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2025.05.16

「ゼブラ企業」が両立をめざす、相反する2つの価値とは?

地域に社会性と経済性をもたらす、ゼブラ企業の可能性

利益追求だけが企業の目的ではない——短期的急成長を求めるユニコーン企業の創出をめざす時代から、新たなビジネスモデルといて「ゼブラ企業」が注目されている。利益追求と社会貢献の両立をめざす、ゼブラ企業の特徴や事例、日本での広がりについて解説する。

ユニコーン企業に対するアンチテーゼとして生まれた「ゼブラ企業」とは

ゼブラ企業とは社会課題解決と経済成長の両立を目指す企業を指し、ユニコーン企業に対するアンチテーゼとして、2017年にアメリカの4人の女性起業家によって提唱されました。

「ゼブラ企業」という名称の由来は、一見相反する目的を両立させることを白黒模様に例えると同時に、現実には存在しないユニコーンに対して群れで行動することで共存をめざすシマウマになぞらえたものと言われています。




ゼブラ企業に共通して見られる4つの特徴

ゼブラ企業には認証制度や明確な定義はありません。ゼブラ企業に共通して見られる特徴やマインドセットとして、次の4点が挙げられます。

・事業成長を通じてより良い社会をつくることを目的としている
・時間、クリエイティブ、コミュニティなど、多様な力を組み合わせる必要がある
・長期的で包摂的な経営姿勢である
・ビジョンが共有され、行動と一貫している

出典: Zebras and Company



短期間での事業拡大や利益を重視するユニコーン企業や、持続可能であるために企業の社会的義務として環境保護や社会貢献活動を行うSDGs経営と異なり、ゼブラ企業は「社会課題解決」がビジネスの核にあり、利益を上げることと同等の優先度になります。

ゼブラ企業のステークホルダーは株主や経営層だけでなく、顧客や取引先、地域など関わるすべての人となります。従業員や地域社会などステークホルダー全体への還元と相利共生をめざし、短期的な利益よりも持続可能性を優先します。そのため、意思決定プロセスや資金調達にも透明性があるという特徴があります。

ゼブラ企業であることを認証する公的機関はないため、社会的な認知や共感の広がりが事実上の判断基準となっています。




代表的なゼブラ企業の事例

社会課題解決と経済性の両立をめざしてゼブラ的価値観に基づいた事業活動を行う、具体的な企業の取り組みを紹介します。



Patagonia(パタゴニア)


アメリカ発のアウトドアウェアブランドであるパタゴニアは、「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という理念を掲げ、廃棄品削減など環境や動物に配慮したものづくりで知られています。また、「1% for the Planet」と呼ばれる売上の1%を環境のために寄付する取り組みや、環境保護活動と連携したアクティビズムも行っています。

https://www.patagonia.com/one-percent-for-the-planet.html



Peerby(ピアビー)


ピアビーはオランダ発祥の日用品シェアリング・プラットフォームで、使い捨て文化を減らし、持続可能な消費を促進するための仕組みです。近所の人同士がものを貸し借りするだけでなく、信頼関係を基盤にした地域コミュニティの形成を重視しています。また、「シェアを前提としたモノづくり」の支援など、日用品メーカーもパートナーとして巻き込むことで、経済システムそのものを変え、生活消費財をサーキュラーエコノミーに移行させる活動に取り組んでいます。

https://www.peerby.com/en-nl
https://press.peerby.com/




日本のゼブラ企業の事例

日本では高齢化や地域創成など、日本固有の課題に対応するゼブラ企業も生まれつつあります。また、中小企業庁は「骨太の方針」「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に「ゼブラ企業創出」を推進すると明記。地域の社会課題解決の担い手となるゼブラ企業(ローカル・ゼブラ企業)の創出・育成をめざし、支援を始めています。国内のゼブラ企業について、具体的な事例を紹介します。



ボーダーレスジャパン


ボーダーレスジャパンは福岡県に本社を置き、世界13か国、50事業の社会起業家を支えるプラットフォームを展開。社会課題を解決しながら得た利益を、次の社会起業家の資金として再投資する「恩送り」の仕組みで、ゼブラ企業が次々に生まれるエコシステムを作っています。

https://www.borderless-japan.com/social-business/



AsMama


横浜市にて事業を行うAsMamaは、街ごとの「頼り合い」をデザインする会社です。具体的には、地域での子育てを支え合い、ものの貸し借りなどを行う共助アプリの開発や、コミュニティ創生事業などを行っています。単なる子育て支援を超えた、地域コミュニティ全体を巻き込んだ持続可能なつながりと共助の創出をめざしている点に特徴があります。

https://asmama.jp/



ハチドリ電力


ハチドリ電力は自然エネルギー100%のみを販売する電力会社。電気代の一部を社会を良くする活動に充てる「ひとしずくアクション」など、電気代を払うことで社会貢献活動を応援できる仕組みを提供しています。利用者はカテゴリーや事業者から支援先を選べます。消費者は自然エネルギーを使うことで地球温暖化の抑制に貢献するのと同時に、社会貢献活動の支援もできる仕組みを提供する取り組みです。

https://hachidori-denryoku.jp/local/




ゼブラ企業のメリットと課題

経営者にとってのメリットとして、企業理念に基づいた長期的視点での経営判断ができることが挙げられます。また、地域問題の解決や共存共生といった志や理念に共感する人材の確保につながることも。特にZ世代・ミレニアル世代はSDGsなど社会課題解決に関心が高く、エシカル消費を重視するため社会貢献型ビジネスが支持されやすいと考えられます。

社会や投資家にとってのメリットには、こうした企業が増えることで社会課題の解決や地域経済への貢献が期待できます。ESG投資が広がり、短期的利益よりも持続可能性を重視する投資家も増えています。

一方で、長い時間軸でのゆるやかな成長を資するゼブラ企業はベンチャーキャピタルなどからの資金調達が難しいという側面もあります。「社会貢献」の評価はあいまいになりやすく、投資家や消費者へのアピールが難しいこともその一因といえます。

また、株主の意向に左右されることなく経営理念を実現するためには、クラウドファンディングや助成金、インパクト投資など、多様な資金の流れを生み出すことが課題となっています。

さらにアメリカのパリ協定からの離脱や脱SDGsの動きが、今後ゼブラ企業やその活動を支援する流れにどのような影響を及ぼすか、注視する必要がありそうです。

地域社会と共生しながら持続可能な成長をめざすゼブラ企業は、これからの時代において重要な役割を果たすはず。日本には「三方よし」の文化など、ローカル・ゼブラ企業の発展に適した土壌があります。今後、政府の支援やESG投資の拡大とともに、ゼブラ企業がどのように成長していくのか。ローカル・ゼブラ企業と地域が連携してエコシステムが形成され、地域課題解決に取り組んでいくことが期待されます。




作成/MANA-Biz編集部