組織の力

2017.11.29

01Boosterが提案する、これからの大企業による事業創造〈後編〉

大企業に適した、新規事業の開発手法とは?

これまで数々の大企業の事業開発や、大企業と起業家の事業共創の支援などを行ってきた株式会社ゼロワンブースター。同社の取締役であり、大企業とベンチャー企業どちらの勤務経験もある合田ジョージ氏によると「大企業による事業創造がようやく動き始めた」と現状を分析する。今後、大企業が新規事業を創出するために必要な人材とは、そして企業が取り組むべきこととは何なのか、詳しく伺った。

全社をあげて社員を啓蒙し、
潜在的イノベーターを掘り起こす

実際に、大企業が外部の事業創造の支援プログラムを導入して、新規事業の創出を推進していくためには、どのようなタイプの社員を選出するべきなのだろうか? 合田氏いわく「大企業が目指す、大規模な新規事業を創れる人は、ほんのひと握り」 それでも要素としてあげるなら、まずは、「こうした(新規)事業をやってみたいという意欲があること」。そしてもう1つは、プロのアスリートのように「何かしらの能力に長けていること」だという。人を惹きつける力でもいいし、人を使うことが上手いということでもいい。ひとつだけでいいので、ずば抜けて高い能力をもっていること。この2つの要素を兼ね備えているタイプが、大きくて、新たな事業を創れる人材として考えられるという。

問題は、そのような人材をどのようにして社内から見つけるか、である。
「正直これだけは、任せてみないとわかりません。最初にイメージできるのは、普段から新規事業をやりたいといっている顕在的イノベーター層ですが、この層は(全員とは言いませんが)単に業務への不満から発信している可能性が高く、意外と『いざ、やるぞ』となった時に逃げだす人が少なくありません。そこで全社をあげて、新規事業へ取り組んでいくことを全社員に周知させ、啓蒙活動を行っていくことで、潜在的イノベーター層を掘り起こすことが重要になります。特に製造業の工場などでは安全上『やってはならないこと』を中心とした社内教育を受けていたりしますので。いかに、既存の枠組み(考え方)から脱却させることができるかがポイントになるでしょう。実際、私たちゼロワンブースターも、ある大企業から依頼を受けて、世界も含め10ヵ所の工場を回って社員の方々の啓蒙活動を行った経験もあります」

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目指すは、外部と組むか、
社内からのスピンオフ

「ワークショップや支援プログラムを行うと、参加された社員の皆さんにとっては、初めて知ることばかりです。これによって企業の軸(やり方や考え方)も徐々に変えることができます。そして、大企業で新規事業を創り出すために必要な、『個人のWILL(やりたいこと)』と、『会社の存在意義』を突き詰めて考えられるようになってきます」
大企業に在籍する多くの社員は、企業が掲げているビジョンを言葉ではわかっていても、腹オチまではいたっていないのが現状である。それを、ワークショップなどを通じて『会社の存在意義』として考えられるようになれば、新事業を創り出すうえでの指針(コンパス)がもてるようになる。

しかし、社内で新たな事業創造に取り組んだとしても、「自社内だけで継続していくのは一筋縄ではいかない」と、合田氏はいう。
「ほとんど大企業は、これまで社内で逸脱型の新規事業プログラムをつくっても、成功を果たしていません。それは、やはり企業の軸(やり方や考え方)で全てのことを決めてしまうからです。だから変わらない、変えることができないのです」

では、大企業が、逸脱型の新規事業を継続させる方法はないのだろうか?
「2つの手法があります。1つは、自分たちだけで新規事業の開発ができないのであれば、"外部と組む"ことです。スタートアップや大学などと連携したり、当社のようなアクセラレーターと組むという手もあります。そうすることで、自分たちでは分からない自社の強みも再発見できます。ただ、前にもいったように日本の大企業は、他国のように"外部と組む"という考えがまだまだ浸透していないのが実状です。まずは、自社と外部を結ぶ中間人材の重要性を認識して、そうした人材の教育などにも力を入れる必要があり、少し時間を要するかもしれません。それよりも可能性として高いのは、もう1つの社内の新規事業をスピンオフ(別会社にする)させるというやり方です。また、社外で起業した元社員のスタートアップに出資するというのもいいでしょう。こちらの方法を用いたときには、大企業側からあれこれと言い過ぎないことです。別会社(またはスタートアップ)の独自のやり方や文化を大切して、任せることが成功する秘訣です」

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合田 ジョージ(Goda George)

株式会社ゼロワンブースター共同代表 取締役。MBA、理工学修士。東芝の研究開発やグローバルアライアンス、村田製作所の海外拠点戦略マネージメント等に関わり、2011年にはスマートフォン広告のNobot社に参画し、海外展開を指導。KDDIグループによるバイアウト後には、M&Aの調整を行い、海外戦略部部長としてKDDIグループ子会社の海外展開計画を策定、2012年3月末にて退社。現在は同社にてコーポレートアクセラレーター・事業創造アクセラレーターを運用すると共にアジアを中心とした国際的な事業創造プラットフォームとエコシステム構築を目指している。日本国内の企業や行政や大学などで多数の講演やワークショップなどを行い、活動している。


株式会社ゼロワンブースター
運営メンバーの全員が大企業の新規事業開発と起業経験を有するということから、大企業と起業家のいずれの文化も理解したアクセラレータ―として、企業と起業家がコラボレーションできるプラットフォームの構築を行っている。シェアオフィスのほか、独自のメンターやネットワークを活用した教育プログラムによって大企業の事業創出プログラムも手がける。また、同社は世界最大級のアクセラレーター業界団体であるGlobal Accelerator Network(以下 GAN)の日本国内初の「Full GAN Member」にもなっており、グローバルで行われているアクセラレーターの情報やノウハウなどを常に共有している。

文/西谷忠和 撮影/石河正武