レポート

2026.04.02

本質を見抜き、対話で動かすこれからのマネジメント

これからのはたらくを「カルチャー」と「チーム」から考える

コクヨ株式会社は2026年2月13日、「企業のはたらくをカルチャー・チームから考える。チームとワークCONFERENCE」を開催した。現場のチームマネジメントと組織全体のカルチャー変革の両面から「これからのはたらく」を問い直す2部構成のトークセッションから、表層ではなく本質を見抜き、対話で個と組織を動かす実践知をひも解く。

第一部「チームマネジメントの新常識」

6_rep_034_01.png (登壇者)
荒木秀信氏(株式会社神戸製鋼所 人事労政部本社人事グループ長)
田留拓朗氏(サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部人組織開発部副部長)
安斎勇樹氏(株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO 東京大学大学院情報学環客員研究員)
モデレーター 遠田純(コクヨ株式会社カルチャー本部コクヨアカデミア・ファカルティユニット)


マネージャー受難の時代、組織論は「軍事」から「冒険」へ移行


――働く価値観が多様化するなか、チームマネジメントのあり方が難しくなっているという声を耳にします。今、チームマネジメントにどのような変化が起きているのでしょうか。


安斎:マネージャーの役割は、業務モニタリングと部下の業務管理、外部・部門間調整や中長期業務の主導、人的資源管理...と時代を追うごとに増え続けています。常に複合的な視点を持ち、何役も担わなければなりません。「罰ゲーム」とまで言われる、まさにマネージャー受難の時代です。

これまでのマネジメントは、軍隊の統率に適用される「軍事的組織論」をダイレクトに取り入れてきました。しかし今、これにアレルギー反応を示す若手も増えています。個々の内面性や仕事と個人の価値観のフィット感などを重視する「冒険的組織」への移行期、まさにその過渡期にあると感じています。

6_rep_034_02.jpg 写真左から)田留拓朗氏、安斎勇樹氏


荒木:神戸製鋼は鉄を中心とした製造業を生業としていて、生産現場の人員が多数を占めるため、現場は「軍事的世界観」でないと生産計画通りに、適格な製品を安全につくれない側面があります。ただ、スタッフ部門などでは徐々に「冒険的世界観」に変えていきたいと考えています。

田留:サントリービバレッジソリューションはサントリーと他2社が自販機事業をまとめるために立ち上がった会社なので、会社間のカルチャーと世代間、両方のギャップが存在する難しさを感じています。

安斎:「Z世代とは理解し合えない」など、世代間ギャップが「ある」という前提に囚われていることが、かえって分断を生んでしまっている可能性もあります。 例えば「昭和世代だから厳しくされた方が嬉しい」というのは個人の特性であって、世代は関係ない。個々人が別々の地域で別々の経験をし、異なるコンテンツに触れて育った背景が、今の価値観を形作っているはずです。「同世代には多少似た傾向がある」程度の認識でいいのではないでしょうか。

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「本音」を引き出す前にマネージャーが鎧を脱ぐ


――チームを成長させるためにも、それぞれ違う価値観を持つ個人の対話が不可欠だと思いますが、コクヨのサービス「TEAMUS」の調査結果から、チーム成長のために対話に取り組みたいが障壁や困難を感じている人が8割以上。「チームメンバーの本音が引き出せない」ことを主な課題と感じていることがわかりました。


安斎:ここでいう「本音」とは何か。一緒に仕事をするうえで何を引き出したいかを明らかにする必要がありますね。また、過度に踏み込んで本音を引き出そうとすると相手も構えてしまい、ブロックしたくなります。

6_rep_034_04.jpg 安斎勇樹氏


田留:マネージャー自身も本音を言える関係性が必要ですよね。実は私はシングルファーザーなのですが、気を遣わせたくなくて職場ではずっと隠していました。でもどうしても立ち行かない場面があり、初めてチームで話したら「早く言ってくださいよ、手伝いますよ」と言ってもらえて。それ以降、自分はどんな人間で、どんなスタイルでやっていきたいのかも含めて、チームがうまく回るために必要な情報は自分から積極的に開示するようになりました。

荒木:各部門マネージャーを見ていると、ハラスメントへの恐怖から部下との会話が恐る恐るだったり、忙しさもあって業務の進捗管理しか話していないケースもあり、人と人との双方向のコミュニケーションができていない現実があります。マネージャー自身も鎧を脱いで自己開示する必要がある。そこで私の部署では年に一度、独自に研修を企画し、「研修」という非定常の場を活用して、カジュアルに本音を語り合う機会をつくっています。

