組織の力

2026.03.24

バーチャルオフィスでチームの共創を推進する

ハイブリッドワークベース「TALX」とは?

コロナ禍を経てリモートワークが浸透し、オンラインでの会議やディスカッションは今やワーカーの日常となっている。一方、特にオンラインとリアルを併用するハイブリッドにおいては、参加者間の 温度差や一体感の欠如などが課題となっている。コクヨ、コンセント、PIVOT の3社は、こうした課題に新たなソリューションを創出するべく、VR(バーチャルリアリティ)技術を活用したハイブリッドワークベース「TALX(トークス)」の共同開発に挑んでいる。「TALX」とは何か、どのような体験や可能性をもたらすのか、 プロジェクトメンバーに伺った。

画像左から)コクヨ大月、コクヨ野島、PIVOT吉田様、コクヨ三戸、PIVOTジー様 、コンセント坪久田様、PIVOT三井様、コンセント渡邊様、コンセント峰様、コンセント八尾様

オンラインとリアルの
ハイブリッドワークの課題をVR技術で解決

コクヨとコンセントは、2020年〜21年にかけて、ある大手企業が運営する次世代型のオープンイノベーション施設の内装やコンテンツ制作に共同で取り組んだ。その際に、VR空間上に同社の 国内外の拠点(工場)を再現し、ゴーグルを装着してVR体験ができるデジタルコンテンツを制作したことがきっかけとなり、次なるプロジェクトが生まれた。

「当時は、コロナ禍のなか、リモートワークやリアルとリモートのハイブリッドワークが定着しつつあった時期でした。オンラインもしくはオンラインとリアルのハイブリッドで会議やディスカッションをしていると、オンライン組とオフライン組の間に温度差が生まれたり、オンラインでのプレゼンテーションでは熱量がイマイチ伝わらなかったり、微妙なタイムラグがあることで会話がしにくかったり、メンバー間の関係性が深まらずチームビルディングが難しかったり...といったことがありますよね。私たち自身も感じていたこうした課題に対してVR技術を活用して何かできないか...ということで、2022年からXR領域のエンジニアリングに強いPIVOT を含めた3社によるTALXの企画・開発が始まりました」(コクヨ・大月)

「TALXのプロトタイプを作成した際に、リアルとオンラインのそれぞれのミーティング形態についてプロジェクトメンバーと社内で分析を行いました。その結果、会議の質を示す指標が最も高かったのは対面でのリアルミーティング、次いで全員オンライン、最も課題が大きかったのが対面とオンラインが混在するハイブリッド会議でした。全員がオンラインであれば一定の質を保てますが、ハイブリッド会議では参加形態の違いから、距離感や空気感に温度差が生まれてしまいます。この『物理的な壁』をいかに乗り越えるか。その課題に対する答えとして、TALXでは "一体感の醸成" をテーマに据えました」 (コクヨ・野島)

1_org_198_01.png プロジェクトメンバー及びコクヨ社内によるTALXプロトタイプと各会議形態の評価(N=15)




VR空間上にオフィスを再現し、
同じ空間で同じものを見聞きする体験を提供

TALXでは、VR空間上にオフィスを再現することで、ユーザーに「同じ場所で同じものを見聞きする体験」を提供する。VRというと、一般的に、専用ゴーグルを装着して体験する没入感あふれるものがイメージされるが、TALXはビジネス仕様であることから没入感より機能性を重視し、ゴーグルの装着を必須としていない 。 ユーザーはVR空間上にアバターとして存在し、リアル空間のユーザーから見ると、パソコンの画面上に3次元のオフィス空間が広がることになる。

視界の方向や視点(「自分」の視点・「第三者」の俯瞰した視点)、進む・曲がる・座る・跳ねるなどの動きはキーボードで感覚的に操作でき、バーチャルオフィスの壁にポスターや付箋を貼ったり 、モニターやスクリーンに複数の資料を同時に投影したりもできる。リアル空間の大型モニターにVR空間を映し出すことと、オンライン空間にリアル空間が映し出されることで 、オンラインとリアルをつなぐハイブリッドなワークスペースとして使うことを想定しているが、メンバー全員がVR空間上に身を置き、オンラインでコミュニケーションを取り合うという使い方も可能だ。

