ライフのコツ

2014.04.15

つながれば、わかる。おもしろい算数

筑波大学附属小学校のこどもが夢中になる算数

小学校で毎日授業がある科目は、算数と国語だけ。すべての学習の基礎となる、この重要な二科目を楽しんで学習できれば、こどもの成長や学ぶ意欲に大きな利点がありそうです。今回は算数に焦点を絞り、幼少期のうちからできる「算数好きになるための取り組み」や「算数を学ぶ理由」などを、筑波大学附属小学校で算数科を担当している夏坂哲志先生に伺いました。

"勉強好き"にしたいなら、まずはあそばせる!
小学校入学前に、大きな数字まで言えたり、簡単な足し算ができたりする子も多い。そこで夏坂先生に小学校入学前に身につけておくべきことについて聞いてみた。
「勉強でつまずいたら大変...と、先取り学習に力を入れる親御さんもいますが、その前に身につけるべき姿勢や能力をおろそかにしてはいけませんね。例えば、小学校に入る前に、ちゃんと話を聞く集中力や姿勢を身につけることはとても大切です。実は"ぬりえ"のようなあそびもとても重要です。枠の中を塗りつぶすときに様々な方向に細かく指先を動かすことで、腕で大きく描いていたのが、指先の動きを滑らかにし、筆圧も強くなる。それが、きちんとした字を書いたり、まっすぐ線を引いたりする力に繋がる。ぬりえをたくさんやった子は、きれいなノートを書きます。あそびの中に、必要な力をトレーニングする機会がたくさんあるんですね。闇雲に先取りした勉強をさせるだけでなく、その年齢に見合ったあそびや生活行動をきちんとすることが、算数をはじめ全ての勉強の下地になります」。
「そうした基礎力がしっかり身についた上で、勉強に対しての苦手意識を持っていない幼少期のうちから図形に親しんだり、数字に慣れたりといったことをしておくのはとてもよいことですね。例えば私は、図形に興味を持つきっかけとして、『身近にある形を見つけよう』という課題を出すことがあります。こどもたちは町の中で、横から見たら三角なのに下から見ると丸い外灯やタイルに隠れた六角形など、非常にユニークなものをたくさん見つけてきます」。
3年生の生徒が撮影した、角度によって様々な形に見えるものの写真。この写真を写したこどもたちはもう大学生だそう。
幼少期から高学年まで使える教材って?
また、夏坂学級では6年間を通して「パターンブロック」という教材を活用している。これは、ヨーロッパやアメリカで盛んなHands On Learning(活動を通して学ぶ)教材の代表的なもので、正三角形や正六角形、正方形などのブロックを組み合わせたり並べたりすることで、数量や図形、面積などの考察をするというもの。
「幼いうちからパターンブロックや図形の組み合わさったパズルのようなものであそんでいると、図形に対する感覚が豊かになります。例えば『正三角形6個で正六角形ができる』といった感覚が自然に身につくんですね。そのような見方は、高学年の数の学習にも生きてきます。例えば、『正六角形1個を1』とすれば、『正三角形1個はその6分の1』これが7個のとき、『6分の7』とも、『1と6分の1』ともあらわせることがわかりやすい。ほかにも、重さや面積の学習にも使えます。そういった"つながり"が見えてくると、新しい発想ができたり、いろんな場面で生かせたりするということが理解できて、算数の面白さがわかってきます」。
パターンブロックでつくった六角形。大人でも発想力を問われる。
夏坂先生の編著書のひとつに「パターンブロックで『わかる』『楽しい』算数の授業(上学年)」がある。
「算数が面白い!」になるために必要なモノ
算数における「つながり」を意識することは、夏坂先生の授業の重要なキーワードでもある。ひとつの気付きが、他の問題や過去に学んだことにつながると、『もっと解いてみたい』、『正しいものを知りたい』という欲に火がつく。そうなれば『なんで算数を勉強しなくちゃいけないの?』なんて疑問を持つことはない。ゲームはなぜするのかと考えないように、面白いものであれば、こどもたちは当たり前に取り組むのだ。続いて、こどもたちが面白い、と思うような効果的な働きかけについて質問した。
