仕事のプロ

2018.07.10

スタイリスト経験を武器に在宅ワーク

Vol.26 キャリアをいかす新しい働き方

これまでの時代は、専門性が高い仕事において「現場で働く」以外の選択肢がみられないケースが多々あった。しかしサービスの多様化が進むなかで、看護師が電話で保健指導を行うなど、専門職のワークスタイルにもバリエーションがみられるようになっている。女性向け月額制ファッションレンタルサービスを提供する株式会社エアークローゼットでも、スタイリストの多くは、他の仕事や家事育児、介護などと両立しつつリモートワークで働いている。その一人であるYukoさんに、若い頃に培ったスキルをいかす新しい働き方や、在宅ワークを成功させるセルフマネジメント、自分の強みをとらえ直す視点についてお聞きした。

メディア以外にもスタイリスト
活躍の場が生まれつつある
2015年に開始された女性向けファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」は、プロのスタイリストが顧客一人ひとりに合わせて洋服を選び、レンタル制で届けるサービスだ。スタイリストが顧客のために洋服を選ぶ「パーソナルスタイリング」というシステムが注目され、登録会員数は15万人超と人気を呼んでいる。

このサービスで大きな役割を担うのが、業務委託などで働く約150名のスタイリストたちだ。スタイリストと聞くと、雑誌や広告、テレビ番組の撮影でモデルが着る服をコーディネートする仕事を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、airClosetで活躍するスタイリストは、実際に会う機会のないユーザーに向けて、パソコン上で服をコーディネートする形で仕事を行っている。

エアークローゼットのオフィスにはスタイリストルームが設けられているので、来社して働くこともできるが、業務を担っているスタイリストのうち3分の2は自宅などでリモートワークを行っている。好きな時間に働けるので、家事や育児、介護の空き時間を活用したり、雑誌やテレビなどほかの仕事と掛け持ちしたりも無理なくできるのがこのワークスタイルのメリットだ。
家事・育児とスタイリング業務を両立
Yukoさんも業務委託のスタイリストとして働く一人だ。夫と小学生の子ども2人との4人家族の生活で、仕事をするのは、家族を送り出して家事を一通り済ませた12時から夕方までの数時間ほど。自宅のパソコンで、airClosetのユーザーに届けるアイテムをセレクトし、コーディネートしていく。1日に10件から20件のコーディネートを手がけ、1週間で100件弱。1か月に1回ぐらいは面談などのために出社するが、基本は在宅で働く。

結婚前はフリーランスでファッション誌のスタイリストの仕事をしていたYukoさん。直接顔を合わせる機会のない一般ユーザーのスタイリングは初めてで、「同じスタイリストという職種ではあっても、仕事の内容は今までとまったく違う」というのが第一印象だったという。

「でも、お客さまの好みに寄り添いながら、『新しいファッションとの出会い』というエアークローゼットのコンセプトに合わせて、少しだけ冒険心や遊び心を発揮していただけるアイテムをご提案するのは、今までの仕事とは違った楽しさがあります。お届けした服に関して、お客様から『今まで買ったことがない雰囲気の服で戸惑ったけど、着てみたら予想外に似合って新しい発見ができた』といったコメントをいただくと、とてもうれしいですね。また、出社してほかのスタイリストさんとお会いすると仕事のやり方などについて情報交換できるので、自分のスキルアップにつなげられて励みになります」
出産と育児を見据えて
スタイリストのキャリアを休止
スタイリストとして活動を始める前は、一般企業に3年間勤務した。「自分を表現できる、やりがいのある仕事がしたい」と思い立ち、ずっと憧れていたファッションスタイリストの道へ。専門学校でスタイリングや服飾の知識を学んだ後、スタイリスト事務所のアシスタントを経て独立。女性向けファッション誌の記事を中心に、精力的に仕事をするようになった。

「服のコーディネートを考えるだけでなく、カメラマンやヘアメイクさん、モデルさん、編集者さんとチームで一つの世界を創り上げるのが楽しかったし、記事として形に残るのもうれしくて。二十代は仕事一色でした」

ただし、生活時間が不規則で、体力的にはきつかったという。アパレルメーカーやショップを駆け回って大量の服をリースしたり、撮影現場に長時間つきっきりで服を管理したりしなくてはならないからだ。29歳で結婚し、こどもを意識し始めたとき、今の働き方と子育てを両立させていくのは難しいと感じたそうだ。30歳を迎えた頃からは出産と育児を見据えて仕事の依頼があっても断るようになり、派遣社員として一般企業で働き始めた。

「正直、メンタル面で疲れた、という面もあったかも(笑)。多くのスタイリストさんは、『ストリート系なら負けない』とか『きれいめカジュアルなら自信がある』といった、自分の得意分野を持っています。でも私は、いろいろなスタイルのコーディネートを無難にこなせるけど、突出したものがない。自分らしさを生かした仕事ができると思っていたけれど、私の代わりはいくらでもいると気づいてしまって。自分にしかできないことは何だろう? と突き詰めて考えたら、究極は自分の子どもを産んで育てることかな、とそのときは感じました」
「在宅でスタイリスト」という
条件に飛びついた
32歳で長女、35歳で次女を出産。いったん手放していたスタイリストの仕事を再開したが、仕事の依頼は数か月に1回程度で、安定した収入は見込めない。今後かかる教育費なども見込んで、次女が小学校に入学する少し前から、本格的な復職を目指して仕事を探し始めた。まず応募したのは広告制作会社のスタイリスト職だった。雇用形態は業務委託だったという。広告なら撮影のカット数が限られているため、雑誌よりリースする服の分量が少なく、管理の手間もかからない。育児と両立しやすいのでは、と考えての応募だった。

