組織の力

2023.07.13

"つながり"が生まれるオフィスをつくる〈後編〉

新オフィスがもたらすプラスの効果

2021年5月の本社移転に伴い、新しいオフィスの在り方を定義した丸紅株式会社。「Workreation(ワークリエイション)オフィス」と名付けたオフィスは、第35回日経ニューオフィス賞「クリエイティブ・オフィス賞」を受賞した。新しいオフィスでどのような変化が生まれているのか、日経ニューオフィス賞への応募や受賞にどのような意義や効果があったのか、前編に引き続き丸紅株式会社総務部プロジェクト推進室の三浦洋さん、山本恵理さんにお聞きした。

丸紅のルーツや未来に向けた成長を
感じさせるデザインを採用

設計・デザインにおいては、目の前に広がる皇居の景色をビルの中に取り込むこと、丸紅のルーツや未来に向けた成長を感じさせることを、計画時から強く意識した。

「新社屋プロジェクト室のメンバーがデザイナーや設計者と打ち合わせを重ねて、外観や内装の設計・デザインコンセプトを決めていきました。その際には、会社の歴史を読み解いたり、これからの方針やありたい姿を描いたりして、深めていきました。
例えば、外観は白い水平ラインが特徴で、白は旧本社ビルの白い外観からの着想、水平ラインを重ねることで丸紅が積み重ねてきた歴史を表しています。この水平ラインは、エントランスホール壁面のルーバーや受付カウンターと同じ石で構成しており、受付カウンターを原点として壁面ルーバー、外観へとつながっています。外に向かうにつれて広がるデザインとなっており、これは会社や社員が成長していく姿をイメージしています」(三浦さん)

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エントランスホール


「オフィスの各所に、うさぎとかめをモチーフにした装飾がありますが、これは、丸紅の歴史とのつながりを表すもののひとつです。丸紅の礎を築いた古川鉄治郎が、故郷である滋賀県の豊郷町に豊郷小学校(当時)を私財を投じてつくり、そこにうさぎとかめのオブジェを設置しました。古川が恩師から送られた『誰も見ていないところでも努力し、ゆっくりでもいいから前へ進んで行きなさい』という言葉をうさぎとかめの話になぞらえたと言われています。
丸紅の社員にとってうさぎとかめは、このスピリッツを象徴するモチーフなので、新しく入社した人が、なぜうさぎとかめなのか先輩社員にたずねることで、創業時のスピリッツが受け継がれる、そのきっかけになればと考えています」(山本さん)

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うさぎとかめのオブジェ


前編で紹介したように、4階のフロアコンセプトは「陸」。一方、丸紅の来客フロアである5階のコンセプトは「海」だ。

「水があるところに文明が興り発展したという人類の歴史、また、お客さまは我々を育ててくださる水、という意味合いを込めて、来客エリアのコンセプトは『水』をテーマにしており、丸紅の来客フロアである5階のフロアコンセプトを海としました。お客さまと一緒にビジネスの航海に出ましょうというメッセージを込め、来客受付は船をモチーフにしています。
また、5階の会議室の各部屋に、丸紅の国内外の拠点の近くの港の写真のパネルを置いています。全47部屋すべて異なる写真で、海外駐在経験のある社員も多く、お客さまとの会話のきっかけにもなっているようです」(三浦さん)




社員のエンゲージメントや満足度がアップ

では、新しいオフィスになったことで、どのような効果が出ているのだろうか。社員のエンゲージメントや行動にプラスの変化が見られると、山本さんは言う。

「まず、社員のエンゲージメントについては、移転前後でスコアがアップしました。リンクアンドモチベーション社が実施するエンゲージメントサーベイでは、大手企業部門において2022年は第4位、2023年は第3位に表彰されました。スコアアップに最も寄与した項目として『施設環境』が挙げられており、働く環境がエンゲージメントの向上に大きく影響したことがわかっています。
社員の満足度調査についても、移転前はオフィス環境の満足度が60%だったのが、移転後の2021年は87%にアップし、2022年も86%と高水準をキープしています。
また、丸紅では、出社/リモートを含め、働く場所は社員一人ひとりが自律的に選択するものとしており、全社での出社率の目安は設けておりません。それにもかかわらず出社率は約7割となっており、社員が出社したくなるオフィスになっているのではないかと思います。私自身、働く場所の選択肢が広がったことで、快適に働くことができ、また、生産性も上がったと感じます」(山本さん)

