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2023.03.22

ビジネスで活用されるデザイン思考、アート思考の違いは?

知っておきたいトレンドワード23:デザイン思考、アート思考

ビジネスにおける思考法として、「デザイン思考」「アート思考」がこれまでにない事業や製品・サービスを生み出す方法として注目されている。それぞれどのような思考法なのか? また、ビジネスのどのような場面フェーズに活用できるのか?

デザイン思考とは

デザイン思考とは、ビジネスの課題解決手法の一つで、ユーザーの潜在的なニーズや感じている不便を明らかにし、課題として再定義して解決策を探る考え方です。世界的なデザインコンサルティング会社「IDEO(アイディオ)」がイノベーション創出という課題に対して実践してきた考え方で、2000年代より広く注目されるようになりました。




仮説検証型アプローチとの違い

デザイン思考が注目される以前から、ユーザーの視点に立った製品やサービスの開発はなされてきました。ただ、それらの多くは、各種調査・分析による現状把握と課題の洗い出し→課題を解決する商品アイデア・コンセプトを設定(仮説を立てる)→実証実験やマーケティングリサーチによる仮説検証→商品化という、仮説検証型のアプローチによるものです。解決できるニーズや課題は、各種調査によって明らかにできるものであることが多く、結果として、市場には似通ったサービス・商品があふれる状態になっていました。 

他方で、モノやサービスがあふれる現代においてユーザーから評価されるのは、顕在的なニーズの背景にある本質的な欲求や不便さ、例えば、「かゆいところに手が届く」「自覚はなかったけれどあると助かる」といったユーザー自身が気づかないような潜在的なニーズを解決する商品やサービスです。

デザイン思考は、この潜在的なニーズを捉えにいきます。具体的には、ユーザーに寄り添い、観察やインタビューによって潜在的なニーズを掘り起こして課題を設定し、解決策を考えるというプロセスをとるのです。この徹底したユーザー視点が、従来の仮説検証型のアプローチとデザイン思考の違いの1つです。




既存事業の改善などに生かせる、
デザイン思考のプロセス

デザイン思考は、具体的にどのようなプロセスで考えるのでしょうか? スタフォード大学にあるデザイン思考を教育する機関、ハッソ・プラットナー・デザイン研究所(d.school)は、目的やテーマに沿って、①共感、②定義、③アイデア、④プロトタイプ、⑤テストの5つを、状況に応じて行き来しながら進めていくのがデザイン思考のプロセスであるとしています。

トピックを決める

デザイン思考で課題解決に取り組む際には、まず、「何について」デザイン思考で考えていくのかが決まっていることが必要です。「今あるサービス・製品をより使いやすいものにする」「高齢者の健康増進に寄与するサービスを考える」など、テーマあるいは目的を確認し、決めていきます。


① 共感(Empathize)

トピックから想定されるユーザーに対してインタビューや観察などを行い、何に不満や不便を感じているのか? 何を必要としているのか? などを探っていきます。


このプロセスが「共感(empathize)」と表現されているのは、インタビューや観察を通じてできるだけユーザーの気持ちに寄り添い、共感を深めることを通して、何が本当の問題なのかを探るからです。自身の持つ先入観や固定観念を極力排除し、「どのような考えからその回答が出てきたのか」など、言語化されていない背景やユーザー自身が自覚していない不満・ニーズまで探っていきます。


② 定義

の共感のプロセスで収集した情報をもとに、「誰の」「何を」解決すべきか、真の課題を定義します。


③ アイデア

②で決めた課題を解決するためのアイデアを出していきます。チームのメンバーでブレインストーミングを行い、出しうるかぎりのアイデアを出したうえで、優先順位づけします。


④ プロトタイプ

そして、アイデアを検証するための試作品(プロトタイプ)をつくります。プロトタイプは、必要なポイントを押さえながら短時間・低コストで「とりあえず」形にします。時間をかけて完璧をめざす必要はないとされています。


⑤ テスト

ユーザーにプロトタイプを体験してもらって、アイデアがユーザーに受け入れられるのか、役に立つのかを確認していきます。そして、ユーザーの反応などをもとに、アイデアを見直したり、プロトタイプを改善していくなどしてブラッシュアップし、実現に近づけていきます。


これらのプロセスは、①から⑤まで一方向で進めるのではなく、解決策のアイデアが十分に出てこなければ定義した課題が適切だったか見直したり、テストがうまくいかなければプロトタイプを見直したりと、状況におじて行き来しながら進めていきます。

このように、デザイン思考は、今あるサービスや製品を改善する際や、ユーザー像がある程度具体的に描けている段階で取り入れると効果を発揮する考え方です。




アート思考とは

アート思考とは、アートの創造プロセスにならい、ビジネスにおいて既成概念や固定観念を超える新たな価値や商品・サービスを生み出すための思考法です。
アーティストは、自己の内部から湧き上がる感情や感覚をもとに作品を生み出します。そして、これまでになかった表現など、他の作品にはない「違い」や「独自性」「その作家らしさ」などがあることがアートの価値を高めます。また、既成概念や固定観念を打ち破るようなアートは、それに触れた人々の価値観を揺るがします。

ビジネスにおいても、これまでにない革新的な商品やサービスを生み出す、いわゆる0→1の事業開発がいっそう求められています。そこで、このアーティストの思考法をビジネスに生かすアート思考が注目されています。




新規事業開発などに生かせる、
アート思考の考え方

アート思考の定義や手法はまだ確立されておらず、研究が進められているところです。アート思考に関する解説などから共通点として言えるのは、課題を出発点に考えるのではなく、自身の動機や欲求、感覚をもとに発想し、既存の価値を打ち破る、革新的なものを生み出す考え方であるということです。
したがって、その性質上、0→1の事業開発や、企業のビジョン、ミッション等の策定、商品・サービスのコンセプトメイキングなどに適した思考法であるとされています。

なお、アート思考を取り入れたフレームワークとして国内で発表されているものには、次のものなどがあります。


アート思考を取り入れながら実現したいビジョンを描くプログラム「ビジョンスケッチ」(電通)
アーティストは、「前提を疑う(問題提起力)」「見えないものを思い描く(想像力)」「想像を現実にする(実現力)」「世の中と対話する(対話力)」の4つの思考回路を循環させながら誰も見たことのないようなオリジナルな作品を生み出し続けているという考えのもと、この4つの力を高めるプログラムを開発しています。


ビジネスシーンにおける新たな発想に結びつける思考法「アートイノベーションフレームワーク™」(凸版印刷、京都大学)
アーティストの思考ロジックにならい、次の5つのステップでアイデアや新事業創出を実現するフレームワークを開発しています。

① 発見:主観と好奇心で自分が面白い、美しい、価値があると信じられるものを発見、特定
② 調査:第1段階で特定した「対象」について、類似のものや考え方の有無、独自性、ユニークさなどを検証
③ 開発:特定された対象に対して自分オリジナルのものにするための手法などを検討、検証し、新規性を検討
④ 創出:アウトプットを創出
⑤ 意味づけ:他者にも理解できるように、最後に、理由や意味を言語化し、評価を世に問う




デザイン思考とアート思考の使い分け

このように、デザイン思考とアート思考はどちらかに優劣のある考え方ではなく、サービスや商品の開発フェーズに応じて使い分けることが効果的と言えるでしょう。

例えば、新しい事業やサービス・商品をゼロから検討する段階ではアート思考で考えてみる、アイデアをある程度修練して事業化・商品化する段階や、事業化した後に改善・軌道修正したり、ユーザー数を拡大したりする段階ではデザイン思考で考えることができるでしょう。



作成/MANA-Biz編集部