仕事のプロ
組織文化変革は企業の成長をどう後押しする?〈前編〉
新しい制度を整える前にワーカーの意識変革を図る
企業の持続的成長を叶える基盤づくりの一環として、組織文化・組織風土の変革に関心を寄せる企業は多い。しかし、「施策を打ったが社員の行動が変わらない」などの悩みもよく聞かれる。そこで、人材マネジメント論研究の第一人者として知られる学習院大学経済学部経営学科の守島基博教授に、コクヨのワークスタイルコンサルタントの坂本崇博が、組織文化変革の方向性を探るためにインタビューした。前編では、「結果が出やすい組織文化変革の進め方」について議論を展開する。
「組織文化」と「組織風土」は 分けて考える必要がある
坂本:私たちコクヨのワークスタイルイノベーション部では近年、多くの企業様から「競争力強化に向けて組織文化を変革したい」「内向きな風土を変えたい」といったご相談をいただきます。
そこで今日は守島先生に、組織文化・組織風土の重要性や変革メソッドについて、詳しくおうかがいしていきたいと思います。
守島:よろしくお願いします。まず前提としてお伝えしたいのが、「組織文化=組織風土」ではない、ということです。日本ではほぼ同じものとして扱われていますが、「風土」は英語だと「Climate」などの単語があてられ、人間の力で、容易には変えられないものを指します。組織における風土は、「現場で長年かけて醸成された行動習慣」です。
それに対して組織文化は、「組織において共有されている価値観や行動規範」を指します。風土とは異なり、文化は「意図的に創り上げる対象である」というのが私の主張です。トップが自社のありたい姿を思い描き、それをもとに現場のワーカーたちが「ありたい姿に到達するために、何を大切にして行動するか」を具体的にしていくのです。
坂本:とても面白い視点ですね。「文化は組織の中で自然と育まれるものだから、変えるのは難しいのではないか」と考える経営者も多いと思います。しかし、意図的につくるものと考えれば変革のハードルも下がりそうです。
守島:そして組織文化の変革で最も大切なのは、トップがつくった新しい価値観をいかに現場のリーダーが咀嚼してメンバーたちに伝え、具体的な行動に落とし込んでいくかです。
イノベーションを起こすには 「創る」を重視した組織文化が不可欠
坂本:組織文化というテーマにおいて私が気になっているのは、「組織文化が企業の成長にどんな影響を与えるか」です。 "失われた30年"といわれる1990年代以降から現在まで、多くの日本企業はイノベーション創出に苦労しています。また、例えば日本とアメリカにおける企業売上ランキングに注目すると、アメリカではこの30年で上位にランクインする企業がガラッと入れ替わっていますが、日本では企業の順位自体はあまり変わらないまま総じて売上高が下がっているのがわかります。 この違いの一因は、日本とアメリカの組織文化にあるのでしょうか? もしそうなら、日本企業の組織文化の課題はどこにあるとお感じになりますか? 守島:商売の基本原則を表す「創って、作って、売る」という言葉がありますが、日本の製造業を担う企業は長らく「作って、売る」を重視してきました。まったく新しいものをゼロから生み出すのではなく、海外や過去の製品を手本に、少しだけ改良を施し、より安価で高品質な製品を作ってきたわけです。ですから多くの企業における組織文化も「作って、売る」に基づいたもので、社員はその文化を基準に行動してきました。 しかし今、企業の経済発展のカギを握るのは、最初の「創って」の部分です。にもかかわらず組織文化が変わらなければ、行き詰るのは当然でしょう。
「創る」を重視する組織文化の企業は 競争力を失わない
坂本:「創る」を重視する価値観をトップが持ち、文化を変革していくことが求められるのですね。
守島:ただし、トヨタ自動車やソニーなど、数十年前から「創る」の部分に注力し、そこに合う組織文化を育ててきたメーカーもあります。
坂本:トヨタ自動車やソニーは現在も、「グローバルブランド・世界ランキング」などで上位にランクインしていますね。
ベストグローバルブランド 2025 - インターブランド