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左)「第三者」視点に設定すると、空間の中にいる自分(赤枠の人物)を俯瞰的に見ることができる。また、画像左の人物のように、アバターに自分の顔写真などをはめ込むこともできる ※赤枠は対象の識別のためのものです
右)「自分」視点に切り替えるとこのように見え、より臨場感を味わえる



「前述のオープンイノベーション施設では、来訪者にVR体験を通して工場などを擬似体験してもらうことで、その後のディスカッションやワークショップのシーンで、あそこのあれってああだったね、といった空間性を伴った会話が交わされていたのが印象的でした。同じ空間に身を置いて同じものを見る、場を共有するという体験の価値や可能性に魅力を感じ、TALXの開発においてもそこを追求しています。

TALXでは、主にオンラインとリアルのハイブリッドで使うシーンを想定しており、VR空間だけで完結するのではなく、リアル空間で起きていることを情報としていかに共有するかに重きを置いています。目指すのは、VR空間とリアル空間の会議室のテーブルが地続きでつながっているような感覚。それが心理的なつながりにも影響すると考えています」(コンセント・ 渡邊さん)

1_org_198_04.png 1_org_198_05.png VR空間上の大型モニターにリアル空間の映像を映し出すことで、VR空間とリアル空間が地続きにつながっているような感覚が生まれることをねらっている


1_org_198_06.png 1_org_198_07.png 一般的な2次元のオンライン会議の画面共有とは異なり、3次元のVR空間では、複数あるモニターごとに異なる資料を投影することが可能。会議の参加者はVR空間上を移動し、自分の見たいモニターに近づいて詳細を見ることができる




リアルに近い温度感・距離感を再現し、
コラボレーションの質を高める

TALXが焦点を当てているのが、あらゆるワークシーンの中でも「チームでコラボーションするシーン」での活用だ。具体的には、企画のアイデア出しやプレゼンテーション、アイデアを収束するためのディスカッションなど、チームのメンバーが集まって一緒に活動するシーンが想定されている。

「オンラインだと熱量や空気感が感じづらい、相手の反応が掴めない...という声が、出社派のワーカーから聞かれました。これがチームとしての一体感の醸成やそこから生まれる共創を阻害していると考え、TALXではコラボレーションの質をいかに高めるかを追求してきました。オンラインには、どこからでもアクセスできるという大きなメリットがありますし、録音・録画が手軽にできるといった点でも優れています。こうしたオンラインの良さを活かしつつ、VR技術によりリアルに近い温度感や距離感が得られるよう、"いいとこどり"を目指して試行錯誤を重ねています」(コンセント・八尾さん)

「プロジェクトを進めるにあたっては、私たち自身もVR空間上で集まってミーティングなどを行い、自分たちが感じたことをもとに仕様を改善してきました。例えば、音については、一般的なオンラインミーティングツールでは一人の話し手のマイクの音だけが拾われますが、TALXではリアルと同じように複数の人の声や音が強弱をもって同時に聞こえるようになっています。また、アバターも、発言に合わせて身振り手振りするようになっています。3次元の映像とリアルな音や動きがあることで、メンバー同士がお互いの存在を感じながらミーティングができるようになっています。実際に、TALXでのミーティングはオンラインミーティングよりも楽しいですし、アイデア出しの時などに思考を遠くまで飛ばしやすいと感じています」(コンセント・ 坪久田さん)

1_org_198_08.png VR空間では、話しているアバターの周りに緑のオーロラが表示されるため、誰が話しているか一目でわかる




3つのモードから空間を設定。
リアルなグループワークも可能に

TALXでは既存のメタバースプラットフォームは利用せず、新たにオリジナルのプラットフォームを制作。現在は雰囲気の異なる3つの空間を用意しており、目的や作りたい空気感に応じてモードを選べるようになっている。そのうちの1つはグループワーク用となるコラボレーションモード で、VR空間上にテーブルと椅子数脚のセットが4グループ分用意されている。

「例えばZoomには ブレイクアウトルーム機能がありますが 、ホスト(設定者)以外の参加者は自分のグループの会話しか聞くことができません。 TALXのコラボレーション モードでは、 着席時は特定のエリア(=グループ)内の人の声だけが聞こえる設定ですが 、移動して隣のグループの会話を聞くこともできます。このように、一般的なオンラインツールに比べると、よりリアルに近いグループワークが可能です。また、 音声認識AIによる議事録作成 ができるようにもなっています」(PIVOT ・吉田さん)

