チェックワード

2017.06.23

「なし崩し」といっても 流れに任せることではない

本日のチェックワード41「なし崩し」

なし崩しに事を進めてしまえば、何とかなりますよ」

 例えば社内でのミーティングで、チームのメンバーが上記のような発言したときに、どんな印象を持ちますか? 「流れに任せて、こちらの都合のいいように進めてしまおう」といった、あまりよくないニュアンスを感じる人が多いのではないでしょうか。
「なし崩し」は本来、「物事を少しずつ済ませていくこと」という語義をもち、夏目漱石の『吾輩は猫である』にも登場します。ちなみに「なし」は「済し」と書き、江戸時代初期の文献には、「借金を少しずつ崩して(返済して)いくこと」という意味でこの言葉を使っている例がみられます。ところが、「崩」という漢字が「崩してうやむやにする」のようなニュアンスを連想させるためか、マイナスイメージのある表現として定着してしまいました。この意味を載せている辞書も少なくありません。
 もとの意味を考えると、なし崩しに仕事を進めることは「着実に取り組む」という意味合いになり、ビジネスの姿勢として非難されることは何もないのです。同僚や部下が何気なく口にしたら、本来の語意を教えてあげると、雑談のスパイスになりそうです。

この使い方で差が出る

なし崩しに、じっくり進めていきましょう。
・キミの仕事はいつもなし崩しで安心できるね。

監修/篠崎 晃一(Shinozaki Koichi)

東京女子大学教授。専門は方言学、社会言語学。『例解新国語辞典』(三省堂)編修代表や、テレビ番組「ワーズハウスへようこそ」(日本テレビ系)の監修など幅広い分野で活躍。『えっ?これっておかしいの!? マンガで気づく間違った日本語』(主婦の友社)など、日本語の誤用に関する著書も多い。