ライフのコツ

2014.07.02

現代の子育て必須アイテム!デジタル活用法

デジタルはクレヨンと同じツールでしかない

デジタル機器はいまや私たちの生活に欠かせないものであり、こどもたちは物心がついた頃からデジタル機器やバーチャルな世界に自然と親しんでいる。一方、デジタルがこどもに与える影響については、批判的な意見も根強い。そこで今回は、“デジタルネイティブ”世代のこどもたちに向け、アナログとデジタルを融合した創造・表現の場を提供するNPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子さんに、こどものあそびや学びにデジタルをどう活用していくべきか伺った。

デジタルは創造・表現の手段にすぎない
"イマジン(想像)&リアライズ(創造)"。石戸さんが好きな言葉だ。「こどもたちには、五感を使ったあそびを通して、わくわくしながら想像する力、そして新しいものを創造する力を身につけてほしいと思っています。デジタルツールはその幅を拡げますが、あくまでも手段・方法のひとつに過ぎません」。
デジタルかアナログかという区別自体が、旧世代の発想だと石戸さんは言う。「今のこどもたちは、粘土も折り紙もクレヨンもタッチパネルもスマートフォンもすべて、"身のまわりにあるもの"としてとらえています。あそびや学びのツールがアナログかデジタルかというのは、大した違いではありません。大切なのは、そのツールを使って何を生み出し、何を学ぶかということなのです」。
石戸さんが、デジタルが可能にする創造や表現の魅力にとりつかれたのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの客員研究員時代のこと。帰国後の2002年、未来の担い手であるこどもたちの創造的な学びの場をつくることを目的とし、NPO法人CANVASを立ち上げた。以来、アナログ、デジタルを問わず、"こどもたちが自分でつくる"ことをコンセプトとした多彩なワークショップを開催し、現在までに約30万人のこどもたちが参加するほどにいたっている。
スマホを親子のコミュニケーションツールに
石戸さんは、創造・表現やコミュニケーションのツールのひとつとして、デジタルの活用を提唱してきた。一方、最近は、こどもにスマートフォンをおもちゃ代わりに渡す"スマホ子守"が問題視され、デジタル機器自体が批難の対象になることもある。石戸さんは、使い方の問題であり、ツールやデバイスに罪はない、と断言する。
「たとえば、ゲームを"やる"のではなくゲームを"つくる"、受け身で映像を"見る"のではなく自らの手で映像を"つくる"というように、こどもたちには自分が主体となってデジタルツールを使いこなす術を身につけてほしいと思います」。
とはいえ、親の多くが、多かれ少なかれこどもを静かにさせるのにスマートフォンなどの力を借りていることだろう。4歳のお子さんがいる石戸さんは、「その状況も気持ちも痛いほどよくわかります。私は、これもデジタル機器の活用法のひとつであり、後ろめたく感じる必要はないと思いますよ」と笑顔で話す。
「ただ、"渡しっぱなし"ではなく、時間のあるときには、ぜひ親子のコミュニケーションツールとして使ってみてほしいと思います。アプリを使っていっしょに何かを作るとか、映像を見ながらお話しをするだけでもいいと思いますよ。親といっしょに何かに取り組むことは、こどもにとっても大きな喜びになりますから」。
ワークショップで使う様々なツール。
「コンピューターには絶対できない人とのコミュニケーションがある」という石戸さん。
すべてを親が仕切る必要はない
では、家庭では、創造・表現とコミュニケーションのツールとして、どのようにデジタルを取り入れればいいのだろうか。
最近は、動画編集などができるクリエイティブ系のアプリも増えており、こどもでも十分に使いこなせるという。石戸さんに、おすすめのアプリを教えていただいた。
「tap*rapしりとり」
「tap*rapへんしん」
「VISUAMUSIO」(wow.inc)
「ラヂオえほん/とんでけおふとん」(JAPAN FM NETWORK/DENTSU INC.)
「komakoma」
また、CANVASとデジタルえほん主催の「デジタルえほんアワード」の受賞作品はどれもお勧めだそう。
「デジタルえほんアワード第一回受賞作品」
「デジタルえほんアワード第二回受賞作品」
石戸さんが保護者からよく聞かれるのが、「何歳からデジタルに触れさせるべきか」という質問。それに対して石戸さんは、「正解はありません。家庭によって考え方も環境もさまざまですし、保護者自身が考えて判断することが大切です。ぜひ、夫婦や親子で話し合ってルールを決めてほしいと思います」と述べる。
また、親自身がデジタルに疎く、こどもに教えてあげられない、という声も届くが、石戸さんは「それなら、こどもに教えてもらえばいいんです」と明るく答える。
「こどもたちはデジタルツールを使いこなし、自分たちで工夫してどんどんと新しいことに挑戦していきます。ワークショップでも、私たちが教えてもらうこともあるんですよ。大人の役割は、最低限のセイフティネットを張って管理することくらい。わからないことはこどもに聞いたらいいと思います。人に教えることは、こどもの学びにとってもよいことですしね」
CANVASではデジタルのメリットを「楽しい、繋がって、便利」と伝えていると笑顔で話す石戸さん。
"デジタルvsアナログ"ではない
近年、日本でも教育におけるデジタル化が急速に進んでいる。デジタル教科書など教材の開発も進み、政府は、2020年までに、すべての小中学生に一人一台のデジタル情報端末(タブレット型パソコンなど)を配布することを目標に掲げている。
「最新の情報端末やデジタル教材を配布することが目的なのではありません。これらのツールを使い、情報や知識を知り、自分の頭で考え、仲間と共有し、自ら発信して新しい価値を生み出すことが何よりも重要なのです。もちろん、アナログにしかできないこと、人とのリアルなコミュニケーションからしか学べないことや生まれないこともたくさんあります。デジタルとアナログは対立するものではないと私は考えています。その場その場で、こどもたちにとってよりよいツールを提供し、学びやすい環境を用意してあげることが、私たち大人の役割なのではないでしょうか」。
さらに石戸さんは、「私たち大人が、考え方を変える必要があると思います」と明言する。
「これからこどもたちが生きる世界は、私たちの世代とはまったく異なります。変化の激しい時代ですから、10年後、20年後がどうなるかは誰にもわかりません。私たち親は、今までの固定概念や価値観を押し付けたり、過保護になりすぎたりしてはいけないと思います。むしろ、既存の壁を打ち破る創造力や推進力を、実体験を通して学ぶことが、こどもたちには必要になってくるのです。今後も、CANVASの活動を通して、こどもたちが生きる力、学ぶ力を身につける場を提供していきたいと考えています」
〈石戸奈々子さんの新刊〉
『子どもの創造力スイッチ! 遊びと学びのひみつ基地CANVASの実践』
(フィルムアート社)
〈ワークショップの案内〉
「ワークショップコレクション11inシブヤ」
2015年8月29日、30日に開催予定の世界最大のこども創作イベントです。これは絶対行かなきゃ!

石戸奈々子

NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学准教授。東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向けの創造・表現活動を推進するNPO法人「CANVAS」を設立。実行委員長を務める子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。また、株式会社デジタルえほん代表取締役社長として、えほんアプリ制作にも取り組む。総務省情報通信審議会委員などを兼務。一児のママとして、子育てにも奮闘中。
CANVAS

文/笹原風花 撮影/石河正武