安斎:マネジメント研修で、「手を焼いているメンバーへの対応法」など、普段感じている苦労や葛藤などを話し合ってもらうとすごく盛り上がります。ミドルマネージャー同士の交流がない組織は硬直化しやすいですし、フランクに話せる場があるだけで心のケアにもなります。マネージャーに限らず、普段なかなか話せないことを共有する場として研修を活用するのは効果的な関係構築の方法だと思います。




――フィードバックの伝え方に悩むマネージャーも多いようです。


荒木:日頃から関係性を構築していることが下地になりますし、日ごろの会話を通してその人の個性や長所、短所といった「その人らしさ」を見ることが大事だと思います。

6_rep_034_05.jpg 荒木秀信氏


田留:普段から見ていない人にフィードバックされても、刺さらないどころか反発を生むだけです。だから私も普段から「観る」ことを意識しています。ただセールスのメンバーなどは業務中の姿が物理的に見えないので、目視ではなくコミュニケーションそのものを観ることを大切にしています。

安斎:これまでのフィードバックは、教科書的には「即時・証拠・密室」で伝えることが重要といわれてきましたが、現状に合わなくなってきています。ある企業でフィードバックに関する大規模調査を実施した結果、効果的なのは受け手が「期待されている」と感じられるフィードバックでした。つまり期待を持って観察したうえで伝えれば、辛口でも受容されるということ。

特に期末の振り返りはコミュニケーションのチャンスポイントなので、査定を伝えて終わりではなく、しっかり振り返りをしたいもの。その際、メンバー自身が描く成長像と、チームのミッションに基づく期待値を照らし合わせた「成長の着地点」が合意形成できていることが重要です。ここで合意できていると、期中に行動がずれてきた時などに「もっとこうした方がいい」と多少ネガティブフィードバックをしても、きちんと受け取ってもらえるはずです。




「やりたいこと」を引き出す問いの技法


――これからのマネージャーの役割にはどのような変化が求められていくのでしょうか。


田留:私は管理ではなくメンバーが輝ける場をプロデュースすることを意識しています。家庭状況などの背景や、昇格を望んでいるか、モチベーションの源泉は何かなども考慮しながら、他部署の人からも評価され褒められる機会を模索することを心がけています。

6_rep_034_06.jpg 田留拓朗氏


荒木:十把一絡げのマネジメントではなく、それぞれとの双方向の対話を通して一人ひとりの個性や強み・弱みなどを把握し、仕事と結びつけてチームとしての成功体験につなげることが大事だと考えています。とはいえ、自分のやりたいことがわかっている人は少ないので、マネージャーは、「あなたの人生の目的って何?」のように視点を将来に向けて話しかけたりしながら、それぞれの特性や強みを個別に引き出していくことが大事な役割ではないかなと考えています。

安斎:やりたいことは何かと直接聞いても、上司が気に入りそうなWILLしか返ってこないもの。オススメのアプローチ方法は、過去の経験にフォーカスすることです。「この一年やった業務の中で一番やりがいがあったことや、面白かったことは?」と聞くと、選択肢が狭まるので選びやすい。内発的動機を粘り強く引き出すことは、マネージャーの重要な役割の一つです。出てこないなら、自分の質問の仕方が悪いのだと認識しましょう。




――うまく引き出すための問いを立てるにはどのような工夫をすればよいでしょうか。


安斎:マネージャーはPDCAを回すのが得意なはずなので、コミュニケーションにも活用して「プライベートに踏み込んだ瞬間に話してくれなくなった」「結果にはあまり興味がないけれどプロセスの話になると熱く語った」などトライアルしていくといいですね。

6_rep_034_07.jpg 写真左から)遠田純、荒木秀信氏、田留拓朗氏、安斎勇樹氏


安斎:また、私は生成AI時代の重要なキーワードは「興味」や「好奇心」だと思っています。好奇心を持ってAIを使いこなせる人は、自らキャリアを切り開けます。一方で、興味が散漫になり軸を定められない人は、AIの力を十分に引き出せず、その格差が広がっていくと予測しています。
ただ、興味が散漫な人も、興味や好奇心をまったく持っていないわけではありません。好奇心は周囲と助け合うことで、より深まり、高まるもの。そのため、メンバーが「何に興味を持っているのか」を互いに理解し高め合うことがとても重要です。また、互いの関心事を知ることは、世代間ギャップの解消やチームの活性化につながる大きなヒントにもなるはずです。

