組織の力

2020.07.30

今、日本企業に求められる「信頼でつながる雇用」②

「アライアンス」な信頼関係をつくるフラットなコミュニケーション

「アライアンス」とは、アメリカで出版された書籍『The Alliance』で紹介されている、信頼をベースとしたフラットな雇用関係だ。本書の日本語版『ALLIANCE アライアンス 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』の監訳者であるエール株式会社取締役の篠田真貴子氏は、「テレワークで働く人が増え、信頼のあり方が問い直されている今だからこそ、日本企業でもアライアンスの価値観に注目してみることは有益だと思います」と提案する。

 
後編では、日本でアライアンスな関係を築くために、現場マネージャーと部下がそれぞれ意識したいことや具体的なアクションについてお聞きする。

社会と企業をつなぐフラットな
ネットワーク情報収集力を育てる

また、社外と積極的に交流するよう部下を促すことも、マネージャーの役割だという。仕事で直接つながりのない人とも会って情報交換することで、さまざまな業界から生の情報をキャッチできるからだ。ここで得た知識や情報が、思わぬ新規事業につながる可能性もある。

「特に役立つのは、社外秘ではないけれど、その企業の社員からしか得られない情報です。マネージャーは部下に、このような情報をキャッチしてくるよう促すとよいでしょう。ただ、相手から一方的に情報を得るのは難しいので、部下も社内の情報を外部と共有する必要があります。このときにマネージャーは、どの情報なら社外の人に話してもいいかを一緒に整理してあげると、部下は安心して社外とコミュニケーションできます」

部下が社外とのコミュニケーションをもつ時間について、マネージャーの中には「直接仕事に関係がないことなら、業務時間外に行ってほしい」と考える人がいるかもしれない。しかし篠田氏は、「部下が社外から得てくる情報をもとにして、ビジネスチャンスが生まれる可能性は十分にある」と指摘する。

だから、例えば部下が社外の人脈をつくるためのランチタイムなら、「2時間行ってきていいよ」と時間のゆとりを認めるなどして、会社として奨励する姿勢を示すことも大切だと話す。

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「社外ネットワークを拡げる方法としてオススメなのが、社外の友達とランチをするときに、『お互いにおもしろい人を1人連れてこよう』と持ちかけることです。週1回でも初対面の人と会う習慣をつければ、1年後にはネットワークの拡がりは計り知れません。マネージャーの方は部下にアドバイスしてみてはいかがでしょうか」

そしてもちろん、マネージャーに促されるまでもなく、部下自身が社外にネットワークを拡げようと心がけることも大切だ。『ALLIANCE』では、企業が"卒業生"(元社員)のネットワークをつくる事例が紹介されている。日本ではこのようなスタイルを実践する企業はまだ少ないが、転職経験の有無にかかわらず、SNSを活用して自分なりの人脈を築く人は多いはずだ。

「私自身も、この10年ほどはしばらく会っていなかった人とFacebookでつながりを持てるようになり、楽しく交流しています。新卒で勤めた日本長期信用銀行の元同僚や先輩からも、いろいろな人を紹介してもらい、人脈を拡げることができました」

「同行は1998年に経営破綻し、一緒に働いていた人たちはさまざまな企業に転職したり、起業したりしています。新天地で活躍する仲間とやりとりするうちに、新しい友人・知人がどんどん増え、仕事に役立つ情報もたくさんいただいています」



テレワークが増える今こそ
アライアンス的な関係構築が求められている

アライアンスな関係をつくることで、ワーカーにも企業にも大きなメリットがある。そして新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにワークスタイルが大きく変わりつつある今、「ワーカーと企業が信頼関係を形成することは、より重要になってくる」と篠田氏は提言する。

「これまではマネージャーと部下が同じオフィスで働くことが多く、自然と信頼関係をつくれていた面もあるでしょう。しかし、テレワーク中心の働き方が続く中で、よりオープンでフラットなコミュニケーションを意図的に設計することが求められています」

「例えばオンラインで打ち合わせをするにしても、あえて雑談を交えたり、上司が『大変だよね』と本音をこぼしたりすることで、互いの信頼感が深まるのではないでしょうか」

普段の働き方でもアライアンスを意識することで、マネージャーと部下、そして企業とワーカーの関係はよりよいものになっていく。まずは身近な上司、あるいは部下とのコミュニケーションを少し変えるところから始めてはどうだろうか。

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篠田 真貴子(Shinoda Makiko)


慶應義塾大学経済学部卒。米ペンシルバニア大学ウォートン校でMBA、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論修士を取得。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレ、ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)を経て、2020年よりエール株式会社取締役。1on1の業務委託サービス「YeLL」を運営する同社で、「聴く体験」を軸にした社会変革をめざす。『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(リード・ホフマン、ベン・カスノーカ、クリス・イェ著 ダイヤモンド社)の監訳を手がける。

文/横堀夏代