なかでも社員に好評なのが、7階にある社員食堂。カフェゾーンやコミュニケーションゾーン、ミーティングゾーンなど食事の時間以外にも社員に利用してもらえるオープンなつくりが特徴だ。自身もよく利用するという三浦さんは、こう話す。

「一番人気があるのが社員食堂ですね。カフェエリアは7:30から21:00まで営業していて、カフェもあります。食堂で朝ごはんを食べてから働き始める人もいますし、夜はアルコールも提供しているので、チームで簡単な飲み会を開いてコミュニケーションをとる姿も見られます。コミュニケーションゾーンにはスクリーンがありスポーツイベントが開催されている時にはパブリックビューイングを開催し社員同士で盛り上がります。
ランチタイム以外は執務をしても良いので、私もコーヒーを飲みながら仕事をしたり打ち合わせをしたりしていて、部署関係なく人が交わる場になっていると感じます。毎週月曜日にメニューを配信していて、おいしいランチが出社のモチベーションになっている社員もいるようです」(三浦さん)

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社員食堂


さらに、2022年に行われた第35回日経ニューオフィス賞では、「クリエイティブ・オフィス賞」を受賞した。

「社員の意識向上や社外に向けてのPR効果、リクルーティング効果もあるのではないかということで、応募しました。それぞれに狙いやコンセプトがあるオフィスなので、それらすべてを限られた応募フォーマットに落とし込むのに苦労しました。伝えたいことがいっぱいありすぎて...。受賞後は社外からの問い合わせが増え、多くの方に関心を持っていただいているという実感がありました。また、賞を頂いたオフィスで働いているということも、社員のエンゲージメント向上につながっているのではないかと思います」(山本さん)




次のステージは、新しい価値創造。
生まれたつながりをビジネスにつなげる

社内的にも良い効果を生み出し、日経ニューオフィス賞を受賞したことで客観的評価も得た丸紅のWorkreationオフィス。今後に向けた課題を伺った。

「規模が大きな会社ゆえに社員であっても知らない人も多いというのがこれまでの丸紅でしたが、近年、他部署の人との垣根が下がりつつあると感じています。『Global crossvalue platform』の実現に向けた次のステージとして、新たなコミュニケーションを生み、新しいビジネスの創出、新しい価値の創出へ繋げていくことを目指したいと考えています。人が動かないと新たな交わりはなかなか生まれないので、フロアを横断して人が動くような仕掛けを考えていきたいです」(山本さん)

最後に、お二人にとってオフィスはどのような場所か、これからオフィス改革に取り組む方々へのメッセージを含めて、お聞きした。

「オフィスは来たくなる場所であり、社員みんなにとってそういう場であってほしいと思います。移転プロジェクトにおいて、私自身は主にハード面を担当しており、移転のかなり前の時期から準備をしてきました。社内の声を聞いたり、デザイナーさんや設計者さんと打合せし物事を決定していく、建物やオフィスをつくるにはとにかく時間がかかるので、それを見越してしっかりと段階を踏んで準備をすること、そして未来に向かって色々なケースを考えておく事が大事だと思います。
実際に急遽ABWを実施する事になった時も様々なケースを予測して今後の変化に対応できるように電気、空調、配線などの設備を検討していた事でレイアウト変更もスムーズに行えました」(三浦さん)

「私にとってオフィスは、人とつながれる場所、新しいつながりが生まれる場所です。これからオフィス改革に取り組む方には、ぜひ、社員の方と一緒につくるということを大事にしていただきたいと思います。社員の方の目指す働き方を実現するためのオフィスができれば、自然と人が集まる場となるのではないかと思います」(山本さん)

「オフィスはつくって終わりではない」という山本さんの言葉通り、Workreationオフィスは今後も進化し続けていきそうだ。ここからどのような新しい価値が生まれるのか、期待が高まる。

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丸紅株式会社

国内外のネットワークを通じて、ライフスタイル、情報ソリューション、食料、アグリ事業、フォレストプロダクツ、化学品、金属、エネルギー、電力、インフラプロジェクト、航空・船舶、金融・リース・不動産、建機・産機・モビリティ、次世代事業開発、次世代コーポレートディベロップメント、その他の広範な分野において、輸出入(外国間取引を含む)及び国内取引の他、各種サービス業務、内外事業投資や資源開発等の事業活動を多角的に展開している。

文/笹原風花 撮影/コクヨ