「こどもならではの特性に働きかけることは常に意識しています。例えばじゃんけんゲームを取り入れて、『だれが一番ポイントをゲットできるかな?』なんて問いかけて獲得したポイントの表し方を考える場を設定することもありますし、わざと間違えて突っ込みを入れさせることもあります。こどもは"正しいものを見つけたい"とか"教えてあげたい"という気持ちがとても強いもの。『先生、間違ってるよ!』と意気揚々と突っ込みを入れてきます(笑)。 こどもたちが楽しんで、クイズを解くように自分たちで考え出すと、絵を描いたり数字を並べたり、実にユニークに答えを導き出す工夫をします。そんな時のこどもたちの反応って、本当に楽しいですよ。私も、さぁ次はどんなリアクションがくるかな?なんて面白がっています」。
常に生徒を見つめてきた先生だからこそ、知っている"こどもの気持ちの乗せ方"。その最も重要な仕上げは、たくさん褒めることだそうだ。たとえ最終的に答えが間違っていても、その過程の発想や、やろうとした気持ちを評価し「その発想いいね!」、「スゴイ!」と褒める。得意になったこどもたちは、ますます考える面白さのとりこになっていく。
「算数を学ぶ目的は、答えを出すことだけではありません。そのプロセスを通して"考える力"を養ったり、自分の考えを伝え合うことを通して"人との関わり方"を学んだりして、"社会で生きていくために必要な力"を育てるためのもの。算数の問題は、答えが明確なので、自分の考えを伝えて相手を納得させたり、複数名で議論したりするのにもぴったりですね。
以前、こどもたちに『なんで算数の勉強をするんだろう?』と問いかけたところ、『将来レポーターのような仕事に役立つと思う』という答えが返ってきたことがありました。『算数は、考えたことを相手に伝えるために、整理したり、説明の仕方を考えたりするものでしょ。レポーターも同じだよね』なんて言っていましたよ」。その発想こそこどもの持つ力なのではないだろうか。
こどもたちのことを話す夏坂先生はとても楽しそうで、その目はどこまでも優しい。
親にしか出来ないことがある
夏坂先生の授業を進めるその姿勢にも、親として学ぶことは多い。学級にいる40人のこどもたち皆がきちんとわかった上で次の学習に進めるよう様々な工夫をされている。中でも印象的なのは『さくらんぼ挙手』だ。隣同士で意見がそろったら2人で手をつないで挙げる、というもので、互いの考えを理解するための話し合いが生まれ、みんなで一緒に考えるというムード作りにも一役買うという。
先生は、こどもの表情をよく見ることも心がけている。わからない時には首をかしげたり、口をもごもごさせたり、ちゃんとサインを出すので、それをしっかりキャッチする。
「親も、こどものことをよく見ることが大事ですね。塾など他人に預けっぱなしでは、こどもの得意・不得意も見えなくなってしまいます。例えば計算練習でも、よく観察していれば『うちの子は、いつもココを間違える』とわかる。それなら、その問題を交えた例題をつくってあげたり、繰り返しその問題を解く機会を与えてあげたりといった対策がとれますが、それは、一対一の親ならではのことです。
親自身がこどもに勉強を教えるときに、「間違えて教えてはいけないんじゃないか、わからないって言っちゃいけないんじゃないか」と思ってしまいますが、そんなことはありません。いつも完璧でなくていいんです。わからないことは恥ずかしいことではないですし、親であっても子であっても『わからない』とちゃんと言える関係というのが非常に重要です。
そして、こどもの言葉に耳を傾け、正解だけでなく、やろうとした気持ちや解こうとした気持ちに反応してあげてください。そうすればきっと、こどもが"考える面白さ"に気づいていくはずです。
《夏坂先生おすすめの教材》
◎パターンブロック
◎パターンブロックで「わかる」「楽しい」算数の授業 上学年 [単行本]
(編・著/夏坂哲志 東洋館出版社)
◎パターンブロックで「わかる」「楽しい」算数の授業 下学年 [単行本]
(編・著/盛山 隆雄 東洋館出版社)
◎夏坂先生の速さカード&すごろく

夏坂 哲志

筑波大学附属小学校教諭、算数科担当。東京学芸大学教育学部卒業。日本数学教育学会幹事、全国算数授業研究会常任理事のほか、國學院大學栃木短期大学講師、算数授業ICT研究会副代表、基幹学力理数授業研究会代表なども務める。「夏坂哲志のつながりを意識してつくる算数の授業 (算数授業研究特別号)」や「夏坂哲志の算数の授業のつくり方」(東洋館出版社)「板書で輝く算数授業」(文溪堂)など著作も多数。

文/田中社(田中青佳) 撮影/石河正武