、トータル20分ほどのショーになる。ここで初めて通しでパフォーマンスを行い、最後の「本番」へと備えた。本番のショーでは参加者一人ひとりに、「ソロパート」や「見せ場」が与えられている。その瞬間を思わず想像してしまうのか、参加者の間にどことなく緊張感が漂ってくる。
実はサプライズとして、YAキャストによる10分間のショーが用意されていた。自分たちの本番を前に、思わずそのパフォーマンスに引き込まれる参加者たち。最後に「上を向いて歩こう」を、日本語の歌詞そのままに歌い上げ、本番へと繋いだ。
集まった観客らが着席すると、いよいよ本番がスタート。ダンスの見せ場でポーズを決める子、ソロパートをしっかりと歌い上げる子。たった4時間の練習で仕上げたとは思えない堂々としたパフォーマンスに、観客たちも拍手を送っていた。
「はじめはちょっと不安だったけど、YAの人たちはわかりやすい単語で、ダンスのコツを上手に教えてくれる。最後の方はめちゃめちゃ楽しかった」と話す、中学生の女の子。またソロパートを堂々を歌い上げた小学生は「自分が人前で歌うなんてって思ったけれど、いざやってみたら、なんだか自信がついちゃった」と笑う。はじめのとまどいはウソのように消え、参加者たちはキャストと、長年の友だちのようにふれあっていた。音楽やダンスが軽々と国境を超え、新しい絆を育む。その可能性を、まさに肌身に感じた一日だった。

ザ・ヤングアメリカンズ

1962年、若者の素晴らしさを音楽によって社会に伝えようと、ミルトン・C・アンダーソンによって設立された非営利活動団体。音楽と教育を活動の二本柱とし、18~25歳の若者たち約300名で構成されている。アメリカでは数多くの音楽番組に出演、6人の大統領から招かれるなど、歌やダンス、そして楽器演奏など数々のパフォーマンスをおこなう。彼らを描いたドキュメンタリーフィルムはアカデミー賞も獲得。

文/吉田美奈子 撮影/栗木妙