組織の力

2026.02.20

開校3年目「神山まるごと高専」を紐解く〈後編〉

社会と共に変容し続ける学校に

開校3年目を迎える「神山まるごと高専」では、「βメンタリティ」のビジョンの下、「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校」として、「テクノロジー」「デザイン」「起業家精神」を柱とした実践的な教育を展開している。全寮制で昼夜を共に過ごす学生たちは、何をどのように学び、どう感じているのか。3名の学生と、学生たちを「応援」するスタッフに話を聞いた。
写真左から、教員の新井啓太さん、2年生の川島千奈さん、3年生の市川和さん、1年生の米田和叶さん

1学年40人の全寮制。
全国から集まった学生が学び合う

神山まるごと高専は全寮制。全国各地から集まった学生たちが、寝食を共にする。開校3年目の現在は、1〜3年生まで120人あまりが在籍。男女比はほぼ1:1で、国内の高専全体の女子学生比率は22%程度であることを考えると、バランスの良さがわかる。入試は国語・数学の学力試験とワークショップ、面接で、マッチングを重視して選抜が行われる。
併願を含めた倍率は開校初年度からこれまで10倍前後の高い水準で推移し、全国から出願があるそうだ。前編で紹介したように、企業の寄付による奨学金基金により、学費・寮費は実質無償。ベースには、経済的な理由で進学を諦めることのないようにという設立者たちの思いがある。

電子・電気、機械、建築、情報といった学科に分かれる高専が多いなか、神山まるごと高専は「デザイン・エンジニアリング学科」の単科であるのも特徴の一つだ。「テクノロジー」「デザイン」「起業家精神」を教育の3本柱とし、プログラミング、デザイン、アントレプレナーシップなどの演習系科目が多く開講されている。
一方、国語、英語、歴史、体育などの一般的な科目(リベラルアーツ)もあり、特に数学については早期からハイレベルな内容を学ぶ。

授業は1コマ90分で、午前2コマ、午後2コマ受講する。その後は自由時間で、学生はそれぞれ自分が携わるプロジェクトや課題に取り組む。前後期の2学期制で、長期休暇中には海外留学やインターンシップなど外に飛び出して活動する学生が多いという。

1_org_197_01.jpg 学生は個人もしくはグループでプロジェクトを立ち上げ、グラフィックデザイン、アプリ開発、ロボコン、災害ボランティア活動などに取り組む。写真は、こうした活動を応援する「KMC AWARDS 2025」にエントリーしたプロジェクトの紹介パネル。学生やスタッフの投票により選ばれたファイナリストたちがピッチを行い、起業家講師からフィードバックを受ける


学生たちの生活・活動の場は、大きく2つ。1つは、主に生活を送る「HOME」で、寮のほか食堂や図書館などもある。もう1つは、主に学習やプロジェクト活動の場となる「OFFICE」。講演会やイベントも行える大講義室や学生が自由に過ごせるホワイエなど、空間設計にも工夫がされている。

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廃校になった校舎をリノベーションした「HOME」。HOMEには居住スペースのほか、食堂や図書館、美術室などがあり、学生はOFFICEとHOMEを行き来しながら生活している。今後、生徒数が増えるのを見越し、4・5年生用の寮を新たに建設中


SEK_9692.jpg 学生が授業やプロジェクトに取り組む「OFFICE」。かつては棚田だった土地に建てられており、神山町の景観に馴染むよう平屋の木造校舎とし、この地域の伝統技法である「石積み」も採用されている


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OFFICEで行われるプログラミングの授業の様子。学びの場は講義室にとどまらず、学生は思い思いの場所で作業をする


1_org_197_06.jpg 200名収容可能な、OFFICE内の大講義室。神山町産「神山杉」を使用しており、ぬくもりが感じられる。空間は階段状かつ扇形に広がっており、日々、講演会やイベントなどが行われる


1_org_197_07.jpg OFFICE内の講義室・演習室は全面ガラス張りになっており、明るくオープンな雰囲気。廊下を歩いていると中の様子がよく見える




ここでしかできない学びと
応援してくれる環境がある

市川和(やまと)さん(3年生/1期生)は東京都出身。父親の紹介で神山まるごと高専のことを知り、「英語に強い都内の高校と迷ったけど、テクノロジーもデザインもアントレプレナーシップも、それまで触れたことがなかったけど楽しそうで、自分がワクワクするほうを選んだ」と振り返る。

「中学までは美術が苦手で嫌いだったんですが、神山まるごと高専の授業を通してデザインという視点やデジタルツールの使い方を学び、自分が表現したいことを表現できる喜び、楽しさを知りました。義務感でやっていた勉強も、今はデザインという自分の軸ができたことでものの見方が変わり、学ぶこと自体が面白くなってきました。3年生になってからはグループワークやプレゼンテーションの機会も増え、質のいいインプットを得つつアウトプットする、バランスの良さを実感しています。最近気になっているのはAI。アプリのコーディングなどにAIを使っているんですが、技術の進化がすごくて。今後は、AIに置き変わらない、より抽象度の高い部分のデザインにも挑戦していきたいと思っています」(市川さん)

1_org_197_08.jpg デザインに関心があり、寮の共有スペースの空間デザインプロジェクトにも参画している市川さん


川島千奈さん(2年生/2期生)は、滋賀県出身。「新しい学び方や視点が得られる気がした」という直感に従い、神山まるごと高専のサマースクールに参加した。そこで出会った参加者とも気が合い、「この学校なら、何かが変わるかもしれないと思えた」と言う。

