ライフのコツ

2013.08.27

あそびで"できる"を身につける

学ぶチカラの基礎を築く質の高いあそび方

こどもの「あそび」と「学び」には、ある関係があるといいます。しかし、仕事をしていると、一緒にあそぶ時間がないと悩む人も多いのが現実。そこで専門家に、その関係性の秘密やあそびへの上手な関わり方を伺いました。

幼児期のこどもの「あそび」には「できた!」という体験を積むことが大切
普段、こどもとあそぶ中で、そのあそびがこどもの成長にどう影響しているのかは気になるところ。働いていて、子どもと接する時間が限られていればなおさらです。幼児の運動発達やあそびを専門に研究する、東京学芸大学の吉田伊津美准教授は、あそびで幼児期に育まれる、ある大事な感覚があると言います。
 「それは、『有能感』というもので、簡単に言うと『何かができた』という感覚です。幼児期に、自分はこれができたという感覚を、あそびを通して十分に体験しておくと、成長してから学問やスポーツなど様々な分野に興味を持った際に、意欲や自信となってこどもをポジティヴな方向に後押しします」
具体的にほめることで生まれる無限の可能性
「できた!」という感覚を育てるために、最も大事なことは「とにかく褒めてあげること」だそう。
 「こどもは、客観的に自分を評価できないので、身近な大人が褒めてくれたことで、『これでいいんだ』という感覚を自分にフィードバックしていくんです。そして、もっとやりたいという意欲がわく。大人の基準での上手・下手ではなく、こどもなりに『できた!』という感覚や達成感をいかに持たせるかが大切です」
褒めてあげたいと思っても、同じことを何回も繰り返して遊ぶこどもにどう言っていいか悩む人も多いと思うのですが...「没頭して、夢中になってあそびこむことって大事なんですよ。親から見ると同じことを繰り返しているように見えても、実はこどもの中では、微妙に動きを変えてみたりと、違うやり方を試したりしているんです。だから同じことをずっとしていても、少し待って観察してあげてください。そしてあそび方の微妙な変化に気付いたら、そこを褒めてあげましょう」
褒める時はできるだけ具体的に褒めることがポイントのよう。「『前より高く飛べたね』とか、『(積み木などが)すごく高く積めたね』と、ちょっとした変化を具体的に褒めてあげると、こどもも何を褒められたのかがわかりやすく腑に落ちます。加えて、"高さ"などの感覚も認識できます。自分なりに「もっと高く飛んでみよう」と次の課題を見つけるきっかけになるのです」
「できた!」という有能感をこどものころにたくさん体験することで、新しい物事にチャレンジするとき、肯定的に捉えられるようになります、と吉田先生。
こども主体であそぶことが大切なんですね。「以前、ある保育園で透明なホースを使って水遊びをしていました。こどもたちは、ホースの中を流れる水に興味を持ち、観察し、自然と水の性質を学んでいたんです。そうやって、こども自身が気づくと、さらに工夫や発想する力が養えます」
こども自身で気づくことが学びにつながるのであれば、保護者はいったいどんなことができるのでしょうか。
「そうですね、一番良いのは、こどもと一緒にあそびながら考える、という方法です。こどもにしても、保護者と一緒にできるのはうれしいはずです。そして時には違うあそび、例えばボールあそびで蹴ってばかりいるとき、投げるという動きを入れてみるなどして、同じあそびの"違うあそび方"に気付かせてあげたりして下さい」
確かにホースを透明にする、ということも大人の仕掛けですね。そうやってこどもがどうやったらより楽しくなるかを考えてあそぶとより楽しくなってきますね。
また、ほめるときだけでなくあそぶときも、具体的な言葉を付け加えることも重要だそう。「玩具を使うあそびでも、『これは黄色だね』『三角だね』と添えると、色や形にも興味が拡がります。運動あそびで、ぴょんぴょん飛んで遊んでいる時に、『前に1コ飛んでみよう』など、ちょっと言葉をともなわせることで、"前"がどっちなのかということに気づきます。身体の部位などもあそびの中で覚えていくことが多いですよね」
先生の研究室にあったこどももの工夫がうまれる多彩なボール
吉田先生書著。幼児期の運動あそびの重要性が盛りだくさん!
こどもと接する際は時間の長さより内容が大事。
こどもとあそぶときには、やはり保護者が一緒にいてあげた方が良いと言ってもなかなかこどものあそびに付き合える時間がとれないのも事実。「たとえ10分、15分といった短い時間でもいいんですよ。ようは、あそび方、関わり方が大切なんです。こどもが何かしたら積極的に応答してあげる。ちょっと視線を合わせて笑ってあげるだけでも、こどもは自分の行為を肯定でき、質の高いあそびへと発展しますよ」
もちろんこれは、お父さんでもできること。短い時間をより充実できるやり方ですね。「短い時間でも、質の高いあそびを心がけてください。その積み重ねは、きっとこどもの可能性を大きく広げることになると思います」
吉田 伊津美

吉田 伊津美

東京学芸大学教育学部准教授。幼児の運動発達、あそび、心と身体の健康について研究・活動中。執筆を担当した著書に『保育と幼児期の運動あそび』(編著・岩崎洋子 2008年 萌文書林)など。

  文・撮影/イデア・ビレッジ