組織の力
新オフィス構築を通じて「One Merck」を実現する〈後編〉
他拠点からも社員が集まる求心力を備えた場に
350年以上の歴史を持つドイツ・メルクの日本法人として、ライフサイエンス、ヘルスケア、エレクトロニクスと幅広いカテゴリーの製品・サービスを開発・提供するメルクグループ。2024年12月にオフィスを東京・目黒から麻布台に移転し、新オフィスでの業務を開始した。社員のウェルビーイングを実現し、グループとして一体感を高めるオフィスのしつらえや、運用上の工夫について、メルクグループジャパン取締役 最高財務責任者および最高管理部門責任者岡本光治さんと、ファシリティマネジメントジャパンヘッドの大庭雅子さんにお話をうかがった。
写真左から)大庭雅子さん、岡本光治さん
「One Merck」を体現する仕掛けを オフィスのあちこちにつくる
――東京・麻布台 の新オフィスは、カラフルな中にも落ち着きがあってとても素敵ですね。空間構築にあたってどんなことを意識なさったのですか?
岡本:内装デザインに関しては、メルクのアイデンティティを具現化するため、生命の基本単位であり「始まり」を意味するセル(細胞)のモチーフをあちこちに取り入れています。色に関しても、メルクのコーポレートカラーに指定されている複数の色を全面に生かしています。
ただ、「日本で長くビジネスを行っている」という日本法人としてのアイデンティティも表現したかったので、内装に木調や和紙など日本的な素材も取り入れています。
岡本光治さん
大庭:オフィスはエリアごとに「FOREST」「SKY」「EARTH」「SAKURA」という、社員投票で決定した名称を付けており、そのネーミングにちなんだカラーで構成しています。エリアごとのテーマを設定してあると、「今、自分がどこにいるか」が一目でわかるのがメリットです。また、ミーティングルームの壁は特徴的で、壁面一面にそれぞれのエリアのカラーを使い、メルクグループのパーパスやビジョンを表すキーワードを使ったブランドデザインを配置しています。
大庭雅子さん
――ミーティングルームの壁すべてに使ってあるわけではないので、派手過ぎずほどよい感じですね。
大庭:ミーティングルームでオンライン会議を行うことも想定しています。メルクらしいビジュアルがビデオに映りこむと、社外の方にもメルクのアイデンティティをお伝えできますから。
ミーティングルームの壁4面のうち1面には、メルクのアイデンティティを示すグラフィックがあり、オンライン会議の際に「メルクらしさ」をアピールする背景としても役立っている
2つのカフェと豊かなグリーンが 社員のウェルビーイングにひと役
――オフィスに2か所のカフェがあり、社員の方が仕事の合間にリフレッシュしていらっしゃる姿が印象的です。どんな意図からこの施設をおつくりになったのですか?
岡本:新オフィスで目指したいことのひとつとして「社員のウェルビーイング実現」がありました。カフェをつくったのもその一環で、オンオフをしっかり切り替えてもらいたいと考えました。カフェは対角線上に2か所 配してあり、社員は気分によってそれぞれのカフェを訪れ、自然とオフィスを回遊できます。
ちなみにカフェで味わえるドリンクのクオリティとバラエティにもこだわっており、社員も「景色のよいオフィスで美味しいカプチーノを飲むと、本当にリフレッシュできる」と喜んでくれます。
フロア内で最も景観の良いエリアをカフェとして開放することで、社員のウェルビーイング実現を目指している
――執務スペースの随所にグリーンが配してあるのも、目が休まっていいですね。
岡本:バイオフィリックデザインの観点からグリーンを多めに取り入れており、社員が気分を切り替えるのに役立つと考えています。将来的には観葉植物をさらに増やしていきたいですね。
執務エリアを中心に観葉植物を多く配し、社員は休憩中に眺めてリラックスできる
異なる領域の社員が交じり合い 心地よい距離感で働く空間に
――オフィス移転をきっかけに完全フリーアドレスに移行なさったそうですが、これまで固定席で働いていたワーカーの方々が、新しい働き方にすんなりなじむことができたのでしょうか?
岡本:移転前から新しい働き方に関するチェンジマネジメントに力を入れてきたので、社員の間に戸惑いはあまりなかったようです。集中したいときは「集中席」へこもり、ゆったりと考えを巡らせたいときは窓際へ行くなど、仕事のモードや気分に合わせて自然に移動しながら働いています。オフィスを機能別にゾーニングしてあるので、社員もABWを実践しやすいのだと思います。 ただ、当初は異なる事業領域の社員が同じ空間で働くのが難しい様子もみられたので、社員が交じり合うよういくつか仕掛けを打ちました。
――たとえばどのような仕掛けを?
