ライフのコツ

2014.09.19

イタリアのこどもは海の幼稚園で成長する

世界の学び/イタリアの長い夏休みの過ごし方

世界の教育情報第5回目はイタリアから、関はるかさんのレポートです。イタリア在住22年。ブーツ型をしたイタリアのアドリア海側、ふくらはぎの下あたりに位置する海辺の町ペスカーラでイタリア人のパートナーと、4歳の男の子を育てている関さんにイタリアの幼稚園の夏休みについて語っていただきました。

夏には人口が多くなる海辺の町
今年もイタリアの長い長い夏休みが始まりました。イタリアのほとんどの小中学校は6月から約90日間の休みに入り、9月の第2週目ごろに新年度が始まります。実に日本の倍以上もある長い夏休み、イタリアのこどもたちはどんなふうに過ごしているのでしょうか・・・。
私たちの住むペスカーラは海辺の町なので、夏になると、都会からたくさんの人がやってきます。たとえば友達の家には、毎年夏休みになるとミラノから3人の甥っ子がやって来て、3ヶ月間賑やかな共同生活を楽しんでいます。ミラノに住む彼らの両親は、6,7月中は夫婦で交互に週末だけこどもたちの顔を見にやってくるだけですが、8月に入ると会社の休暇を利用して2週間ほどゆっくり家族揃って過ごしているようです。
このように普段は都心に住んでいる家庭のこどもたちが、帰省して祖父母や親類の家に滞在したり、別荘や長期滞在型のレジデンスでバカンスを過ごしたりする人が多くいるため、この町では夏になると人口が一気に増えるのが目に見えてわかります。
ペスカーラ市内の約10キロにわたる海岸沿いには、"海の家"(STABILIMENTO BALNEARE)が90軒近く立ち並んでいますが、7月半ばから8月いっぱいは、どこの駐車場も終日満車です。明るい色調のモダンな印象の建物で、清潔なシャワーやトイレ、更衣室などの設備も整った海の家は、レストランやピッツェリア、バールの他に、プール、テニスコートなどのレジャー設備などもあり、シーズン中は海水浴客だけでなく、食事などを楽しむ人たちで夜遅くまで賑わっています。滑り台やジャングルジムなど、こどものための遊具を設置しているところも多く、ペスカーラのこどもたちは6月の海開きを境に、公園から海辺へと一斉に移動します。
海を愛するイタリア人にとって、海の家はまるで"第二の自宅"。地元民も帰省組もバカンス客も、デッキチェアに寝そべって日がな一日過ごすので、ビーチパラソルのご近所さんは皆顔なじみ。こども同士も仲良くなってあそんだり、おやつやランチを一緒に食べたり、まるで大家族のように過ごします。
海の家に併設されたこどものあそび場。
海の家の駐輪場もこのとおりの混雑。
"海の幼稚園"はワーキングマザーの頼れる味方
両親が共働きの家庭では、平日こどもを海へ連れて行くのはベビーシッターや祖父母の仕事になりますが、保育園や幼稚園などが主催するサマースクールに通うこどもも多いようです。息子が昨年1年間通った私立の保育園でもサマースクールを開いています。我が家は息子の"海嫌い"をなんとかする目的でお世話になり、おかげでシーズン終盤には、水に入ってあそべるようになりました。
息子が通ったような保育園主催型のサマースクールは、ここペスカーラでは私が知っているだけでも10箇所近くの海の家で行われており、1日単位でこどもを預かってくれるところもあれば、月~金曜日まで(雨天時は幼稚園の施設を使用)、1ヶ月単位で月謝を支払うところもあります。息子の保育園の場合は、昼食代込みで1ヶ月320ユーロ(日本円で約4万3千円)でした。ベビーシッターの料金相場が1時間8~10ユーロくらいであることを考えると、サマースクールにこどもを預けるワーキングマザーが多いのも頷けます。
イタリアではサマーキャンプやサマースクールは「colonia estiva(コローニア・エスティーヴァ)」(夏季合宿)と呼ばれていて、もともとはムッソリーニの時代に、貧しい家庭のこどもたちに夏場だけでも海岸や山で健康な生活をさせたいという目的で生まれたものだそうです。わたしの息子が通ったようなタイプのサマースクールは、日本でならさしづめ"海の幼稚園"といったところでしょうか。
共働き家庭の需要に応え、夏の間のこどもの心身の健康を守るという本来のコローニアの意味だけは、時代を超えて現在も受け継がれているようです。
海の幼稚園にて。波打ち際へ向かう園児と先生。
関さんのお子さんの通った海の幼稚園。
"海の幼稚園"の一日
そんなイタリアの"海の幼稚園"で、どんな活動が行なわれているかご紹介します。
海から遠距離にある幼稚園では、スクールバスで園児を海まで送迎しているところもありますが、息子の保育園では朝8~9時ごろに保護者が海までこどもを送り届け、13時~14時ごろ迎えに行きます。2歳~4歳までの園児10名に対して2人の先生とアシスタント1人で、1日のスケジュールはだいたい以下のような内容です。
8~10時 砂の上に設置してある遊具(ジャングルジムや滑り台など)であそんだり、日陰のテーブルでお絵かきしたりして過ごします。砂の上でならお漏らしをしても大丈夫なので、まだオムツの取れていないこどもも、海の幼稚園では水着もしくはパンツ1枚で過ごしながら、"オムツ卒業"を目指します。
10~10時30分