また、冒頭に「マネージャー受難の時代」という話をしましたが、これからはマネジメントも役割分担していく必要があると感じています。人間は「ヒト」に興味がある人と、「コト」に興味がある人に大別できます。おそらくこれまで企業で評価されてきたのは「コト」に興味がある人が多かったように思いますが、現代のマネジメント環境では「ヒト」を見ることが求められる。一人で両方を担うのではなく、「ヒト」に興味がある人と「コト」に興味がある人が連携しながらマネジメントしていくのが理想なのではないかと考えています。





第2部「老舗企業のジレンマ カルチャー変革で組織を動かす挑戦」

6_rep_034_08.png (登壇者)
宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院教授)
越川康成(コクヨ株式会社執行役員 ヒューマン&カルチャー本部長)
モデレーター 酒井希望(コクヨ株式会社HRCAソリューション)


「変わること」が目的ではない
トランスフォーメーションではなくアダプテーション


――カルチャー変革がうまく進まない、効果が出ないという声をよく耳にします。


宇田川:カルチャー変革が謳われる背景として人的資本経営の影響は大きいと思いますが、変革のボトルネックになるのは経営のコミット不足と、目指すところがあいまいなまま進められること。
カルチャー変革はトランスフォーメーションよりもアダプテーション(適応)が重要で、自社のあり方をいかに維持するかを前提に、時代に適応させて変えるべきところを変える取り組みです。変わることが目的ではなく手段なのに、順番が逆転するとうまくいきません。

老舗企業のような成熟した企業で業績がじわじわと落ちるのは「慢性疾患」の状態。企業も「老化」するのです。これがなぜ起こるかというと、企業が大きくなると分業化・ルーティン化が進み、バラバラに作業するようになります。各部門が自分たちの持ち場の「狭い窓」から課題を見るようになり、互いに見ている場所が異なるので話が通じなくなる。そうすると根本的な問題が見えなくなって、コスト削減や離職対策などの表層的な課題解決に走ってしまいます。全体像を捉えられていなければ、変革を進めることは困難です。

6_rep_034_09.jpg 写真左から)酒井希望、宇田川元一氏、越川康成


越川:縦割りの組織では各部門が自分たちの持ち場を深堀りし、サイロ化が進みます。これは組織の拭いきれない習性です。
会社によって生存戦略は違いますから、自分の会社に合った生き方を磨き込まずに目の前の課題解決に追われるだけではうまくいきません。また、腹落ちのないまま短期間で変えたものは短期間で戻りやすく、「できれば変わりたくない」という人間の習性に負けやすいと感じています。




――「慢性疾患」の状態では、根本的な課題を認識しづらく、ボトムアップで変えていくのは難しいもの。経営が危機意識を持つにはどうすればいいのでしょうか。


宇田川:まずは集団知で課題の全体像をつかむこと。一人で大きな船の全体像を把握することはできませんが、それぞれの視野から見えているものを統合していく取り組みや仕掛けが、非常に重要になってくると思います。

また、「何か変だ」という違和感を放置しないことも重要です。例えば昔、放射線科医が子どもの不自然な傷跡に疑問を持ち続け、十数年かけて「親による児童虐待」という概念を確立した事例があります。「まさか親が子どもを虐待するなんてありえない」と思われていた時代、医師が最初の違和感を放置していたら、この発見にはたどり着けませんでした。

越川:経営側がそうした「現時点ではクリティカルではない課題」に気づくためには、「風を読む」ことが重要です。つまり、今のやり方、今の組織のままならどこまで行けてどこから先は難しいかを予測し、症状が悪化する前にやり方を変えて適応させていく。

また、自社の強みやビジョン、ミッションを直接体感し、「この方向に進んでいこう」と全員で腹落ちできる経験をデザインすることも重要だと考えています。
コクヨの事例では、タウンホールでトップが決定事項を伝えるのではなく、そこに至るまでの思考回路を共有する対話を持つようにしたり、月に一度の昼礼の際に、現場で起きている変化の最先端の事例を共有するなどの取り組みを行っています。

6_rep_034_10.jpg 越川康成




数字だけでは企業は続かない、経営のA面とB面


――こうした共有の取り組みには、どういう意義やポイントがあるといえそうでしょうか。


宇田川:経営には「A面」と「B面」が必要だと考えています。「A面」は、戦略や計画、制度的に合理化できるもの、例えばKPIなど。「B面」は、「顧客や従業員にどうあってほしいのか」「自分たちは何を売っているのか」といった企業固有の問いです。

