組織の力

2023.07.12

"つながり"が生まれるオフィスをつくる〈前編〉

丸紅東京本社「Workreationオフィス」とは?

2021年5月の本社移転に際して、新しいオフィスの在り方を定義した丸紅株式会社。「Workreation(ワークリエイション)オフィス」と名づけたオフィスは、2022年に行われた第35回日経ニューオフィス賞で「クリエイティブ・オフィス賞」を受賞した。オフィス移転プロジェクトの進め方やオフィスのコンセプト、特徴について、丸紅株式会社総務部プロジェクト推進室の三浦洋さん、山本恵理さんにお聞きした。

写真:(左から)山本恵理さん、三浦洋さん

経営陣と社員が一丸となって
新しいオフィス構築に取り組む

目の前に皇居の豊かな緑が広がる竹橋の丸紅本社ビル。ビルを建て替えるきっかけになったのが、2011年3月に起きた東日本大震災だった。建物自体に問題はなかったものの、BCM(事業継続マネジメント)の観点から2013年に検討を開始。2016年に日本橋に仮移転し、2021年5月に竹橋の新しいオフィスに戻ってきた。

「当初は総務部内で移転について検討・計画を進め、社員アンケートやオフィスの利用実態調査、ワークショップなどを通して、当社の社員がどのような働き方をしたいのかを調査していきました。そこで見えてきたのが、個人の生産性の向上とカジュアルなコミュニケーションへの要望でした。2017年に不動産開発出身のメンバーと社内公募のメンバーを加えた社長直轄の『新社屋プロジェクト室』を開設し、各部署より集まったタスクフォースメンバーと共に、プロジェクトを推進していきました。新社屋プロジェクト室、タスクフォースのメンバーはさまざまな部署から集まっていて、みんなでどういう働き方がいいか、そのためにはどのようなオフィスがいいかと議論しました」(三浦さん)

働き方に対する社員の意識改革と新しいオフィス構築を両輪で進めていった丸紅。「タスクフォースを中心に、経営陣と社員が一丸となって新しいオフィス構築に取り組んできたことが大きかった」と山本さんは振り返る。

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オフィスの意義や目指す働き方を
社員自らが考え、議論を深める

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、新しい働き方やオフィスについての議論も転機を迎えた。建物完成間近のタイミングでオフィスレイアウトもすでに決まっていたが、リモートワークによる働き方の変化や出社率の低下に伴い、座席数を7割に削減してABW(Activity Based Working)を取り入れることが決定。レイアウトを変更する必要があり、「移転までに間に合わないのではないかとヒヤヒヤした」と三浦さんは当時を振り返って顔が綻ぶ。出社が当たり前ではなったことを踏まえ、第二期のタスクフォースを発足し、オフィスの意義について改めて議論を重ねていった。

「『オフィスの意義ってなんだろう』、『自分たちが目指す働き方ってどんなものだろう』と、社員自らが改めて考え、議論し、オフィスを創り上げていったことも、オフィスコンセプトの浸透に寄与していると思います。また、新しい働き方におけるコミュニケーションやマネジメントについて、社員へインプットする働き方浸透セミナーを開催しました。このセミナーには管理職の9割以上が参加し、社員が新しい環境で働くうえで役立ったと思います。オフィスはつくって終わりではないので、タスクフォース活動は2021年5月の移転後も継続し、課題の吸い上げ、原因の深掘り、解決策の提言・実行に取り組んでいます」(山本さん)

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人と人とのつながり、人と仕事や
アイデアとのつながりが生まれる場所に

こうしてつくり上げた新しいオフィスのコンセプトは、「Chain」。そこにはどのような想いが込められているのだろうか。

「人と人とのつながり、人と仕事やアイデアとのつながりが生まれる場所に、ヒト・モノ・情報が効率的かつ自然に集まり、鎖のように強くつながる場所に、そして、そのつながりから未来に向かって成長する場所に、という意味を込めて、Chainとしました」(三浦さん)

