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新興国発が世界を変える「逆転」のビジネス戦略、リバースイノベーション
トレンドワード:リバースイノベーション
イノベーションの起点として今注目を集めているのは、インドを始めとしたグローバルサウスの勢いだ。新興国ならではの制約条件から生まれる創造的課題解決は、社会課題と企業価値を両立することにもつながる。新興国発のリバースイノベーションについて、その背景やメリットについて解説する。
リバースイノベーションとは?
リバースイノベーションとは、新興国向けに開発された革新的な製品やビジネスモデルを、先進国向けにアレンジしたうえで取り入れること。 2009年に米ゼネラルエレクトリック(GE)のチーフ・イノベーション・コンサルタントも務めたビジャイ・ゴビンダラジャン教授らが提唱した経営戦略です。「先進国から新興国へ」といった従来の枠組みとは逆(リバース)で、新興国発のプロダクトが先進国に「逆」輸入される点が特徴です。 似て非なるものとして、「グローカリゼーション」があります。グローカリゼーションは先進国の製品を、新興国向けにローカライズすることであり、ダウングレードして低価格化するのが一般的です。例えば、日本で開発された高性能なスマートフォンを、新興国向けにカメラの画素数やストレージ容量などを抑えてより手頃な価格で販売するケースなどが挙げられます。 一方、リバースイノベーションは新興国発のイノベーションであり、それを先進国向けに展開するものです。そのため、グローカリゼーションでは開発拠点が先進国に置かれるのに対し、リバースイノベーションの場合は新興国に置かれることになります。
リバースイノベーションが生まれやすい環境とは
リバースイノベーションが盛んに行われている国として、インドや中国、ナイジェリア、ケニア、インドネシア、ブラジルなどがあります。背景に人口規模が大きいことや、低所得やインフラ不足といった厳しい制約条件があります。 その制約条件の下で生まれたイノベーションが、先進国の複雑化した製品やサービスに対するアンチテーゼとして、常識にとらわれないシンプルで本質的な解決策を生み出すことにつながっています。 医療や金融、エネルギーなど、生活や経済活動に必要不可欠な分野でリバースイノベーションが起こりやすい傾向が見られます。 これまでは、資金力のあるグローバル企業で展開されることが多かったのですが、近年はスタートアップ企業が現地課題解決起点で取り組むケースが増えています。既存のしがらみが少ないスタートアップだからこそ、制約ドリブンの発想をより柔軟に、かつ迅速に具体化できるためだと考えられます。
リバースイノベーションに取り組む背景
リバースイノベーションが活発化する背景には、インドや中国など新興国の経済成長があります。購買力を持つ消費者が多様化し、欧米のニーズに合わせた商品では対応しきれなくなってきています。 さらに、先進国の成熟した市場は飽和状態にあり、イノベーションを起こすには頭打ち感がある場合も。機能性やデザイン性の高さより、安価で頑丈なものといった新興国のニーズに合わせた新しく柔軟な発想を取り入れることで、これまでにない着眼点での開発を行い、競合と差別化を図るねらいもあるようです。
リバースイノベーションの成功事例
リバースイノベーションの実際の事例を見ていきます。
GE 携帯型心電計「MAC400」
MAC400はインドの農村部での使用を想定して開発された携帯型心電計です。従来の10分の一程度の低価格で、容易に持ち運べるようにバッテリー駆動で軽量型としたため、電力供給が不安定な地域でも使用できるという特徴があります。そのため先進国でも、救急医療や災害医療での活用などでの需要に応えられる製品として、逆輸入されるようになりました。
LIXIL 簡易式トイレシステム「SATO」
簡易式トイレシステム「SATO」は、安全で衛生的なトイレが不足する地域でも、低水量かつ低コストで導入できるように開発されました。軽量で耐久性の高いプラスチック素材を使用することで、輸送手段が限られる地方農村部でも持ち運びや設置を可能にしました。そのシンプルさと利便性から、先進国でも災害時の仮設トイレや水不足地域での利用など、新たな価値を見出されています。
Flutterwave(アフリカ統一決済プラットフォーム)
Flutterwaveは、アフリカ各国の異なる通貨や決済システムを統合する決済プラットフォームとして、ナイジェリアで誕生しました。複数のチャネルを介して150以上の通貨での支払いに対応し、複雑な国境を跨ぐ商取引を簡素化するという、アフリカ特有の課題から生まれたイノベーションです。 制約の多いアフリカ市場向けに開発されましたが、そのシンプルで包括的なAPI設計と多通貨対応力が評価され、現在では欧米企業もアフリカ市場参入時の決済インフラとして活用しています。
リバースイノベーションに取り組むメリット
企業がリバースイノベーションに取り組む目的やメリットとして、まず市場開拓が挙げられます。インドのように10億人の人口規模があり、かつ地域格差も大きい国では、国内でも地域によってニーズが異なるため、あらゆるビジネスの可能性があります。 また、制約条件があるからこそ、新たな発想が生まれやすいという点もあります。低価格でないと売れない。電力供給や水などのインフラ設備が不十分。人材不足や狭い土地といった厳しい制約の中で試行錯誤しながらアイデアを生み出します。それが先進国のニッチなニーズと合致することが多いのです。 さらに、新興国の課題やニーズに対応する企業の姿勢が、インパクト投資やESG評価にもつながる場合もあります。リバースイノベーションは、新しい価値創出と社会課題の解決、企業価値向上を同時に実現できるのです。
リバースイノベーション成功の条件
企業がリバースイノベーションに取り組む際には、自国や先進国 での成功体験や既存の戦略を捨てて、ゼロベースで設計する必要があります。既存製品の部品を流用するのではなく、現地の気候や文化的背景、インフラ等のリアルな制約条件の中で何ができるのか徹底的に考え抜くことが必須です。それには、本国から指示するのではなく、現地法人の設立や現地チームとの協業を行い、現地メンバーに権限移譲 していくことが求められます。 また、価格を下げるために機能を絞り込むことは必要ですが、コストカットのために機能を減らしすぎないことも必要です。高価格帯の商品は現地では売れませんが、必要な機能が備わっていなければ売れません。単なるダウングレードとは一線を画し、新興国の人が本当に必要とし、かつ支払える範囲の価値を追求することが肝要となります。 さらに、新興国で開発した製品・サービスを先進国に逆輸入する場合は、そのまま持ち込むのではなく、先進国のニーズに合わせてリブランディングと機能の再設計が必要となります。例えばシンプルな設計を活かしつつ、先進国の品質基準やデザイン性への要求に応えるための調整を行うなどが考えられます。 リバースイノベーションは、単に新興国でビジネスチャンスを掴むだけでなく、先進国のビジネスパーソンが凝り固まった思考から脱却し、新たな視点を得るための強力なヒントを与えてくれる機会ともいえます。





