ライフのコツ

2019.09.20

ロシアは女性リーダーの数が世界一

働きやすさの背景と出生率V字回復の秘策とは

ロシアでは企業のトップの半数近くを女性が占め、女性リーダー数世界一となっています。その背景には、旧ソ連時代に確立された男女平等の意識、祖父母が積極的に育児を担う社会的風習といった要因に加え、仕事も家事も育児もバリバリとこなすロシア女性のスーパーウーマンぶりがあります。また、低迷する出生率を回復させたプーチン大統領の施策「母親資本」も、働く女性の大きな支えとなっています。世界各国の働き方をご紹介する連載の第3回目は、こうしたロシアの現状をお伝えします。

ロシア女性はマルチタスクがお得意!?
国際機関Grant Thornton Internationalの調査によれば、企業トップに占める女性の割合は、ロシアが43%で第1位。アメリカは22%(11位)、日本は最下位(20位)の9%という結果になっており、ロシアにおける女性の活躍ぶりが目立ちます。
その背景として考えられるのは、旧ソ連時代から続く男女平等意識の高さでしょう。1917年のロシア革命以降、共産主義者たちが男女同権という方針を徹底させてきた結果、ロシアを含む旧ソ連諸国では女性経営者の比率が軒並み高くなっています。
一方で、ロシア人男性は家事をしないという調査結果もあります。各種統計調査会社Romirによる調査では、皿洗いをする男性は6%、料理を作る男性は3%となっており、ほとんどの家事を女性がこなしている実態が伺えます。そもそもロシアでは「家事をする男なんて弱い」という意識があり、男性も女性も「家事は女の仕事」だと考えているのです。
ロシアでは男性は家に帰ってくると、ウォッカを飲みながらのんびりと過ごすのが一般的。一方、女性はせっせと料理や掃除などの家事をこなします。外では男女同じように働いているのに、家では女性だけが忙しいなんて、なんだか不公平な気もしますが、ロシアではそういった不満はあまり聞かれません。
というのも、ロシア女性は昔から独立心旺盛で、頑固で気が強いといわれており、「ロシア女性は走っている馬を止め、燃えている家に入る」という有名な詩人の言葉もあるほどなのです。「男性の助けなんていらない」というのがロシア女性の本音で、家事も自分でやるほうが早い、もしくは自分で稼いだお金で外部サービスを頼んだほうがいいというわけです。実際、国際的な企業では「ぜひロシア女性を採用したい。有能で、言い訳もしないから」という声もよく聞かれます。
休暇日数は日本の倍以上
仕事も家事もバリバリとこなすロシア女性ですが、日本のモーレツ社員のように残業三昧で休日も返上などということはありません。残業は年間120時間までと労働法で定められており、基本的に残業はしないというのがロシア人の習慣です。
また、ほとんどの企業でフレックスタイム制が導入され、時差出勤する人も多くいます。実はロシアの首都・モスクワは車の渋滞率が世界一(INRIX調べ)で、これを回避するためにフレックスタイム制が急速に浸透したのです。
有給休暇は年間28日間で(うち14日間は連続で取得)、さらに祝日などの公休日が33日もあり(土日を除く/2019年の場合)、合わせると約60日もの休暇があります。日本では祝日が15日、有給休暇は一般的に最大で20日間となっていますが、ほとんどの人が有休を使い切るロシアとは違い、消化率が極めて低いのが現状です。2019年4月より5日間の有休取得が義務化されましたが、年末年始の休みと併せても、実質的な休暇日数はロシアの半分以下といえます。
では、これほど多くの休暇を、ロシアの人たちはどのように過ごしているのでしょうか?
経済的に統制されていた旧ソ連時代には、国から「プチョーフカ」という名の旅行チケットが配布されたり、全世帯に「ダーチャ」と呼ばれるセカンドハウスが支給されるといった福利厚生制度があったため、今でもその名残で、連続休暇には長期の旅行や郊外でのセカンドハウス暮らしを楽しむのが定番です。ロシアは冬が長いので、太陽を求めて海外のリゾート地に行くという人も大勢います。休暇は当然の権利としてきっちりと休み、しっかりリフレッシュするのがロシア流なのです。
「母親資本」の導入で出生率がV字回復
ソ連崩壊後、経済や社会的混乱が続いたロシアでは、出生率も低迷。1999年には1.16まで落ち込み、人口減少が加速しました。そこで、プーチン大統領は人口増加を国家プロジェクトに指定し、「母親資本制度」と呼ばれる施策を2007年から実施。これは第2子以降の出産に際し、母親に25万ルーブル(当時のレートで約110万円)を住宅費、教育費、年金加算などの形で支給するというもので、現在は45万ルーブル(平均月収の7~8か月分)まで増額されています。この結果、2015年には出生率が1.75まで回復しました。
また、旧ソ連時代から残る多くの保育園や幼稚園も、働く女性を支える礎となっています。受け入れ人数も多いので、日本でよく見られる待機児童問題もありません。保育時間は朝8時~夜7時までで、朝食、昼食、おやつ、さらに夕食まで食べさせてくれるという充実ぶり。しかも、保育料は平均1200ルーブル(約2070円/月額)と格安です。このように、保育園のサービスが手厚く、預けやすいというのも、女性の働きやすさを後押ししてくれています。
祖父母が子育ての一端を担っている家庭も多く見られます。ロシアは学校の夏休みが3か月と長いため、両親の長期休暇だけではカバーできません。そこで、郊外に住む祖父母宅に3カ月間預けるというのが、夏休みの一つの過ごし方となっています。ときにはいとこ同士が祖父母の家に大集合ということもあり、子どもにとっては夏の楽しい思い出ともいえそうです。
平日は郊外に住む祖父母宅に子どもを預けっぱなしにして、週末だけ親子で過ごすという家庭もあります。また、子育てのために地方や近隣諸国に住む祖父母を呼び寄せ、一緒に暮らすというパターンもよく見られます。このように、祖父母が子育てに深く関わっているのも、働きやすさの一因といえるでしょう。
自分のやりたいことをするのがロシア流
ロシアには「生きるために働け、働くために生きるな」という古い諺があります。仕事はあくまで生活していくための手段であり、仕事のためにプライベートを犠牲にするといった感覚は、ロシア人にはありません。これは、どんな仕事でも、どんな働き方でも給料は同じという共産主義国時代の意識が根づいているからかもしれません。
土日や祝日の前日に休みを取って連休にする人も多いのですが、これも渋滞を避けてのんびりと旅行やセカンドハウス暮らしを楽しむためで、仕事よりプライベートを大事にするロシア人らしさの表れともいえそうです。
また、家事はほとんどしないというロシア男性ですが、子育てには積極的で、食事の世話から保育園などの送り迎え、遊びの相手まで何でもこなします。これは「母親を手伝う」という意識ではなく、わが子が可愛いから、一緒に過ごすのが楽しいから、子育てをするのは当たり前と考えているのです。
こうしてみると、日本人にありがちな「〇〇しなければならない」と考えて行動する生き方は、ちょっと窮屈な感じがしますよね。「働くために生きるな」というロシアの諺は、働き方を見直すよいきっかけになりそうです。

斉藤悠子

グローバルママ研究所リサーチャー。出版社勤務を経て、2009~2015年まで台湾・台北に在住。在台中は大学の語学センターで中国語を勉強。帰国後はフリーライター兼編集者として、台湾情報やインタビュー記事、子育てやビジネス関連の記事などを執筆。夫と娘二人の4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。