1_org_198_09.png コラボレーションモードを起動すると、帯で囲まれたエリアがグループ専用の会話スペースとなり、メンバー間でのみ音声が届くようになる。また、別のグループのエリアへ移動すれば、そのグループの会話に参加することも可能


VR空間の開発過程では、 没入感のあるチルなナイトキャンプモードや、1on1利用を念頭に置いた酒場モードを設定した こともあったが、最終的にはいわゆる「オフィス」らしい仕様に落ち着いたと言う。

「現実にはあり得ない空間や独創的な空間 を設定すると、最初は盛り上がるのですが、慣れてくるとそこで仕事のミーティングをすることに違和感が出てきます。やはりリアルなオフィスに近づけたほうがいい、という結論になったのです。とはいえ、あまりに当たり前のオフィスではつまらないので、天窓や大きな開口をつけて解放感を感じられるようにしたり、大型モニターの下に暖炉を置いてみたりと、非現実的な要素や遊びの要素を入れつつカスタマイズしています。 」(コクヨ・野島)




リアルに集まることがハイコストな時代、
その制約を超える「新たな選択肢」へ

ワーカーの働き方が多様になる中、 チームで円滑にプロジェクトを進めるためのツールとして開発されてきたTALX。実際に企業にどれほどのニーズがあるのか、市場の調査・分析はこれからの課題というが、「プロジェクトベースの働き方が進む今後は、ニーズの高まりが期待できるのではないか」と大月さんは推測する。
「企業として重要度の高いプロジェクトであれば、たとえコストや負荷がかかっても、メンバー全員がリアルに集まる場を設けることが優先されるでしょう。一方、同時並行で複数のプロジェクトを抱えているケースや、まだコストも時間をかけられない新規案件、メンバーが国内外に散らばっているプロジェクトなどもあります。実際、TALXのプロジェクトメンバーも複数のプロジェクトを抱えていますし、拠点もさまざまです。こうした場合には、オンラインもしくはハイブリッドという集まり方は不可避であり、プロジェクトを円滑に進めるためのサポートツールとして、TALXのようなサービスに魅力を感じてくれる企業も出てくるのではないかと思います」(コクヨ・大月)

また、「人材採用の面においても、有利に働くのではないか」と八尾さん。エンジニア業界でも、「優秀な人材を雇いたいなら、リモートワーク可は必須条件」と言い、TALXの導入がプラスに受け止められる可能性を示唆する。

加えて、「TALXの大事な要素に"楽しさ"がある」と吉田さん。「平面的で受動的な既存のオンラインミーティングに比べて、TALXでは自分が見たい資料を見に行くなど3D空間を能動的に動ける余白があり、会議に参加しているという意識が高まりやすく、何より純粋に楽しい。ワーカーがワクワクした気持ちで働くことにもつながるのではないか」と指摘する。

今後は、「実装化に向けて必要な運用・管理面、セキュリティ面も含めて、メリット・デメリットを整理して検討していきたい」と大月さん。「カスタムの部分をより充実させていきたい」と吉田さん。VR空間を使った新たなワークスペースづくりへの挑戦は、これからも続く。




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株式会社コンセント

コンセントは「デザインでひらく、デザインをひらく」をミッションに、企業や行政と伴走し活動を支えるデザイン会社。デザイン経営や事業開発、マーケティングやブランディング、クリエイティブ開発等、サービスデザインの視点と技術を生かして戦略策定から実行まで一貫して支援。また、誰もがデザインについて学べる「コンセントデザインスクール」の運営等を通して「デザインの知の活用」を広く共有。生活者一人ひとりがデザインの視点を身につけ、問題解決に役立てられる社会となることを目指す。
関連サイト:デザインがもつ新しい意味について提言「ひらくデザイン」コンセントデザインスクール

株式会社PIVOT

PIVOTは、「真ん中に『人』がいるデジタルサービスをつくる。」をミッションに掲げ、UX視点の設計、UIデザイン、エンジニアリングの力を掛け合わせた、デジタルプロダクト開発会社。WEBサイトやアプリケーション、システム開発において、ユーザーの"使いやすさ"や"心を動かす体験"を追求しながら、ビジネス・デザイン・テクノロジーを横断的に組み合わせた最適なチームでプロジェクトを推進。ユーザーの「使いやすさ」と「心を動かす体験」を起点に、企業の課題解決と新たな価値創出を支援することで、人とデジタルの関係をより豊かにする社会の実現を目指す。

文/笹原風花