「中学時代は、こうあるべきとされる世の中のルールに納得がいかないことが多くて。神山まるごと高専は、そうしたモヤモヤに対して疑問を投げかけることや変えようと行動を起こすことをよしとする、もっと本質的なことを大事にする学校だなって思ったんです。実際に入学してみて、違和感に対してなんで?と言える空気や、問いを追求することを応援してくれる環境があると感じます。授業も、問いを立ててなぜなのかを主体的に考えるシーンが多く、これまでとは全然違うなと感じています。チャンスがたくさんある学校なので、もっともっと、この恵まれた環境を使い倒したいです」(川島さん)

1_org_197_09.jpg 編集者の仕事に興味があり、長期休暇中には出版社でのインターンシップを経験した川島さん


米田和叶(わかな)さん(1年生/3期生)は、兵庫県出身。行きたい大学や学部が明確でないまま高校に進学することに違和感を抱き、5年間学ぶなかで進路を決めようと高専への進学を視野に。そんな折に神山まるごと高専の学校紹介イベントに参加し、「ここだ!」と思ったと言う。

「プログラミングやデザインに興味があったので、絶対ここだと思いました。実際、いろんな方の話を聞いたり、プロジェクトに参加したり、他ではできないような貴重な経験ができていて、間違いない選択だったと思っています。今後は活動や学びの幅をもっと広げて、先輩たちのように、自分もイベントやプロジェクトを立ち上げてみたいと思っています」(米田さん)

1_org_197_10.jpg 「スタッフが学生と同じ目線で話してくれるのもこの学校のいいところ」と話す米田さん




学生を信じ、学生の「やりたい」を
全力で応援する

120人あまりの学生たちをサポートするのが、スタッフたちだ。新しい学校づくりや教育に挑戦したいと考える教員や職員が全国から集まっている。学生に接する際に大事にしているのが、学生を信じ、学生の「やりたい」を応援するというスタンスだ。同校事務局長の松坂孝紀さんはこう話す。

「私たちスタッフがやるべきは、学生に転ばぬ先の杖を渡す指導や支援ではなく、学生が失敗しても自分の力で立ち直ることができる存在であると信じ、応援すること。もちろん、必要に応じて指導や支援をすることもありますが、まずは応援から入ることを全員が共有しています」(松坂さん)

1_org_197_11.jpg 「スタッフ・学生かかわらず、学校の理念やスタンスの言語化と共有を大事にしている」と話す松坂さん。ライブラリーにはパートナー企業が提供する書籍のコーナーもある


加えて、デザイン担当・学習チームリーダーの新井啓太さんは、「仲間がいることの大切さ」を強調する。

「開校前のミッション、ビジョンづくりから日々の授業づくりまで、みんなでつくろうという空気があるのが、神山まるごと高専が他の学校と大きく違うところだと感じています。実際、科目を横断したコラボレーションも頻繁に生まれています。デザインとテクノロジーをいかにつなげるか、そこに起業家精神をいかに盛り込むか、私たちスタッフも試行錯誤の連続です。でも、同じ方向を見ながら一緒に走る人たちがいる心強さのおかげで、前に進むことができています。年2回、スタッフの合宿があって、オフラインで徹底的に議論をするんです。そういう場で目線合わせがしっかりできていることが、この学校の強みだと感じます」(新井さん)

1_org_197_12.jpg 前任校勤務時代から、教室や学校に縛られない学びの環境づくりに取り組んできた新井さん




変わりゆく社会と共に
変わり続ける学校に

「新しい学校」として取り上げられることの多い神山まるごと高専だが、「新しい学校をつくることが目的ではない」と松坂さんは強調する。

「私たちは、既存の学校教育を変えるんだと意気込んで学校をつくってきたわけではありません。これからの時代に必要な教育ってなんだろう、社会に求められるものってなんだろうという問いを追求した結果、現時点での最善のアウトプットとしてできたのが神山まるごと高専です。これまでとは違うというのは後付けにすぎず、既存の学校や教育を否定するつもりもありません。そして、神山まるごと高専の本質は、新しさにではなく、社会と共に常に変わり続けていくところにあります。いわば、スタートアップ的な論理を学校づくりに持ち込んだわけです。その点において、これまでの学校改革、教育改革とは一線を画す側面があると思います」(松坂さん)

最後に、未来に向けた展望について、松坂さんに伺った。

「神山まるごと高専は、テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校です。テクノロジー、デザイン、そして起業家精神を教育の柱としていますが、大事なのは起業するかどうかにかかわらず、社会をつくっていく側の人間になることです。自分の足で立ち、自分の力で勝負する。目まぐるしく変わるこれからの時代において、社会をより良くしていく仲間、正解のない問いを一緒に探っていく同志となる人材を輩出し、共創が生まれることを期待しています」




【関連記事】開校3年目「神山まるごと高専」を紐解く〈前編〉

神山まるごと高専

2023年4月に徳島県神山町で開校した全寮制の私立高等専門学校。その教育理念は「テクノロジーとデザインで、人間の未来を変える」であり、従来の技術教育に加え、デザインや起業家精神を必修とすることで、創造性と実装力を兼ね備えた人材の育成を目指している。全寮制の環境と、IT企業や起業家が集積する神山町の地域性を活かし、学校と地域が一体となって、社会に変革を起こす起業家を育てている。

文/笹原風花 撮影/佐伯亜由美