大庭:カフェコーナーで季節のドリンクやアイスクリームを提供し 、その際に「自分が所属する 事業部門 以外の方とも話してください」と促して会話が始まるきっかけをつくりました。また、カフェで は定期的にピラティスなどのイベントを行い、たくさんの社員が集まって一緒に過ごせるよう仕掛けています。
地道な取り組みを続ける中で、社員たちも少しずつ顔見知りを増やしているようで、たとえば ヘルスケア部門とエレクトロニクス部門の社員が隣同士に座るなどの光景が当たり前にみられるようになりました。
終業後にもエクササイズやセミナーなどのイベントをたびたび開催。社員は東京の夜景を楽しみながら参加できる
岡本:意外だったのは、「ほどよい緊張感があり、生産性が高まった」という声が多かったことです。「近くに誰が座るかわからない」という状況だと、「テキパキと働かなければ」という意識が社員の中に生まれるのかもしれません。
オープンなオフィスづくりにも 後押しされて一体感が生まれつつある
――移転前に掲げていらっしゃったコンセプトが「One Merck」でしたが、社員の方々の間に一体感が育まれている様子はみられますか?
岡本:フリーアドレスによって異なる事業領域同士の社員がコミュニケーションを密にとるようになり、4フロアに分かれていた頃に比べてグループとしての一体感が着実に生まれつつあると思います。
大庭:ミーティングルームの壁をガラスにしたり、キャビネットを低いものにしたりして極力仕切りや壁をなくしていることも、社員の一体感醸成に役立っていると感じます。社員とマネジメント層の距離も近くなったのではないでしょうか。
岡本:私の個人用執務室もドアを開け放してあるので、社員が話しかけてくれる機会が増えました。ですから移転後は、社員とのコミュニケーションを毎日楽しんでいます。
仕切りがほとんどなく、ミーティングルームの壁もガラス製なので、オフィス空間を広く見渡せる
――他拠点で働く社員からはどんなリアクションがありましたか?
大庭:地方拠点で働く社員も、東京出張の際に「このオフィスは眺望がすばらしく、気分良く働ける」と立ち寄って仕事をしていくことが増えました。新しいオフィスが求心力となって「One Merck」が実現しつつあり、うれしい限りです。
写真左から)大庭雅子さん、岡本光治さん
第38回(2025年度)日経ニューオフィス賞 関東ニューオフィス奨励賞を受賞!
――このたびは受賞おめでとうございます。まずは今回の応募のきっかけをお教えください。
岡本:社員一同で協力し、社外のたくさんの方々にも支えていただいてすばらしいオフィスを構築できたので、オフィスのエキスパートの方々に見ていただく機会をつくりたいと考えました。
――書類審査と現地審査に向けての準備で、特に意識なさったことは?
大庭:応募書類作成時は、社外パートナーの方々と議論を繰り返し、社員の私たちが気づきにくい「メルクの強み」をあぶり出そうとしました。特に、「サステナビリティや社員のウェルビーイングに力を入れる企業は近年増えているが、メルクさんのように長年続けてきたところは少ない」と言ってもらえたことは大きな気づきだったので、書類にもしっかり打ち出しましたね。また現地審査では、移転プロジェクトメンバーが審査員のみなさまをご案内し、オフィスの魅力をアピールしました。 岡本:審査員の方々がオフィスで仕事をしている社員にインタビューする場面もありました。そこに関しては準備をしていたわけではないのですが、社員はみな自分なりの言葉で、オフィスの魅力を伝えてくれたように思います。後日、審査員の方から「ワーカーがとても生き生きと働いている」と高評価をいただくことができ、本当にうれしかったですね。
――受賞が決まって、社内外のリアクションはいかがですか?
岡本:すばらしい賞をいただけて、社員一同感激しています。また、「オフィスを見学したい」と言ってくださるお客さまが増えるなど、社外からも大きな反響をいただいています。オフィスの重要性を再認識し、オフィスはとても重要なインベストメントだと実感する今日この頃です。
今回の移転を担ったプロジェクトメンバー。お揃いのTシャツは、日経ニューオフィス賞の審査員のオフィス案内でも着用
メルクグループジャパン
メルクは、357年の歴史を誇り、世界で最も歴史のある医薬品・化学品の会社で、現在、世界65か国で事業を展開。
日本法人は1968 年に設立され、化成品の輸入・販売を主たる業務としてスタート。ライフサイエンス、ヘルスケア、エレクトロニクスの3つの事業領域を持ち、それぞれの分野で革新的な製品とサービスを提供している非常にユニークな企業。
2024年12月にオフィスを東京・目黒から麻布台 に移転。新オフィスが第38回(2025年度)日経ニューオフィス賞 関東ニューオフィス奨励賞を受賞。





