仕事のプロ
サステナブルな社会とワークスタイル
ゲームチェンジに対応するために日本に必要なものは「決意」
2021年に実施された世界140カ国の若者による「Mock COP26」にコーディネーターとして参画した一般社団法人SWiTCH代表理事の佐座マナさん。気候変動は待ったなしの状況だが、今だ対策が遅れている日本の現状に危機感を抱き、リテラシー向上を呼びかけている。この危機的状況を乗り越えてサステナブルな社会を実現するために、個人は、企業は何ができるのか。これらの大きなテーマについてお話を伺った。
※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。
日本では環境への取り組みが オプションにすぎない
――佐座さんはサステナブルな社会の実現を目指して活動されていますが、日本の現状をどのように感じていますか? ヨーロッパでは気候危機に本気で取り組まないと未来はないと若者の間でもムーブメントが高まっていますが、日本ではまだまだ自分事になっていません。日本の政治や経済界の方々と話す機会がありましたが、環境問題はオプションにすぎないと思われていると感じています。 ――日本とヨーロッパとの間で環境問題に対する温度差がある理由は、どういうところにあると思いますか? 理由は大きく2つあると思います。一つは日本が災害大国であること。毎年のように大きな地震や台風などの自然災害に遭遇しても、対応力が高すぎるため、短期間である程度普通の生活に戻れているので、危機感を抱きにくいのかもしれません。 もう一つはサステナブルに関する情報が少なすぎること。言語の壁もあるのか、世界中で大変なことが起こっていることを知らなすぎるし、発信されるニュースや情報にフィルターがかかっていると感じます。2022年9月にはパキスタンで大きな洪水が起こって1,500人以上も亡くなりましたし、スペインとポルトガルなどでは熱波の影響で夏1,700人以上が亡くなっています。 世界で異常気象による深刻な災害がこんなにも起こっていることについて日本ではごく一部しか報道されていませんし、地球環境に関する様々な科学的データがあるにも関わらず、ほとんどが日本語に訳されないため知る機会が限られています。
「SDGsのウェディングケーキ」の土台にある 生態系を壊せば社会も経済も崩れることに
――環境に配慮した物づくりやサービス提供が重要だとわかっていても、企業は短期の利益を上げることを優先しがちです。 ストックホルム・レジリエンス・センターが作成した「SDGsのウェディングケーキ」というSDGsの17の目標を3つの層に分類する考え方があります。この土台になっているのが生物圏(Biosphere)で、地球環境の生態系のうえに社会圏(Society)や経済圏(Economy)があると明確に表されています。 2020年の世界経済フォーラムが発行した「Nature Risk Risking」のレポートでは世界のGDPの50%以上は自然からの恩恵のもとに成り立っていると言われています。つまり自然が損なわれると、今までどおりにビジネスを続けることはできないのです。 ですから短期の売り上げ目標が重要だということも十分承知していますが、企業側も消費者のニーズに応えるだけでなく、長期的な視点で消費者や市場の意識を変えていくよう働きかけていかなければ、ビジネス自体が消滅してしまう可能性もあります。 近年ビジネスは使い捨ての消費型から、ゴミを出さないデザインやサブスクなどの循環型に移行しつつあります。実際、ヨーロッパでサーキュラーに素早く取り組み始めた企業はどこも高い売り上げと信頼を得ています。「自社のサービスをサブスク型に切り替えるとしたら?」などと考えることで、今よりもっと大きな利益が得られ、新しいブランディングにもつながるビジネスが生まれ始めているのです。つまり、考え方によっては今が大きなチャンスだともいえます。
サステナブルとウェルビーイングの実現に向けて 企業ができることとは
――日本の中でもSDGsへの関心は高まってきていると感じます。リテラシーが向上して環境のために自分も何かしたいと考える若者が増えてきたら、企業は組織としてどのようなサポートができるでしょうか。 まずは若者の話を聴くシステムが構築されていることが大切ですね。ただし、自分の意見がどこに反映されるのか、誰の何のために役立つのかがわからないと、意見を言おうという気持ちにはなれません。若者は未来を生きる当事者ですから、大人世代が聞く耳をもち、本気でコミットしてくれるとわかれば、アイデアをどんどん出してチャレンジするはずです。 ――仕事においても脱炭素やサステナブルにつながる新しい取り組みにチャレンジしていくことで、働きがいも生まれそうです。 未来は絶望的なものじゃなく、ポジティブなものであってほしい。そのために今頑張ることでイノベーションが起き、今までなかった新しいものが生まれてくるかもしれないと思うとワクワクしますよね。 日本は経済も社会も安定していて技術力も高い。ヨーロッパなど先進的にサステナブルに取り組んでいるモデルを真似してアレンジしながら、より良い未来をつくることはできるはず。日本も決意さえすれば、サステナブル大国としてアドバンテージが取れると信じています。 ※本記事は、MANA-Biz編集部著『LEAP THE FUTURE』(プレジデント社)から、内容を一部抜粋しております。
書籍紹介
LEAP THE FUTURE 未来の常識を跳び越える「働き方」(プレジデント社)
佐座 マナ(Saza Mana)
一般社団法人SWiTCH 代表理事。2020年、「Mock COP26」のグローバルコーディネーターとして、世界的な注目を浴びる。現在は2025年「大阪・関西万博」に向け、100万人のサステナブルアンバサダー育成プロジェクトを推進中。
小林 航大(Kobayashi Kouta)
コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
2017年にコクヨへ入社。営業として、大手法人顧客を中心に100社程度担当し、日々の多様なお困りごとの解決に取り組むことで、顧客起点での問題解決の力が備わる。その後、2021年よりコンサルティング業務に従事し、働き方、働く場の支援を手掛けている。定量、定性的なデータを分析し、実態と理想のバランスに考慮したサポートを常に意識。ワークスタイルに関する営業、コンサルタント、両側面の経験を活かした働き方変革の支援ができる。