波打ち際で水あそび。少し波が高い日などは、海の家専属の監視員が、こどもたちのそばに付いて事故がおこらないよう備えます。

10時30分~
  11時
シャワー・着替え
11時~
  11時30分
おやつ(果物など)
11時30分~
  12時30分
本の読み聞かせや、歌、踊りなど。歌も踊りも、普段保育園でやっているのと同じものですが、先生もこどももみんな水着姿でまっ黒に日焼けして、保育園の中にいる時より数倍伸びのびと元気です。
12時30分~
  13時30分
昼食。海の家併設のレストランは、ピザやパスタ、サラダなどメニューも豊富ですが、園児たちには"フォカッチャ"と呼ばれる柔らかいピザか、トマトソースのショートパスタなどシンプルなものが出されるようです。親が希望すれば、おやつやお弁当を持参することも許可されていて、私も息子のリクエストで何度かおにぎりを持たせたこともありました。
13時30分~
  14時
お迎え。息子は大抵帰りのクルマに乗り込むや否や眠りこけていました。
幼稚園での毎日のように、お話を聞いたり、歌や手あそびの時間もある。
イタリア人と海の関係性
"海の幼稚園"で午前中のキレイな空気を思いきり吸って、砂の上を裸足で飛んだりはねたり走ったり、毎日4~5時間を海で過ごすことで身体もこころも鍛えられ、他のこどもたち同様、息子も9月になるころにはグンと一回り大きく強くなりました。
今年は友人3家族と大きなパラソルをシェアして、早起きできた日は午前中、そうでない日は午後4時過ぎから日暮れ(午後8時ごろ)までを海で過ごしています。午後に行くときは、夕飯用に簡単なお弁当を持参して6時半ごろにビーチで頂き、海の家の施設でこどもにシャワーと歯磨きと着替えをさせます。こうしておけば、帰りのクルマで寝入っても、家に着いたらそのままベッドに寝かせられます。一人っ子の息子にとって、海で延々と砂を掘ってあそんだり、友達とおやつや食事を分け合ったり一緒にシャワーしたりして、まさに"裸の付き合い"ができるこの環境は、とても貴重だと思っています。
日本とイタリア、どちらも海に囲まれ、海と深い関わりを持つ国ですが、夏の3ヶ月間たっぷり"海での暮らし"を満喫するイタリア人にとっては、海は単なるレジャーの場ではなく、育児や教育の場でもあるという点が、日本との一番大きな違いかもしれません。
海辺で砂浜にお絵かきをするこどもたち。自然の中のキャンバスのよう!

関 はるか

桑沢デザイン研究所卒業後、設計事務所勤務。92年にイタリアのミラノへ移住後はインテリアデザイナーとして、和食レストランなどの店舗デザインの仕事に携わる。その後、陶芸による創作活動を始め、2007年以降はアブルッツォ州で楽焼のアクセサリーや自然灰釉を使った器などの作品を制作。現在は自宅兼アトリエでこどものための陶芸教室などの活動を行っている。