仕事のプロ

2026.06.04

組織文化変革は企業の成長をどう後押しする?〈後編〉

オフィス空間もワーカーの意識変革を促すツールになり得る

組織文化変革をテーマに、学習院大学経済学部経営学科の守島基博教授と、コクヨのワークスタイルコンサルタントの坂本崇博による議論を前後編で紹介する。後編では、変革の成果を検証する際のポイントや、オフィス空間と組織文化の関連性などについて、多様な視点から意見が交わされた。

トップが発信する言葉と思いが
社員に届けば意識変革が進む

坂本:引き続き守島先生に、組織文化変革についておうかがいしていきます。前編では組織文化変革の重要性や、企業で変革がなかなか進まない理由についてお教えいただきました。ポイントは、「社員一人ひとりの意識変革」でしたね。
そこでおうかがいしたいのですが、ワーカーの意識を変革するには、どんな取り組みを進めればよいでしょうか?

守島:ひとつには、「トップがどんなパーパスやコーポレートメッセージを発信するか」です。伝えるには、日常的なわかりやすい言葉がよいでしょう。

坂本:確かに、わかりにくい言葉だと社員の意識に届かないですからね。

守島:そして大切なのは、解釈の自由度があることです。一定の曖昧性といってもよいかもしれません。社長が発信したパーパスを、経営層が解釈して語り、それをさらに部長や課長、チームリーダーがそれぞれ自分の部下に向けて、自分なりにパーパスを噛み砕き、自分の部署の仕事に落とし込んだ形で伝えていくわけです。そうしたことができる曖昧性が必要です。社員は、経営者の言うことも聴きますが、最も影響を受けるのは、自分の身近にいる部門の上司です。このように、各レベルの上司が、パーパスを自分の表現にして伝えていくことによって、最終的には社員一人ひとりがパーパスを自分事として語れるようになるまでもっていくが理想です。

坂本:コクヨは創業120周年を迎える2025年に、「好奇心を人生に」という新たなコーポレートメッセージを発表しました。私自身もリーダーのひとりとして、具体的な仕事の内容を交えてこのメッセージを語ることで、メンバーの意識に訴えかけていきたいと思います。

守島:「好奇心を人生に」というコーポレートメッセージは、わかりやすいうえに解釈の自由度が高く、リーダーが部下に向けてストーリーテリングしやすい点が魅力的だと思います。
なお、ストーリーテリングは「伝えたい内容を物語の形にして語ること」です。組織においては、トップが語ったストーリーをリーダーたちが、ただ伝達または"転送"するのではなく、自分の部課の仕事に合う形に解釈し直したうえでストーリーテリングすることが大切です。

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トップが自社のパーパスを
繰り返し発信して社内浸透を

坂本:社員の意識改革に向けて、ほかにやるべきことはありますか?

守島:社長が自社のパーパスを、繰り返し発信することが大切だと思います。社内報やメッセージ動画など、トップが社員に向けて発信する機会は意外に多いので、そのたび少しずつ表現を変えて同じ内容を語り、自社のパーパスを言葉に残していくのです。
さまざまな媒体を通じて社長の思いにふれることで、社員の意識は少しずつ理解し、変わっていくのではないでしょうか。

坂本:コクヨでは最近、海外を含む全社員を対象としたオンライン昼礼を始めました。昼礼の中で、社員が自分たちの部署の取り組みを紹介するコーナーがあります。その際にいつも社長は、コーポレートメッセージの内容につながるような感想を述べています。昼礼で社長の言葉を聞くたびに、社員の中で意識変革が進んでいるのかもしれません。




サーベイの数値を、
対話と分析のきっかけにする

坂本:社員の意識改革が進んだかどうかを把握するのは難しいですが、一方で、現状のビジネス現場では取り組みの成果を数値でにぎろうとする傾向もあります。何らかの形で意識改革の度合いを測ることは可能でしょうか?

