ライフのコツ

2020.01.20

ホームオフィスも時短勤務も気兼ねなく活用

ドイツのワーキングマザーのゆとりある働き方とは

自動車産業などの製造業が盛んで、マジメで勤勉な気質も日本人と似ているといわれるドイツ。しかし、これまで家庭よりも仕事を優先してきた日本とは違い、ドイツの人々は家族との時間やプライベートを何よりも大事にし、残業はほとんどしません。ホームオフィスやフレックスタイム制度の活用も進んでいて、子育てをしながらでも無理なく働ける環境が整っています。世界各国の働き方をご紹介する連載の第5回目は、自由でゆとりある働き方が浸透しているドイツからのリポートです。

ホームオフィスの活用で
無駄な通勤時間をカット
ドイツでは近年、ホームオフィスを活用する働き方が浸透してきています。ホームオフィスとは、出社せずに自宅勤務をするワークスタイルで、週に1~3日ほど出勤し、あとは家で仕事をするというのが一般的な働き方です。通勤にかかる時間やストレスが軽減され、子どもの急な発熱や学校のちょっとした用事などにも対応しやすいなど、ワーキングマザーにとっては理想の働き方といえるでしょう。
たとえば、毎週月・金は出勤し、火~木曜日は自宅勤務とか、ミーティングや打ち合わせがある日だけ出勤するとか、会社や人によってその活用方法はまちまちです。営業職の場合なら、自宅から直接、顧客のところに出向き、何件か外回りをしてそのまま帰宅するといった働き方も可能です。会社によっては、当日の朝に出勤するか自宅勤務にするかを決めて連絡すればOKというケースもあります。また、会社で仕事をした方がはかどるという人は、週に1日だけの自宅勤務で、残りは出勤するなど、自分が働きやすいよう自由にワークスタイルを選べるのが大きな特徴です。
出退勤の管理はパソコン上のシステムに入力するというスタイルが多く、基本的には自己申告ですが、それによるトラブルはあまり聞かれません。日本と同じようにマジメな国民性だからでしょうか。他の社員とのコミュニケーション不足も心配ですが、週に数回出社したときに話をするだけでも十分に対応できます。必要なときは電話やメールを使えばOK。連絡がとれないということのないよう、自宅勤務の日は電話の着信に特に気をつけているといった声も聞かれます。ホームオフィスという便利な制度を「使わせてもらっている」という意識があり、周りに迷惑をかけないよう十分に配慮している人が多いのです。だからこそ、大きなトラブルも起きにくいのでしょう。
最近では、「ホームオフィスOK」と明記された求人広告を目にすることも多くなりました。また、規定がなくても、上司との交渉次第で自宅勤務が可能になることもあります。特にワーキングマザーに対しては柔軟に対応してくれる企業が多く、自分のライフスタイルに合った自由な働き方を選択できるようになっています。
労働時間貯蓄制度で
残業時間を実質ゼロに
残業が少ないというのもドイツの人々の働き方の特徴です。とはいっても仕事が忙しく、定時までに終わらないということもあります。そういうときに便利なのが「労働時間貯蓄制度」です。たとえば2時間残業したら、翌日は2時間遅く出社するというように、労働時間をトータルで考えることで、実質的な残業時間をゼロにできるのです。
基本的には週単位で帳尻を合わせる企業が多く、法定労働時間は週40時間(1日8時間×5日)となっています。ワーキングマザーの場合は時短勤務を取り入れる人も多いので、「私は週30時間契約にしているわ」「私は週26時間よ」というように、勤務時間を週単位でとらえるのが一般的です。
日本でも出産後に時短勤務を取り入れるケースは多くなっていますが、1~2時間早く退社する、あるいは遅めに出勤するという固定的な働き方が大半なので、ドイツの自由な働き方を羨ましく感じる人も多いのではないでしょうか。極端なケースを挙げると、16時間分残業し、2日間休みにするといったことも可能です。また、週初めに長めに働き、金曜日の午後は早く退社して週末をゆったりと過ごすという人もいます。実際、「うちのオフィスは、金曜日の14時以降はほとんど人がいない」などという声も聞かれたりします。
ドイツと日本では、残業に対する意識の違いも顕著です。日本ではバリバリ残業をして成果を上げるのが優秀な社員とみられがちですが、ドイツでは残業が多い人は効率が悪いとみなされ、残業しなければ終わらないような仕事を配分したマネージメント側の責任が問われることもあります。
また、日本人は納期絶対主義ですが、ドイツ人は仕事よりプライベートを大事にするため、仕事が終わらなくても定時には帰ってしまったりします。そのために納期が遅れても「しょうがない」という認識なのです。ホームオフィスや労働時間貯蓄制度などの利用でオフィスがガラガラになり、窓口での顧客対応が手薄になることもあります。こうしたサービスの質の低下は日本なら大問題になりますが、ドイツでは「対応する人がいないのだからしょうがない」と考える人が大半で、働き方の自由と引き換えに、多少の不便さには目をつむるといった側面があることは否めません。
男性も育休を取るのが
当たり前
育児休暇制度については、女性の産休は14週間で、給与は100%保障されます。出産後、最長3年間の育児休暇を取ることができ、この期間を夫婦でわけることも可能です。ただし、給与保障(元の給与の67%)があるのは1年間のみです。そのため、2~3年という長いスパンで育休を取る人はそれほど多くありませんが、復職後は時短勤務を選択する女性が多く、出産前の60%程度の勤務時間、つまり週25時間前後働くというパターンが多くなっています。
時短勤務は会社との契約次第でいつまでも継続可能で、子どもがかなり大きくなっても時短で働き続ける人もいますし、午前中だけ働くといった勤務形態をとる人もいます。日本人的には「みんなが頑張って働いているのに、自分だけ早く帰るのは申し訳ない」という気持ちになりそうですが、ドイツの人々は「自分の好きなように働くのが当たり前。子育てが大変なのはお互い様だから支え合おう」という意識なので、気兼ねしたり、社員同士の関係が悪くなったりすることもありません。
産後は有給休暇を取って休み、さらに1~2か月の育休を取るという男性もいます。妻と交代で育休を取り、家事から育児まで一手に引き受けるというケースもよくあります。ドイツの男性は普段から料理や掃除など何でもこなす人が多いので、子育てにおいても大きな戦力となります。
一方、妻の育休中に夫も1カ月前後の育休を取り、家族で長期旅行をするというのもよくある過ごし方です。ドイツの人々は「人生を楽しみたい」という欲求がオープンで、周りもそれを当然と受け止めているので、休みを取る社員にも好意的なのです。
このように、自由な働き方が浸透し、長期の休暇も気兼ねなく取れるドイツ。皆が自分に合った働き方をしているからこそ、お互い様だから支え合おうという意識が強くなり、仕事もスムーズに回っていくのでしょう。「マジメで勤勉」という気質が日本人と似ているといわれる一方で、プライベートを優先するために業務が滞ることもあるという意外な一面も垣間見られ、ドイツのイメージが少し変わりそうです。
     

斉藤悠子

グローバルママ研究所リサーチャー。出版社勤務を経て、2009~2015年まで台湾・台北に在住。在台中は大学の語学センターで中国語を勉強。帰国後はフリーライター兼編集者として、台湾情報やインタビュー記事、子育てやビジネス関連の記事などを執筆。夫と娘二人の4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。