例えばジャパネットホールディングスは1000億かけて長崎スタジアムシティを建設し、30年かけて投資回収すると話しています。この背景には社長の「街を元気にし、若者が集まる街をつくりたい」という想いがあるそうです。

逆に、辣腕の経営者がやってきて「A面」の改革に取り組んだ場合、一時的に業績を回復させてもすぐに戻ってしまうということがありますよね。「商品やサービスに関わる人にどうなってほしいのか」「自分たちは何をやっている会社なのか」といった自分たちの問いを抜きに、表向き正しい戦略だけで動かしても長続きしない。「B面」を捨てて「A面」だけでポジショニングすると根無し草になってしまうのです。

先ほど越川さんが言われたように、成熟期にある会社は放っておくと分業化が進んで一体感が薄れ、「自分たちは、どのような問題意識に基づき、なぜこの事業を行っているのか」という意味の源泉になる問いもバラバラになり、見失われがちです。そうなると「B面」、つまりカルチャーを再構築する作業にみんなで取り組む必要が出てきます。

6_rep_034_11.jpg 宇田川元一氏


越川:コクヨでは先日「ingCloud」というオフィスチェアをリリースしたのですが、コストや耐久性といった「A面」の数値に追われていると、「没頭できる時間を提供する」という「ingCloud」というイスの本質が見えなくなってしまいます。それ自体が悪いのではなく、そういうものだという前提に立ったうえで、それを乗り越えるために「自分たちはどういう価値を提供しているのか」といった本質を思考する時間をいかにつくるか、これは経営側が意識しなければなりません。

宇田川:人は「意味」に応答する存在です。ですから、会社の数字という「A面」が良くなっただけでは幸せにはなれません。そこで重要になるのが、製品やサービスといったわかりやすい価値を除いた「B面」、つまりその事業を通じて感じられる人間的な意義ではないでしょうか。企業はこの「B面」を通じて共感を集め、投資家も含めた周囲の人々から応援され、仲間になってもらえる存在であり続けることがすごく重要なのだと思います。




分断を繋ぐのは、人事・経営企画による集団学習の場


――これから「B面」に向き合う企業の場合、B面の必要性を合理的に理解して取り組みをスタートさせることに難しさを感じてしまいそうです。どのようにキックオフするといいでしょうか。


越川:こうした取り組みは、経営企画や人事部門がファシリテートする必要があります。表層的な課題解決には即効性があるため、つい優先したくなります。一方で「B面」は、その重要性を理解していても、効果が出るのにすごく時間がかかるので、会社全体で「B面」も議論していこうと言えるのは、経営企画や人事しかいません。
組織の縦と横には大きな分断があるものですが、それを超えて「事業の根本的な目的」を議論しながら、みんなで全体像を見ようとする集団学習の場をつくる必要があると考えています。

6_rep_034_12.jpg 越川康成


宇田川:気をつけなければならないのは、変革に向かうプロセスを話し合う場がいつの間にか社内調整の場になりがちな点です。顧客や地域社会の望ましい姿を常に問い続ける視点は、絶対に忘れてはならないですね。お客さまの話をせず社内調整ばかり気にする会社、拙速に表層的な問題解決をしたがる会社は典型的な「慢性疾患」です。

越川:「わかもの」「よそもの」「ばかもの」を大切にしろとよく言われますが、違和感に気づくうえでこうした人の視点は非常に重要だと思います。順当な人事だけをしていたら固定観念からも「慢性疾患」からも抜け出せません。

変革の結果はそう簡単には出ません。1年で少し兆しが見え始め、3年で新しい風に慣れ、5年で変化を実感し、10年経てばDNA化する。このぐらいの時間軸で重層的に手を打ち続ける必要があります。

宇田川:変革の過程でうまくいかないことは必ずあります。失敗し続けていくうちに、振り返るといつの間にか随分違う場所に立っていたと気づく。「わかる」ということは「何がわからないことなのかがわからない」ということでもあります。つまり、失敗に失敗している状態です。ですから、わかりやすい成功に騙されることなく、ちゃんと失敗を積み重ねながら継続していってほしいですね。

6_rep_034_13.jpg 写真左から)酒井希望、宇田川元一氏、越川康成




文/中原絵里子 撮影/高永三津子