「でも実際に仕事を始めてみると、撮影に時間がかかることが多く、幼稚園のお迎えを急きょママ友に頼まなくてはいけなかったりして、この働き方をずっと続けていくのは厳しいと痛感しました。迷いながらもう一度求人情報を探したら、airClosetのスタイリスト募集に行き着きました。家で仕事ができ、なおかつ自分のスキルをいかせるスタイリスト業務。もう、これしかないと思いました」
雑誌スタイリスト時代の
コンプレックスを強みに
エアークローゼットにスタイリストとして登録してから2年。Yukoさんは「今の仕事は自分に合っています」と笑顔を見せる。まず大きいのは、家事や育児との両立が無理なく自分のペースでできることだ。先端的なITを駆使してスタイリングをする働き方も新鮮だという。

「もともとスタイリングを考えるのは大好きなので、コーディネートしまくれるのが楽しいですね。私が働いている姿を見ているこどもたちも、『働くって楽しいことなんだ』という印象をぼんやりとでも持ってくれているのではないかと思います」そして仕事を続けて気づいたのが、パーソナルスタイリングという形態が自分に向いていることだった。

「雑誌の仕事をしている頃は、突出した個性がないことが悩みでした。でも、今の仕事はいろいろなお客さまにいろいろなスタイルをご提案すること。つまり、突き抜けたものはない代わりにいろいろなスタイリングができる私の持ち味に合っている、と気づいたんです。コンプレックスに感じていたことが、強みになり得ることに気づき、自信に変わりました」

それに、一般企業勤務の経験も今の仕事ではアドバンテージになるという。

「オフィスで働く生活がそれなりに長かったので、ビジネスカジュアルのアイテムとして何を選んだらいいかもピンときます。パーソナルスタイリングの仕事は、今までの経験をすべていかせる、私にとっての天職かもしれません」
仕事の目標件数と
業務開始時間を決めて自己管理
在宅の仕事では、自己管理力が問われることになる。Yukoさんの場合は、エクセルで管理表を作成して1か月の目標件数と実際の仕事量を記入し、仕事量を「見える化」させることでムラを防いでいる。

「外出などで仕事ができなかった日は、週末に少し時間を取って遅れを取り戻しています。仕事量の目標を決めておけば大まかな収入を見通すことができるので、『今月前半は頑張ったから、後半はゆったり働いてもいいかな』といった目安になりますよ」

「在宅だとダラダラしてしまって仕事がはかどらない」という人は多いが、Yukoさんはセルフマネジメントが比較的得意だという。コツは仕事開始の時間を決めておくことだ。

「毎日の業務スタートは正午からと決めて、できるだけ崩さないようにしています。仕事の時間になったら、リビングのローテーブルについてパソコンを開く。これが儀式のようなもので、いったん座ると家事のことは忘れてスッと仕事に入れます。好きな時間に、好きなようにできるのが在宅ワークの良さですが、私の場合は、開始の時間や場所などを習慣化させた方がスムーズにいくようです」

働き方のバリエーションが増えていく今後の社会では、自分の仕事に対する自信やプライド、置かれた環境の下で自律的に働くセルフマネジメント力がますます求められる。Yukoさんは、若い頃に感じていたコンプレックスを強みとして、在宅勤務において適度に緊張感を保ちながら効率的に働いている。その意味で、まさにワークスタイル多様化時代を体現しているといえるだろう。エアークローゼット側にとっても、多様なスキルとキャリアをもつ人材に活躍の場をつくることがユニークなサービスの提供につながった。今後も、幸せなマッチングが続々と生まれることを期待したい。

Yukoさんの ある1日


7:30 起床、朝食作り、家族を送り出す
8:00~ 掃除、洗濯、昼食
12:00~16:00 仕事(パーソナルスタイリング10~20件)
17:00~ こどもたちの宿題をみる、夕食作り
19:00 夕食
20:00 お風呂
21:00 子どもたちを寝かしつける
21:30~ 自由時間(余裕があれば仕事の続き)
24:00 就寝

株式会社エアークローゼット

"新しいライフスタイルをつくる"を理念に株式会社ノイエジークとして2014年設立(2015年に「株式会社エアークローゼット」に商号変更)。2015年2月に女性向けファッションレンタルサービス『airCloset(エアークローゼット)』の提供を開始し、現在は登録会員数15万人に。プロのスタイリストによるパーソナルステイリング提供社として、2016年10月に実店舗『airCloset×ABLE(エアークローゼットエイブル)』、2017年10月にパーソナルショッピングアプリ『pickss(ピックス)』と現在3サービスを運営している。また法人向けプランや、パソナキャリアカンパニーと提携した『入社お祝いキャンペーン』など同社のパーソナルスタイリングサービスを通して幅広い展開をしている。

文/横堀夏代 写真/ヤマグチイッキ