仕事のプロ

2020.05.26

いますぐ身につけたいビジネスチャットのお作法

SNSチャットの特性を生かしてビジネスを加速させる

近年はビジネスでもSNSチャットが普及しつつあるが、「チャットはフランクすぎて仕事で使うのは抵抗がある」「メールでもいいのでは?」といったストレスを抱える人もいるのではないだろうか。しかし、「全員がリモートワーク勤務」というユニークな形態の企業を経営するK.S.ロジャース株式会社代表取締役社長民輪一博氏は、「チャットに抵抗がある人でも、使い慣れればメールとは違ったメリットを実感できると思います」と力説する。家族や友人とのプライベートなコミュニケーションなどにLINEを使っている人は多いが、新型コロナウイルス感染拡大に伴ってリモートワークが急速に普及しつつあり、ビジネスでもチャットによるリアルタイムコミュニケーションが今後ますます必要になると予想される。民輪氏が実践している方法をヒントに、ビジネスチャットの「お作法」を身につけよう。

チャットだからといっても
ビジネスの場合は、必ずしも短文にまとめる必要はない

民輪氏はビジネスでもプライベートでもチャットを使っている。プライベートのチャットでは、メッセージはできるだけ短くまとめ、何回もレスポンスをすることを心がけているという。しかしビジネスチャットでは、「必ずしもショートメッセージである必要はない」という。

「もちろん、基本的には1回のメッセージは短文にまとめる方がベターです。ただし、簡潔さを目指すあまり伝達不足に陥るよりは、むしろ長くなっても必要な情報を伝えきることが大切だと考えています。メールと同じで、複雑な内容は箇条書きにしたり、5W1Hを意識したりして、誰が読んでも同じ情報を読み取れるような、ロジカルな書き方を心がけるべきです。僕自身も、弊社の仕事をするようになって日が浅いメンバーには、誤解されないていねいな文を書くようにしています」

特に注意が必要なのは、他人にタスクを任せるときの伝え方だ。内容だけでなく、そのタスクが必要になった背景も説明することが大切だという。

「業務の内容だけだと、望んだアウトプットがあがってこない場合が多々ありますからね。仕事を任された側の人も、わからないことがあったら1人で抱え込まず、最終アウトプットを出す前に背景説明を求めたり、早めに相談したりすることが大切です。その点でチャットは、投げた質問に対してクイックなレスポンスが返ってきやすいので便利だと思います」



オンラインのマネジメントは
メリハリのあるコミュニケーションとツールの使い分けがポイント

リモートワークが普及するにつれて、「それぞれのメンバーが離れた場所で働く中で、組織力をいかに上げるか」という課題も浮上してきている。民輪氏の会社も従業員全員がリモートワークであり、マネジメントには苦労しているそうだ。

「コミュニティマネージャーを立ててメンバーのモチベーション管理に取り組んでもらったり、あまりにもドライなやりとりにならないようチャットで雑談を挟んだり、厳しく注意した後には励ましの言葉をプラスするなどして試行錯誤していますが、やはり難しいですね」
中でも気を遣うのが、従業員に注意を促す場面だという。

「基本的には、個別でメッセージを投げますが、あえて全体を引き締めるためにメンバー全員に厳しい言葉を向けるときもあります。何回か注意しても仕事のやり方に改善がみられないなら、めったにないことですが、オンライン通話で話すこともあります。チャットの使い方やツールの使い分けによって、効果的な伝え方を心がけています」

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組織力の向上には
業務の状況をメンバー全員が同等に把握することが重要

各プロジェクトはチームをつくって取り組んでいるが、メンバー同士が離れた場所にいるからこそ、チーム全体の状況を常に共有していくことが大切、と民輪氏は強調する。

「例えば5人のチームで取り組んでいるプロジェクトの中で、メンバーのAさんがBさんにタスクを依頼する場合は、Bさんだけに向けたプライベートチャットではなく、チーム全員のチャットで『バイネーム』(『@』などを使って誰宛のメッセージかを指定すること)をつけることをルールにしています。この方法なら、他のメンバーも業務全体の進捗状況を把握できますし、『そのタスクから派生する業務に向けて準備を進めておこう』などと考えてスムーズに動くことができます」

誰がどのタスクを担当しているのかを共有することで、全員が疎外感を感じずに"ONE TEAM"になれるのは大きなメリットといえそうだ。リーダーからの発信だけでなく、メンバー間の共有こそが組織力を高めるポイントと言えそうだ。

SNSチャットの長所を生かせば、よりスピーディに仕事を進めていくことも可能だ。民輪氏のアドバイスも参考にしながらトライ&エラーを積み重ねて、メンバーの持ち味や組織、業務内容にフィットするチャットの方法論を編み出していこう。


民輪 一博(Tamiwa Kazuhiro)

K.S.ロジャース株式会社代表取締役。京都大学大学院工学研究科電気工学専攻卒業。学生時代に学生ベンチャーを立ち上げ、卒業後にもAI系スタートアップに参画した後に、2017年にK.S.ロジャース株式会社を設立。政府機関や大手企業のシステム開発などを手がける。現在、リモートワークでのマネジメントに取り組む中間管理職を対象にしたサポートツールを開発中。


K.S.ロジャース株式会社
「エンジニアにとって最も働きやすい環境を作る」をミッションに掲げて2017年に創業。WEB・アプリケーションの新規開発・運営支援、CTOコンサルティングなどを手がける。従業員である約70名のエンジニアがフルリモート勤務を行い、「フルフレックス・雇用形態の切り替え自由・副業自由」というフレキシブルな働き方を実現。

文/横堀 夏代