仕事のプロ

2014.03.12

出産後は仕事に対する使命感が芽生えた

Vol.10 「効率だけではない働き方」を追求

東京建物株式会社 住宅賃貸事業部
高齢者住宅推進グループ
野口久美子さん
サービス付き高齢者向け住宅『グレイプス』シリーズの開発を担当。用地取得時の検討から商品・サービスの企画、物件のプロモーションまでトータルに携わる。また、「働く女性がもっと幸せになる住まい」をコンセプトとする『Bloomoi(ブルーモワ)』のプロジェクトメンバーとして、間取りや設備、ソフトサービスの開発に携わる。2歳男児のワーキングマザー。

インタビューアー/WorMo'編集長 河内律子(3歳児のワーキングマザー)

時間が限られていても
定例会議を自分から提案
――野口さんは、出産前からサービス付き高齢者向け住宅の開発に携わっていらっしゃるんですね。
はい。『グレイプス』のプロジェクトには、最初の企画段階から関わっています。初めは開発メンバーの人数も少なかったのですが、ここ数年で社内のスタッフも10名を超えましたし、設計事務所など社外で連携する方々も増えてきました。それに合わせて、仕事の進め方も変わってきましたね。

――具体的にはどんなふうに変わったのですか?
関係者が増えると、そのぶんいろいろな意見や提案が出てきます。多様な意見が出てくるのはいいことなんですが、それぞれが中途半端な形で反映されると、完成した物件やサービス内容が統一感のないものになってしまいます。

――プロジェクトが大きくなるほど「目線をどう合わせるか」が課題になってきますね。
私はプロジェクト全体をコーディネートする立場でもあるので、まさにその課題を解決したくて、定例会議を提案しました。今は月に2回ずつ開催しています。

――でもお子さんができてからは、残業がしづらいなど、時間的な制限があるなかで会議を設けるのは大変ではないですか?
1つの案件を話し合う時は、顔を合わせて背景なども共有しながらの方がいい気がします。そう考えるに至ったのは、私自身、復職後しばらくは「とにかく時間がない!」という気持ちが先走って、コミュニケーションにも効率ばかり求めてメールに頼っていましたが、メールだと誤解を生むことも多くて。「効率ばかりを追い求めるとかえってうまくいかないこともある」と感じるようになったんです。日時や場所の設定に手間はかかりますが、定例会議を始めてから物事が早く進むようになったので、効果は大きいですね。

――会議の進行で、工夫していらっしゃるところはありますか? 時短のコツなどもあれば、ぜひ教えていただきたいです。
コツというほどではないですが、その日の会議で決めるべきテーマは最初に確認してから始めます。テーマごとにかける時間もだいたい決めておいて、収まりきれないようならいったん区切って次のテーマへ移ります。プロジェクトをまとめる立場として"スパッ"と切ることも重要な役割だと思うので。そのせいか、この前の会議では、先輩社員から「仕切るねえ~」と言われちゃいました(笑)。




――プロジェクトの初期段階から中心メンバーとして関わっている野口さんだから、「このテーマはここで区切っても大丈夫」といった判断ができるんでしょうね。


住宅やサービス開発の場面で
子育ての経験が活きることは多い
――お子さんができて、忙しくはなってもお仕事のプラスになったこともたくさんあると思いますが、いかがですか?
まず仕事に向き合う姿勢が変わりました。以前は時間にわりとルーズで、打ち合わせの時間ぎりぎりに着くタイプでした。でも今は、こどもの体調によって予定変更をお願いしなければならないこともあるので、会議資料の準備などは早めに済ませています。それと、「人にどう思われているか」を気にせず、仕事のために言うべきことは遠慮せず言うようになりましたね。例えば会議でも、議論が迷走した時は、発言している人がいても遮って、すぐに軌道修正しています。

――強くなったんですね。
そうかもしれません(笑)。住宅の開発に関しても、「多世代」「子育て」というコンセプトを自分なりに消化した形で入れ込めるようになりました。 賃貸住宅に保育所を併設しようと考えた時には、自分が保育所探しをした経験をもとに「一般賃貸住宅にお住まいの方だと、認可保育所より認証保育所の方がこどもを預けやすいかも」と具体的な案を出すことができました。

――働く女性をターゲットにしたプロジェクト『Bloomoi』にも、働くママの視点は役立っていますか?
そうですね。プロジェクトメンバーは全員女性なのですが、独身の20代女性から私のようなワーキングマザーもいて、住宅の設備やサービスについて案を出し合う時もいろいろな意見が出て面白いですね。例えばサービス面では、私は「保育所のバスが迎えにくるまで、マンションのエントランスでこどもの面倒をみてくれるサービスがあればいいな」という提案をしてみたり。

――それも、送り迎えを毎日しているから出てくる発想ですね。お子さんの存在がお仕事にもいい影響を与えているんですね。
そう思います。それに、息子と接していると単純に癒されますね。高齢者向け住宅の仕事をしていると、「介護医療」などシリアスなテーマについて議論することも多くて、ピリピリしてしまうことがあるので。こどもの前ではあまり無理をせずに、「お仕事でイヤなことがあったんだ」とグチをこぼすこともあります。

男性が多い職場で、活躍されている野口さん。これから結婚、出産を考えている同僚や後輩にとって、よいロールモデルとなっているそうです。
息子を喜ばせようと、アニメの最後に流れる歌を身振り・手振り付きで歌うと、息子が「お・し・ま・い」と言ってやめさせようとします!一緒に歌えるようになるのが夢です!!

――私もそうです。それに3歳にもなると、落ち込んでいる私を見て「頑張って」と励ましてくれるようになりました(笑)。
最後に、お子さんにどんな子に育ってほしいですか?
何事も、安易に投げ出さない子になってほしいですね。「もっとこどもと一緒にいたいな」と思うこともありますが、私が働き続けることで「投げ出さない姿」を身をもって示せたらいいな、と思っています。


野口さんの1日

6:30 起床、身じたくなど、朝食の用意
7:00 息子を起こす、朝食など
7:50 外出、保育園へ送る(ご主人が送ることも)
9:00~
18:00
仕事
19:00 保育園にお迎え
19:30 帰宅、夕食、お風呂
22:00 息子を寝かしつける、就寝

取材を終えて

野口さんと私のこどもが同じキャラクターにハマっていることがわかり、ひと通り盛り上がってから、和気あいあいと取材がスタートしました。
野口さんは、「メールだと誤解を生むことが多くて・・・」と、時間を割いてでも顔を合わせて話し合う場を設定しつつ、会議時間は厳守し「時間内でスパッと切る!」といわれていました。立場の異なる方々とのプロジェクトは、私たちが想像するよりも進捗管理が難しいと思いますが、様々な意見や不満をうまく取りまとめるために、「対面での会議」を重視されているのだと思いました。 (河内)

文/横堀夏代 撮影/野村一磨