守島:特にトヨタ自動車では、「プロジェクトが終わったら退職する」という暗黙の条件付きでカーデザイナーに大きな権限を持たせるなど、特徴的な新製品開発プロセスで知られてきました。トヨタ自動車といえば「作って、売る」の代表選手と考えられがちですが、「創る」ことも重視してきたのです。
坂本:トヨタ自動車は2025年、静岡県で建設を進めてきた未来型スマートシティ「トヨタウーブンシティ」を公開しました。「創る」を大切にする組織文化が社内に浸透しているからこそ、このような革新的な企画が実現したのでしょうね。
制度変更に先んじて社員の意識変革に 力を入れることで組織文化が変わる
坂本:私たちの部署でも企業様の組織文化変革のお手伝いをさせていただく機会があり、まず制度変更から着手なさる企業様が目立ちます。ただし制度を作っても、実際に活用されないケースも少なくないのです。
実はコクヨでも、社員に前向きな挑戦を促すために「20%チャレンジ 」(社員が所属部署に籍を置いたまま、業務時間の約20%を使って他部署の業務に挑戦できる社内複業制度)を2020年に導入しましたが、制度開始当初は、新しい試みということもあり申し込みの出足が伸びづらい時期もありました。
守島:スマホのOSがアップデートされていないのに、新しいアプリを追加してもうまく動作しませんよね。それと似たような現象で、組織文化変革や意識改革が行われないまま新制度を導入しても、社員のマインドが変わっていないため活用されずに終わりがちです。
坂本:それでも制度変更から着手する企業様は後を絶ちません。なぜでしょう?
守島:制度変更はトップダウンで実行できるため、着手しやすいからではないでしょうか。また結果が見やすいのもあるかもしれません。その際、経営層の方々は「制度が変われば社員の意識も変わる」と判断したうえで踏み切るようです。
しかし、人間の意識変革はそれほど簡単ではありません。例えば、いくら成果主義を導入して制度を丹念につくっても、現場での目標管理手法が「話し合いの中で大まかに決める」など昔ながらのものなら、結果的には今までのやり方に流れてしまいます。
その点、NECグループでは、ジョブ型雇用の導入前に組織文化変革に力をかなり入れました。そのため社員は、「ジョブ型雇用は単なる人事制度改革ではなく、イノベーティブな挑戦を促すためのもの」と解釈したうえで、新しい働き方に移行できたのです。
坂本:確かにコクヨでも、「20%チャレンジ」導入後に社員の意識変革に力を入れたところ、制度を活用する社員が急増しました。ただ制度をつくるのではなく、活用の土壌を育むことが重要ですね。
後編では、「組織文化変革の具体的な手法」や「オフィス空間とカルチャー変革の関係性」について、引き続き坂本が守島教授にインタビューしていきます。
守島 基博(Morishima Motohiro)
学習院大学経済学部経営学科教授・一橋大学名誉教授。研究分野は人材マネジメント論(人的資源管理論)・組織行動論・労使関係論。慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授・教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て現職。厚生労働省労働政策審議会などの政府審議会でも活動。『人材マネジメント入門』(日本経済新聞社)、『人材投資のジレンマ』(共著・日本経済新聞社)、『人事と法の対話--新たな融合を目指して』(共著・有斐閣)など著書多数。
坂本 崇博(Sakamoto Takahiro)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/働き方改革PJアドバイザー/一般健康管理指導員
2001年コクヨ入社。資料作成や文書管理、アウトソーシング、会議改革など数々の働き方改革ソリューションの立ち上げ、事業化に参画。残業削減、ダイバーシティ、イノベーション、健康経営といったテーマで、企業や自治体を対象に働き方改革の制度・仕組みづくり、意識改革・スキルアップ研修などをサポートするコンサルタント。





