ライフのコツ

2014.10.10

ホームエコノミクスで身近な経済を学ぶ

ホームエコノミクスで身近な経済を学ぶ

世界の教育情報第6回目は、フィンランドからのレポートです。日本と北欧を繋ぐコーディネーターである戸沼如恵さんが今年5月にいかれた北欧の教育視察についてのレポートをお届けします。今回は、フィンランドのホームエコノミクスについてのお話です。

PISAを意識しないフィンランド人の考える学力って?
近年OECDによるPISAの学力テストの結果が注目されています。2003年は読解力と科学的リテラシーの得点が高かったフィンランドが総合1位になりました。塾や予備校がなく、平均学習時間も短いのに、公教育でどのように学力をあげたのかと「フィンランド教育」に関心が一気に高まり、現在も教育視察は後を絶ちません。
ところが、近年アジア勢がフィンランドを追い抜きました。2013年は上海市が総合1位。2位が香港、3位がシンガポールと...PISA対策をしているアジア諸国が上位を独占し、日本も上位ランキングに復活しています。
一方フィンランドはPISAを意識した学習は一切行っていません。つまり、フィンランドでは、PISAでの順位をあまり意識していないのです。ではフィンランド人の考える「学力」とは一体何を指すのでしょうか?
授業はグループワーク中心。自由なスタイルで
健康的な生活習慣と洗濯表示について書かれた教科書のページ
ホームエコノミクス(家庭経済学)で生きる力を学ぶ?
フィンランドでは日本と同じく9年間が義務教育で、1年生(7歳)から9年生(15歳)までを基礎教育期間と呼び、いわゆる小中一貫教育が行われています。9年生を卒業すると大学に進み高等教育を受けることを目的とする普通高校と職業の基礎資格を身につけることを目的とする職業学校へのどちらに進むか自ら決め、近年は職業学校を第一希望とする学生が半数以上を占めています。義務教育を終える時点で自ら何らかの職業意識を持つ、または自分に向いた職業について考える習慣を身につけさせているのが興味深いところですね。
また7年生の必修科目に「ホームエコノミクス(家庭経済学)」が登場します。これは将来独り立ちして暮らすため、また社会人としての生活のノウハウや経済観念を学ぶための授業です。
例えば「僕は最新の携帯電話が欲しいです。でも十分な予算がありません。分割で買うのか、カードローンを使うのか、どのようにすれば良いでしょうか?」という問いかけから始まり、機種や会社によって料金が違うが、どういう選択することが自分にとって良いのか、また社会や環境にとって良いのかを授業で考えていきます。これは「車」をテーマにすることもあります。
このように実践的な例を通して財政管理や消費を学んでいきますが、他にも料理、掃除、洗濯、アイロンのかけ方、体に必要な栄養、ホームパーティーの開き方まで、自立し生きるためのノウハウを学びます。視察をした日はちょうどベテラン先生がルバーブを使った料理をする授業の準備をしていました。料理の授業は特に男の子に人気があるそうです。
ホームエコノミクスでルバーブを使った料理を学ぶところ。
フィンランドでは「18歳で自立できる市民」を育てることが伝統であり、社会的なコンセンサスになっています。親の扶養義務がなくなるので、その年齢を境に親元から離れる意識が高まります。ですから、「ホームエコミクス」は実際マスターしなければならない切実な学習なのです。また日本では消極的な『性教育』についても正しい知識と責任ある行動を考えるために大変オープンに話し合う環境が学校にあります。
このようにフィンランドで実際に見る学校現場は、自立と社会の一員としての役割を考え、自らの生活に役立つことを多様な形で取り入れることで、様々な場面に対応できる力を育てているように感じます。それはテストで測れない力であり、「世界ランキング」という概念から離れたフィンランド人の『生きる力』ではないかと思います。

戸沼 如恵

北欧ツアーコーディネーター 日本と北欧のかけはしコーディネーター。
長女のデンマーク留学をきっかけに2010年北欧情報を発信するエコ・コンシャス・ジャパン(合)を立ち上げる。2012年より北欧の教育、エネルギー、デザインなどにフォーカスしたオンリーワンの北欧ツアー事業を展開し好評を博している。また日本と北欧の架け橋として、講演、イベントプロデュース、執筆など各方面で活躍中。

撮影/梅田眞司