「Chainをオフィスのコンセプトとした背景には、オフィスを通じて丸紅グループの在り姿『Global crossvalue platform』の実現を目指すという狙いがありました。当社は総合商社としてさまざまなビジネスを行い、多様なナレッジやコネクションがあるものの、その掛け合わせはなかなか創出されづらいという現状があります。人と人、ビジネスとビジネスがつながり新たな価値を創出するためにはどのようなオフィスにすべきかを考えた結果、人と人とが集い、交わり、つながる場所というコンセプトに行き着きました」(山本さん)




執務スペースに3つのエリアを設定。
目的やシーンに応じて働く場所を選択する

Chainのコンセプトのもと、オフィスの執務スペースには「Circle」「Huddle」「Round」の3つのエリアを設定。ABWを採用し、目的やシーンに応じて働く場所を自由に選択できるようにした。

「Circle(サークル)は、部署ごとに座席を割り当てたグループアドレスのエリアとなっており、組織の一体感につながる場です。ベースとなる執務席に加えてミーティングスペース、個人ブースなどがあり、業務に合わせて働く場所を選べます。Huddle(ハドル)は、アメリカンフットボールの用語で、プレー前に行う作戦会議という意味です。人数や目的に応じてカスタマイズできる什器を置いており、少人数のミーティングからチームの会合までさまざまな使い方ができます。また、Round(ラウンド)は新しい価値創造の場、想像をめぐらせて円熟させる場、と位置づけています。香りやサウンドスケープなども用いて五感を刺激し、今までにない気づきや発想を促す仕掛けになっています」(三浦さん)

さらに、Roundは「Morning Fresh」「Magic Hour」「Midnight Meditation」の3つの時間をテーマにした空間を創り、フロアを移動してRoundの中でも働く場所を選択できるようになっています。

「Morning Freshは朝の爽やかな空間、Magic Hourは夕方のリビングのイメージで、好きなものに囲まれて家族で団欒をするような落ち着いた空間、Midnight Meditationは真夜中のように、思考をクリアにして集中する空間となっています。特に人気があるのはMorning Freshですね。丸紅の創業の地である滋賀県の山に行って、24時間自然の音を採取し、その音を流しています。木々の擦れあう音、滝の音、動物たちの鳴き声などが聞こえるのですが、朝と夜とでは音が違うんです」(三浦さん)

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Morning Fresh


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Magic Hour


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Midnight Meditation



ビルの1階から4階は一般に開放。
地域に開かれた発信と交流の拠点へ

ビルの1階から4階までは一般に開放。1階にはカフェ、3階には美術品など丸紅のコレクションを展示する丸紅ギャラリー、4階には貸会議室がある。また、千代田区と協定を結び、1階のエントランスホールを災害時の帰宅困難者の受け入れ先としている。

「多様な働き方を実現するワークプレイスと、地域に開かれた発信と交流の拠点というのが、ビル全体のコンセプトです。オフィスビルとして地域にどのように貢献できるかという視点も、設計段階から考えていきました」(三浦さん)

また、4階にはコミュニケーションラウンジ「Oasis」を開設。丸紅グループの社員だけでなく地域の方や一般の人も利用できるオープンミーティングスペースとなっている。

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Oasis


「4階のフロアコンセプトは『陸』で、貸会議室はシルクロードの各都市をテーマとしています。そして、コミュニケーションラウンジは、商人が集う場所ということで、Oasisと名づけました。Oasisでは、丸紅グループの社員とお客さまとのコミュニケーションの創出、さまざまな知が集結したオープンイノベーションの促進を目指しています。コミュニティ形成のためのイベントとして会員によるピッチイベントを開催するなど、ネットワーキングを促す取り組みを積極的に行っています」(山本さん)

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会議室



後編では、新しいオフィスでどのような変化が生まれているのか、引き続きお話しを伺っていきます。



丸紅株式会社

国内外のネットワークを通じて、ライフスタイル、情報ソリューション、食料、アグリ事業、フォレストプロダクツ、化学品、金属、エネルギー、電力、インフラプロジェクト、航空・船舶、金融・リース・不動産、建機・産機・モビリティ、次世代事業開発、次世代コーポレートディベロップメント、その他の広範な分野において、輸出入(外国間取引を含む)及び国内取引の他、各種サービス業務、内外事業投資や資源開発等の事業活動を多角的に展開している。

文/笹原風花 撮影/コクヨ