ライフのコツ

2017.03.10

現代っ子の体づくりのために-前編

足裏と呼吸の安定でこどもの姿勢が変わる!

まっすぐに立てない、長時間同じ姿勢ができない、運動が苦手など、こどもの基礎体力や運動能力の低下が問題視されている。アスレティック・トレーナーの山本邦子さんによると、日常動作にこそ体力づくりの基本があり、幼少期から体をつくり身体感覚を磨くことで、運動能力だけでなく心や知性にも大きな影響があるという。体づくりの基礎知識から家庭でできる実践方法まで、山本さんにお聞きした。

自分の体のクセや性質を知り、
目指すゴールを明確にする
山本さんは、全米アスレティック・トレーナー協会公認のアスレティック・トレーナーとして、長くアメリカを拠点に活動してきた。アスレティックという響きから、運動面を指導する職業をイメージしがちだが、アスレティック・トレーナーとはアスリートの健康をサポートする職業であり、アメリカの準医療従事者資格にもなっている。具体的には、アスリートの体の状態やケガの履歴から、ケガの予防のためのリハビリやテーピングをはじめ、心と体のサポートを総合的に行う。一方、アスリートがパフォーマンスを上げるための指導は、ストレングス・コーチやストレングス・トレーナーと呼ばれる別の有資格者が行う。山本さんの言葉を借りると、「マイナス要因を減らしてプラスにするのがアスレティックトレーナーで、その上にさらに積み上げていくのがストレングストレーナー(コーチ)」ということになる。
アスレティック・トレーナーとして、山本さんはプロゴルフファーの宮里藍選手、競馬の福永祐一騎手をはじめ、多くの一流アスリートを支えてきた。携わってきた競技もさまざまで、野球、柔道、競馬、バスケ、サッカー、ダンスなど実に幅広い。国内外でアスリートのサポートを続けつつ、現在は京都のスタジオにて、こどもからお年寄りまで幅広い世代の体づくりのサポートをしている。
「こどもでも大人でもアスリートでも、まず大切なのは、自分の体を知ることです。立つときに右側に重心を置いている、カバンはいつも左手に持っている、歩くときに内股気味、呼吸が浅い...など、自分のクセや性質を意識するだけで、たくさんの気づきがあるはずです。そのクセや性質は良し悪しで判断すべきものではありませんが、小さな差異やクセが故障や不具合につながる可能性があります。ですから、まずは身体感覚に耳を澄ませることから始めましょう。自分の体を知ることと同時に、どうなりたいか、という目的を明確にすることも大切です。腰痛を改善したい、速く走れるようになりたい、といった目的によって、アプローチ法も異なってきます」
足の裏をしっかりと地につけ、
体を支える土台をつくる
『伸びる子どもの、からだのつくり方――「かけっこ一番」をめざす前に、知っておきたい60のこと』より

体づくりの基本は、日常的な動作や姿勢にある。とくに姿勢は重要だ。背筋が曲がっている、すぐにぐにゃりとしてしまうなど、こどもの姿勢の悪さが気になっている親も少なくないだろう。「姿勢を良くする=背筋をピンと伸ばす」というイメージが強いが、実は姿勢を良くするためには、「足の裏」と「呼吸」がポイントになると山本さんはいう。

良い姿勢というのは、体に無理な負担がかからない姿勢のことであり、そのとき背骨は緩やかなS字カーブを描く。このS字をキープするためには体幹(鎖骨の下あたり〜骨盤まで)と土台となる足とを安定させる必要がある。だから、良い姿勢を保つためには、まずは足の裏が床や地面にしっかりと着いていることが重要なのだ。立っているときだけでなく、座っているときも同様。足は浮かさず床につけ、お尻が左右バランス良くイスに乗っていることが大切だ。

「お子さんの姿勢や落ち着きのなさが気になったら、足下を見てください。座っているときに足が浮いていたり、歩いているときにつま先立ちになったりしていないでしょうか。足の裏をしっかりとつけることで、姿勢や動作が安定するだけでなく、呼吸が落ち着いて心が安定し、血流が上がって脳の働きも良くなることがわかっています。こどもに伝えるときには、足の裏を地につけることがなぜ必要かを伝えてあげるといいでしょう。足をつけたら姿勢が楽になった、という感覚を自分で意識することもとても大切です」

深く吐く呼吸で、
姿勢も心も安定させる
また、体幹を安定させるためには、呼吸が重要になる。吸う呼吸により横隔膜が下がって肺に空気がたっぷり入ると、自然とお腹が安定し背筋が伸びる状態になるのだ。逆に、姿勢が悪いと呼吸が浅くなってしまうため、呼吸だけでなく体幹と足裏の安定も合わせて意識することが重要だ。
呼吸は自律神経に影響を与え、浅い呼吸は交感神経を、深い呼吸は副交感神経が優位になりやすい。交感神経が優位なときは、緊張・興奮状態にあり周囲に敏感になり、副交感神経が優位なときは、心も落ち着き一つのことへの内的な集中力が高まる。人間は自分の意思では自律神経をコントロールすることができないが、呼吸は唯一、自律神経に関わる自分でコントロールすることができる動作。つまり、呼吸を通して、心を望ましい状態に持っていくことができるのだ。
「浅い呼吸も深い呼吸も知り、目的に応じて興奮度や集中度を上げたり下げたり、自己コントロールができるようになることが重要です。一度、お子さんの呼吸の様子を観察してみてください。落ち着きがないときや癇癪を起こしているときは、呼吸が浅くなっているはずです。そんなときは、一緒に深呼吸をしてあげましょう。発達障害のあるお子さんは呼吸が浅い傾向にありますが、深い呼吸ができるようになるだけで、行動に落ち着きが出る事例が多く見られます」
後編では、浅くなりがちな呼吸を深くするための方法や、体づくりのために家庭でできることについて、具体的な方法を紹介していきます。

山本邦子

全米アスレティック・トレーナー協会公認アスレティック・トレーナー。有限会社トータルらいふけあ代表。『Aヨガ』主宰。日本とアメリカとを行き来しながら日米のトップアスリートや劇団四季の舞台俳優などの心身のケアに従事し、2009年からは宮里藍選手と契約。現在は活動拠点を日本に移し、Kyoto MBM Laboを拠点に子どもからお年寄りまで幅広い世代の体づくりをサポートする。

書籍
『伸びる子どもの、からだのつくり方
――「かけっこ一番」をめざす前に、知っておきたい60のこと』
森本貴義、山本邦子著、ポプラ社発行。
姿勢が悪い、転ぶとすぐに怪我をする――スポーツ教育熱が高まるいっぽう、基礎体力に不安のある子どもたちが増えている。本書は、姿勢、呼吸、動作、感覚、能(脳)力の5つの観点から、将来的に強いからだをつくる、60のヒントを紹介。足裏チェックや、触れて確かめる正しい呼吸の方法など、遊び感覚、親子で楽しめるプログラムも紹介。今日からあなたがお子さんのコーチ役、可能性を引き出しましょう。

文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