組織の力

2021.04.12

いま取り組むべきオフィスの防災とは?〈前編〉

コロナ禍で変化するオフィス防災

東日本大震災から10年。備蓄品の賞味期限を前にオフィス防災を見直す時期を迎えている。コロナの感染症対策が必須な今、防災対策に関する新たな課題も出てきた。早急の課題と今後の防災対策について、コクヨ株式会社HSソリューション部マーケティンググループで企業の防災プランニングを担当する相田勇輝氏が解説する。

with/afterコロナの防災対策

ポイント1:管理レス

こうした新たな課題を解決するポイントの1つ目が、「シンプルで管理レスな防災」です。まず、防災用品の管理・運用をシンプルにし、防災担当者が不在でも、社員が自ら防災備品にアクセスできるようにすることです。

そこでオススメなのが、あらかじめ一人分の水、食料、簡易トイレ、毛布をまとめた、1日分の個人備蓄セットです。

この1日分の個人備蓄セットを社員に配布し、個々人で管理してもらいます。在宅勤務がメインの社員は、個人備蓄セットを自宅に持って帰ってもいいでしょう。

1_org_129_02.png フリーアドレスで固定席がない場合は、「見せる防災」がおすすめです。1日分の個人備蓄セットを執務エリアの収納棚の下段など「見える場所」に保管することで、災害時に担当者がいなくても、社員が備蓄品を取り出せるうえ、普段から「ここに防災用品ある」という意識づけができます。

1_org_129_03.png 防災備品の保管は社員にわかりやすく、使いやすい工夫をすることがポイントです。


ポイント2:感染対策の徹底

コロナ禍の防災における2つ目のポイントは「感染対策の徹底」です。備蓄品を選ぶ場合も、接触や密を避けた運用が可能なものを選ぶ必要があります。

例えば、多くの企業が水や食料をケース単位で購入し、全社員分を一カ所でまとめて備蓄していますが、災害時にはそれを仕分けし、社員一人ひとりに配る必要が出てきます。仕分けや配布で多くの人の手に触れたり、人が集まって密になると感染の危険性が高まります。

そのため、ポイント1で紹介した1日分の個人備蓄セットのように、あらかじめ一人分の備蓄品をセットにしておき、事前配布や「見せる防災」で、仕分けや配布なしで使える備蓄方法にしておくことで、災害時の接触機会を大幅に減らすことができます。

1_org_129_04.png また、マスクや食器類など、唾液がついた廃棄物も感染源になります。感染性リスクの高いゴミは通常のゴミと捨てる場所を分けるなど、ゴミの捨て方や保管方法のルールを事前に決めておくことも必要です。


ポイント3:防災対策は社員一人ひとりの責任へ

ポイントの3つ目は、防災対策を担当者の責任から「社員一人ひとりの責任」とすることです。これまでオフィス防災・企業防災は担当者のみで行う仕事と思われがちでしたが、本来は企業全体、社員全体で行うべきことです。

防災担当者だけでは運用できないという事実が浮き彫りになった今、コロナ禍を機に従来の防災対策を見直しましょう。

今後は、災害時に防災担当者が不在であることを想定し、社員一人ひとりが「自分の身は自分で守り、自分から動く」という意識をもつことが必要です。

ポイント1で紹介した「見せる防災」もそうですが、防災用品やAEDの設置場所を社員が日頃から目にしやすい所にしたり、使い方をわかりやすく掲示するなど、とっさの時に社員自らが動けるよう、防災対策を工夫しましょう。

同時に、社員自身も普段から防災意識を高め、災害時に自分たちで対応できるよう心がけることが重要です。防災訓練などもその一つですが、ポイント1と2で紹介したように、シンプルに見える化するだけでも、社員が行動する際のハードルを下げることができるでしょう。

1_org_129_05.png 次回は、防災用品の選び方や管理法など、オフィス防災・企業防災の基礎知識をご紹介します。



相田 勇輝(Aida Yuki)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部 マーケティング本部 HSソリューション部 マーケティンググループ プランナー。2015年、コクヨ株式会社入社。同年より防災事業に参画。年間数百件に及ぶ企業防災のプランニングを行ない、防災担当者との対話を通じた持続性のある取り組みの実現を目指している。また、オフィス防災Lab.リサーチャーとして、実際に防災用品を使用する、被災時下の状況を再現するなどして、想定だけではない実体験に根差した提案を追及している。

文/籔智子