ライフのコツ

2019.10.23

グローバル化の今こそ、愛国心を育む

世界の学び/インドネシアのキャラクター教育とは?

世界の教育情報第25回目はインドネシアから。インターネットやソーシャルメディアの急激な発展により海外からの情報流入はとどまる気配がありません。グローバル化が急速に進むなか、インドネシア政府は2016年から「キャラクター教育強化プログラム= PPK( Program PenguatanPendidikanKarakter )」を推進しています。インドネシア人としてのアイデンティティを重視する人材育成を目的とした「キャラクター教育」とは、一体どのようなものでしょうか。今回はその全容を紹介します。

グローバル化が生む
インドネシアの文化・宗教問題
ASEAN(東南アジア諸国連合)の実現によって東南アジア近隣諸国との自由競争が始まり、さらなる経済成長が期待されるインドネシア。ヒト・モノ・カネが自由に行き来することで競争の激化が予測されるなか、インドネシアの将来を担う人材の育成やグローバル人材の必要性が強く認識されてきています。
しかし、グローバル化が進む一方で、経済の自由化により流入してくる中国人をはじめとした海外からの労働者への反発や仕事を取られる不満も高まっています。また、インドネシアではイスラム教が9割近くを占めていますが、外国人労働者の流入と同時に民族・文化・宗教が多様化したことで、それに反発するようにイスラム原理主義の暴力的かつ過激な価値観が台頭してきています。
自由化により欧米式の学校も増えるなか、競うようにイスラム教の学校『統合学園(小・中・高等学校)』も2004年頃から急激に増加。もちろん統合学園=イスラム原理主義ではないものの、原理主義にもとづいた一部の統合学園は一般的に情報公開が少なく過激な思想の温床となる可能性があるとして世間から警戒される存在となっています。またイスラム原理主義の他にも、キリスト教や仏教、ヒンドゥー教の少数派の信者とイスラム教徒との民族間の対立が度々起きています
キャラクター教育によって
育成すべき人材像
こうした文化・宗教的課題に対し、インドネシアでは愛国精神を育むことを目的とした「キャラクター教育」が強化されるようになりました。
この「キャラクター教育」で重視されたのが、インドネシア建国の父初代スカルノ大統領が1945年に定めた建国5原則「パンチャシラ」です。1998年のスハルト政権の崩壊とともにパンチャシラ離れが進みますが、2013年に施行されたキャラクター教育においてその重要性が見直されました。
パンチャシラは、「唯一神への信仰」、「人道主義」、「インドネシアの統一」、「民主主義」、「社会的公正」という5つの原則から成り立っています。すべてのインドネシア人はパンチャシラを暗唱することが求められ、インドネシア国籍を取得したい場合には、国歌およびパンチャシラを間違うことなく歌うことが求められています。
2016年に強化されたキャラクター教育のカリキュラムでは、パンチャシラに基づいて派生した「宗教的な価値観」、「ナショナリズム(愛国心の価値観)」、「誠実さ」、「独立性」、「相互協力」という5つの価値原理を重視し、インドネシアが必要としている穏健派の愛国主義を支持する人材の育成をめざしています。
学校・家庭・地域を横断して
愛国心を育むキャラクター教育
キャラクター教育施行当初、カリキュラムを導入した学校は542校のみでしたが年々その数は増え、2019年現在では218,989校。その導入率は小学校で70%、中学60%となっています。なお、インドネシアの義務教育は日本と同じく小学校6年、中学校3年制で、義務教育修了後は高校への進学が一般的です。
キャラクター教育のカリキュラム内容は各学校で自由に決めることができます。現在、授業は月曜から金曜の週5日制で、それまでの詰め込み型からからゆとり教育へとシフト。国語、理科、社会などの授業にナショナリズム、相互協力、宗教などのトピックを自然に盛り込む形で、部活でもキャラクター教育を取り入れたボーイスカウト部、赤十字部などがあります。
また、月曜の朝礼、毎日のお祈り、愛国心をテーマにした歌の時間、授業前の民話の読書タイムなど、昔ながらの古き良き教えを自然に浸透させるためのアクティビティもキャラクター教育を支えています。
2013年のキャラクター教育導入時と比べて2016年以降の取り組みでは、教育現場だけでなく家庭やコミュニティを巻き込んでいることも特徴です。お祭りなどの行事や町内会の清掃活動への積極的な参加といったにコミュニティを大切にする活動も、キャラクター教育の一環となっているのです。
キャラクター教育によって
期待される効果とインドネシアの国際化
インドネシアの学力は、2015年のPISA国際学力調査で72か国中64位。また、公立校と私立の国際学校との学力格差も大きいなど、キャラクター教育が学力向上につながっていないという課題もあります。しかし、キャラクター教育導入以前の、徹底した学力重視によってこどもたちの性格がゆがんだと考える保護者や、暴動や過激なデモの報道に日々心を痛めている保護者は、「こどものうちは、能力や学力だけでなく平和を好む性格や温厚な人格形成が大事」だとし、キャラクター教育に好意的です。
一方、2005年前後からは欧米式の教育を導入した国際学校も増加。授業料は高額ですグローバルな校風や学力を重視するキリスト教徒や中国系インドネシアの富裕層に支持されています。また、グローバル人財育成のために企業との連携に積極的な高等専門学校も増えています。
激しく変化する政治情勢の渦中で、宗教対立の緩和とともに国際化が求められるインドネシア。そんなインドネシアをさらに発展へと導くために、温和な愛国精神、および、グローバルな視点を育むべく、キャラクター教育を中心とした取り組みが行われています。

ハモンド綾子

グローバルママ研究所リサーチャー。日本でメディア会社勤務後、1999年渡英。ファッション/ホテル業界勤務を経て、2006年よりライター/リサーチャー/翻訳者として活動中。イギリス人の夫、バイリンガルの息子2人と4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。