アンガーマネジメント

2018.11.02

怒りっぽい性格はトレーニングで克服できる

アンガーマネジメント5:「まあ許せる」範囲を拡げる

ムダに怒らなくなれば
周りも自分もラクになる

 これまでにもお伝えしてきたように、怒ることは人間にとって自然な感情であり、決して悪いことではありません。怒ることによるメリットもたくさんあります。ただし、小さな出来事にイライラやムカムカを感じてばかりたと、気力・体力ともに消耗しやすいのも事実です。
 
 そこで今回は、ちょっとしたことでキレなくなるためのトレーニング方法をお教えします。怒る回数が少なくなれば、周りの人とぶつかる場面が減って職場の人間関係がよりよくなります。そして何より、あなた自身がラクになるはずです。
 

自分が「まあ許せる」
範囲を知る

 

 怒りっぽい性格を手放すためには、まず「自分はどんなことに対して、どのくらい怒りを感じるのか」を知ることが大切です。怒りの傾向を知るための手段としては、「アンガーログ」をつけるとよいでしょう。何かに対して怒りを感じるたびに、日時や場所、できごと、怒りの強さを簡単に記録しておきます。
 
 1か月ほど記録を続ければ、「自分はどんなことで、どのくらい怒るのか」が明確になってくるはずです。自分の怒りの傾向がわかってきたら、「この基準を超えたら怒る」という境界線を見極めていきましょう。
 境界線を知るのには、「せめて」「最低限」「少なくとも」というフレーズが役立ちます。
 
たとえば「得意先を訪問するために待ち合わせをしたが、後輩の到着が時間ギリギリになった」というケースで考えてみましょう。イラッとはきても「まあ許せる」のはどんなときでしょうか。あなたの考えが「せめて2分前には到着してほしい」なら、「2分前までは『まあ許せる』範囲内だから叱らない」「2分前を過ぎたら『許せない』ゾーンに入るから叱ってよし」となるわけです。
 

「自分が変えられることか」「自分にとって重要か」の
視点を持って許容範囲を拡げる

 とはいえ、「私は『まあ許せる』範囲が狭い気がする」という人は多いでしょう。こんなときは、イラッとしたときに2つの観点からその出来事を見つめ直してみてください。
1つは「その出来事は自分で変えられることか」、もう1つは「自分にとって重要度が高いか」です。
 
 たとえば後輩が時間ギリギリにしか現れないケースなら、もし遅刻なら得意先の信用を落とすことになりかねないので、勤務先にとってもあなたにとっても重要度は高いといえます。ですから、「まあ許せる」ゾーンを超えた場合は怒りを表現してよいということになります。
 一方で、たとえば通勤電車の中でメイクをしている若い女性を見かけたときはどうでしょうか。マナーの悪さが気になるかもしれませんが、あなたがその女性に文句を言ってやめさせることは難しいでしょうし、あなた自身に被害が及ぶわけでもありません。つまり、怒ることはもちろん可能ですが、どちらかといえば怒り損というわけです。
 
 このように、2つの視点からさまざまな出来事を仕分けしていくことで、「怒りの許容範囲」は自然と拡がっていくはずです。
 

自分の価値観を確立することも
怒りを減らすのに役立つ

 社会生活においては、周りの価値観に影響されて怒ってしまうことも少なくありません。「世間体を気にして怒る」「劣等感を刺激されて怒りを感じる」などはその典型例といえるでしょう。自分なりの基準を持って怒ることには意味がありますが、周りの評価に振り回されるとキリがありませんし、疲れるばかりです。他人の価値観は脇に置いて、自分基準を確立していきましょう。
 
 他人の価値観に影響されない自分になるための方法としてご紹介したいのが、「買い物トレーニング」です。内容は簡単で、要は生活必需品以外のモノを買うときに、ブランド物など「周りに自慢できるから」という基準で買わずに、自分が気に入ったモノだけを買うことです。買い物という行動から「周りの目」という観点をなくしていくことで、しっかりした自分なりの価値観が育ってくるはずです。
 

安藤俊介(Ando Shunsuke)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アメリカでアンガーマネジメントを学び日本に導入した、アンガーマネジメントの第一人者。企業や官公庁、医療機関などでの講演・研修を通してアンガーマネジメントの普及に努める。『イライラしなくなるちょっとした習慣』(大和書房)、『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。著作は中国、台湾、韓国などでも翻訳され、累計30万部を超える。

イラスト/吉泉ゆう子