ライフのコツ

2019.08.28

ブラジルのパパは育休取得率ほぼ100%!

ワーキングマザーを支える休暇制度と文化的背景とは

世界各国のさまざまな働き方をご紹介する連載の第2回目は、長期休暇が取りやすいことで知られているブラジルです。母親自身の産休・育休はもちろん、父親も20日間の育休を取ることができ、その取得率はほぼ100%と、夫婦一緒に出産・育児に臨む習慣が根づいています。また、こどもの長期休暇に合わせて、親も30日間のバケーション休暇を取るという家庭も多く見られます。休暇制度をうまく利用し、オン・オフのメリハリをつけて働くブラジルの現状をご紹介します。

教育費の高さが少子化の引き金に
ブラジルでは15歳以上のブラジル人女性の68%が最低一人のこどもを出産しています。しかし、合計特殊出生率は1.7(2018年)で、減少傾向が続いています。1960年代には一家庭のこどもの数が平均6人と子だくさんなブラジルでしたが、現在はラテン・アメリカ12か国中最低の出生率で、少子化が社会問題の一つとなっています。
その一因として、教育費の高さがあげられます。ブラジルでは中間層(いわゆるサラリーマン家庭)や高所得者層(経営者など)のこどものほとんどが私立の学校に通っており、その高額な学費が大きな負担となっています。公立の学校もありますが、通っているのは低所得者層のこどもたちで、教育レベルもあまり高くありません。そのため、少なく産んで、その分お金をかけてよい教育を受けさせたいと考える親が増えているのです。
女性の晩婚化やキャリア志向も少子化に拍車をかけており、政府は妊娠した女性の支援に力を入れています。たとえば、妊婦検診を受けるために会社を休む場合は欠勤扱いにならず、有給休暇を使わなくても給料が保障されます。また、120日間の産休が認められており、その間の給料は政府から支払われます。多くの企業ではこれにプラスして、さらに60日間の育休を取ることもできます。
男性にも20日間の育児休暇が認められており、その取得率はなんと、ほぼ100%!ブラジルでは「こどもはおめでたいもの、神聖なもの」と考えられており、その誕生は人生において重要で喜ばしいことだという認識が社会全体に根づいているので、育休を取らずに仕事を優先することなどありえないのです。
妻の出産に立ち会うのも当然のことで、産後は妻の体をいたわり、役所への届出や買い物、赤ちゃんの世話などを積極的に引き受けてくれます。核家族が多く、日本のような里帰り出産の文化もないブラジルでは、この男性の育休取得が大きな助けとなっています。
連続30日間の有休休暇でリフレッシュ
ブラジルでは1年に1度、30日間連続の有休取得が認められており、この「バケーション休暇」を利用して旅行や家族との時間を楽しむのがスタンダードです。こどもの夏休みや冬休みに合わせて長期休暇を取る人も多く、人によっては10日間と20日間にわけて休むなどフレキシブルに利用していますが、「仕事が忙しいからバケーション休暇を取らない」などということはまずありません。休暇を取るのは労働者の当然の権利だと考えられているからです。
職場では、だれがいつ長期休暇を取るかを調整して年間スケジュールが立てられ、できるだけ仕事に支障が出ないよう配慮されています。ですが、日本ほど「納期厳守」の意識はなく、「〇〇さんが休みだから」という理由で納期が遅れるということもあります。休暇中は完全にオフモードで、仕事のために休日やプライベートをも返上して働くなんて、ブラジル人には考えられないのです。
この長期休暇はサラリーマンに限ったことではありません。病院の医師も30日間の有休を取って旅行に出かけるのが普通なため、かかりつけのお医者さんが休暇でいないということもよくあります。大きな病院であれば代わりの医師に診察してもらうこともできますが、開業医などの場合、休暇中は診療予約すら受け付けてくれません。急な病気のときに信頼できるお医者さんがつかまらないという事態も起こることがあるわけで、患者としては不安な面もありますが、それほどまでに休暇を大切にする意識が浸透しているともいえます。
一方で、有給休暇はバケーションを楽しむためのものなので、1日単位で休むという習慣はあまりありません。体調不良や役所での手続きといった用事で休む場合は、基本的に欠勤扱いとなります。会社によっては、残業した分の時間を「貯めて」おき、遅刻・早退や急な休みの際に振り替えられる「時間銀行」というシステムを導入しているところもあり、こどもの病気や用事で休みがちなワーキングマザーにとっても、大きな助けとなっています。
とはいえ、日本のような長時間の残業はほとんどありません。定時になったらさっと仕事を切り上げるのが普通で、退勤ラッシュのピークは17時半頃。家に帰って、家族と一緒に夕食を取り、ゆったりと過ごすのがブラジル人の暮らし方で、家族との時間を大切にする習慣がしっかりと根づいています。
ベビーシッターや家政婦が
共働き家庭の支えに
こどもの世話や簡単な家事をしてくれるベビーシッターや、掃除や料理などを全面的に引き受ける家政婦を雇う文化が根づいているのも、ブラジル社会の大きな特徴です。
ブラジルの学校は教員不足などの背景もあり、午前と午後の二部制になっていて、生徒はどちらかのコースを選んで通うのが一般的です。たとえば午前コースを選んだら、朝7時半頃から学校が始まり、12時には下校となるので、共働き家庭では対応できません。そんなとき、ベビーシッターがお迎えや帰宅後の世話をしてくれるのです。
ベビーシッターの料金は時給換算で500~900円程度(頻度が多かったり、長期契約だとより低料金に)と、日本の相場よりかなり安くなっています。ベビーシッターとして働いている人も多く、日中の公園ではこどもを遊ばせているベビーシッターの姿もよく見かけます。
このように、ベビーシッター文化が浸透しているため、産後の大変な時期は週5日など集中的にお願いしたり、こどもが少し大きくなってからは週1~3日ぐらいの頻度で来てもらうというように、多くの人がライフスタイルに合わせて上手にベビーシッターを活用しています。掃除やアイロンがけなどの細かい家事をこなしてくれる家政婦を雇う人も多くいます。そうやって育児や家事の負担を軽減できることも、ワーキングマザーの働きやすさを後押ししてくれているのです。
ブラジル人の働き方を見ると、日本人にはない「ゆとり」を感じます。こんなふうにワークライフバランスのとれた暮らし方ができれば、過労死や自殺といった社会問題も減っていくかもしれません。常に「仕事優先」という働き方ではなく、家族を大切にするブラジル人のあり方を見習ってみてはいかがでしょうか。

斉藤悠子

グローバルママ研究所リサーチャー。出版社勤務を経て、2009~2015年まで台湾・台北に在住。在台中は大学の語学センターで中国語を勉強。帰国後はフリーライター兼編集者として、台湾情報やインタビュー記事、子育てやビジネス関連の記事などを執筆。夫と娘二人の4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。