守島:現在、意識改革の進み具合を測定するツールとしては、エンゲージメントサーベイが主に用いられています。サーベイの結果はもちろんひとつの指標にはなりますが、あくまで「さらに深堀して考えるためのひとつの手段」と考えるべきでしょう。数学の図形問題で、補助線を引いて考えるようなものです。

坂本:「数値は絶対的なエビデンス」と考えてしまいがちですが、あくまでも参考資料のひとつということですね。

守島:例えば数値を見るにしても、平均値だけでなく周辺の分散や外れ値もチェックし、場合によってはその数値に該当する社員がどんな状況にあるのかを調査したり、ヒアリングを行ったりすることも必要になります。いずれにしても大切なのは、サーベイを実施する側が「どんな状態なら意識改革が実現したといえるか」をイメージしておくことです。
もしサーベイ結果が改善したなら、「なぜ数値が向上したのか」、または数字が下がったら、なぜそうなったのかを、現場の上司など関係者を巻き込んだうえで、議論して目星をつけ、さらに、現場で社員に話を聞くことも求められます。

坂本:平均値だけで結果を測ろうとするのは確かに無理がありますね。 実は私はこの数年、約7000人の社員を抱えるメーカー様のエンゲージメントサーベイ実施を担当させていただいています。サーベイの数値は年々上昇しているのですが、細かく見ていくと、事務職や営業職などの社員様と比べて、生産現場で働く社員様の数値が低いのが目立ちます。

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守島:多くのエンゲージメントサーベイはホワイトワーカー向けに質問項目が作成されているので、ブルーワーカーの数値が低いのは、働き手の生活に合っていないためで、実は当然のことなのです。ですからサーベイ実施時には、対象者の状況にフィットする適切な設問を設定する必要があります。ただし、繰り返しになりますが、数値はあくまで参考と考えて、ヒアリングなども行いながら実情を把握するべきです。




用途を限定しない空間を
オフィスに設けて意識変革を促す

坂本:インタビューの最後に、オフィス空間と組織文化変革との関係についてもおうかがいしたいと思います。
ご存じのようにコクヨではオフィス空間の構築を手がけていますが、近年、企業様から「オフィスをリニューアルして、組織文化変革につなげたい」とよくご相談を受けます。
そのとき私たちは、「オフィスのリニューアルと併行して、意識改革にも力を入れていきましょう」とご提案しています。ワーカーの意識が変わらないと、新しい働き方を目指してつくったオフィス空間を使いこなしていただけないことが多いからです。

守島:その通りです。例えばフリーアドレスにしても、働く場所を選べるメリットを社員が実感し、実行しなければ、オフィスの中でいつも同じ場所で働く「固定アドレス」になりやすいですね。

坂本:ただ一方で、ワーカーの価値観は、身近に大きな変化が起こったときに変わりやすい、という側面もあります。その意味では、オフィス空間が変わるとさらに意識変革が加速することもあるのでは、と考えています。

守島:確かにオフィス環境が変わると行動が変わる面もあるので、変革が進むきっかけにはなると思います。
オフィス変革にあたって重要なのは、経営側が「ここは集中するための空間」「このエリアはコミュニケーションに活用してほしい」などオフィスの使い方を100%想定するのではなく、ある程度社員の裁量に任せることです。社員が自分らしさを表現できるようなスペースもあるといいですね。
いろいろな企業様のオフィスを見学させていただくと、社員の方が自主的に家具を動かしたり、勝手に島をつくって、新しい空間の使い方をしているケースがみられます。経営層はこのような社員の行動を見て、さらにオフィス空間を柔軟に変化させていくことも必要でしょう。

坂本:経営層と社員との双方向でオフィス空間と意識を同時に変革していく、ということですね。コクヨでは今まさに、2026年5月の大阪本社移転 に向けて新しいオフィスのコンセプト策定を進めていますが、社長は「用途を限定しないスペースを設けたい」という意図を強調しています。

守島:オフィスの使い方を社員に丸投げするのはよくないですが、50%程度のオーナーシップを持たせることで、新たな組織文化醸成のきっかけになり得ますね。今後のコクヨ様のチャレンジに期待しています。




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守島 基博(Morishima Motohiro)

学習院大学経済学部経営学科教授・一橋大学名誉教授。研究分野は人材マネジメント論(人的資源管理論)・組織行動論・労使関係論。慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授・教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て現職。厚生労働省労働政策審議会などの政府審議会でも活動。『人材マネジメント入門』(日本経済新聞社)、『人材投資のジレンマ』(共著・日本経済新聞社)、『人事と法の対話--新たな融合を目指して』(共著・有斐閣)など著書多数。

坂本 崇博(Sakamoto Takahiro)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/働き方改革PJアドバイザー/一般健康管理指導員
2001年コクヨ入社。資料作成や文書管理、アウトソーシング、会議改革など数々の働き方改革ソリューションの立ち上げ、事業化に参画。残業削減、ダイバーシティ、イノベーション、健康経営といったテーマで、企業や自治体を対象に働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポートするコンサルタント。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