仕事のプロ

2017.06.15

自分が働く姿を通して仕事の魅力を伝えたい

Vol.22 タクシードライバーという天職

「kmウーマンプロジェクト1000」と称し、2020年までに女性社員を1000名に増やし、うち680名はタクシードライバーとして採用することを目指す国際自動車(kmタクシー)。職場環境の改善や人財採用に力を入れた結果、この3年間で女性ドライバー数は約1.7倍に増えた。そんな女性ドライバーの一人、河野さんは、2014年に入社し、現在はドライバーの班長や研修コーチとしても活躍している。タクシードライバーになった経緯や業務の実態、さらにその魅力について、河野さんに伺った。

主婦、銀行事務員を経て、
タクシードライバーの道へ
「タクシードライバーの仕事が大好き」と笑顔で話す河野さん。前職は銀行の事務員だ。20年間ほど専業主婦として家族を支えた後、銀行事務の職に就いた。安定した仕事ではあったが、業務は単調で努力も評価されず、次第に物足りなさを感じるようになった。転職を決意したものの、資格も専門スキルもない。自分には何ができるだろうかと考えたときに浮かんだのが、車の運転だった。
「運転が好きで、とくに人をお乗せして走るのが大好きだったんです。ちょうど転職サイトを見ていたら、kmタクシーで女性ドライバーを募集しており、タクシーを運転してみたいという気持ちが湧いてきました。実際に社員の方にお会いすると、歓迎されているのが伝わってきて、ここで働きたいと思い決めました」
事故を心配して夫は反対したが、最後には「日勤のみ」という条件で認めてくれた。入社して1か月あまりは、研修を受けた。教習所に通い普通自動車第二種免許を取得し、都内の地理などの勉強をし、試験を受ける。まるで学生時代に戻ったかのような日々は、とても新鮮だった。
努力が成果につながり、給与も倍増。
人との一期一会も喜びに
乗務するまでは不安もあった。事故に遭わないか、長時間運転できるか、乗客はいるのか、ちゃんと稼げるのか...。しかし、実際に乗務してみると、予想を遥かに超えておもしろかった。給与も銀行事務員時代から倍増し、自信もついた。
「大好きな運転をして、人をお乗せしてお金をいただいて、頑張れば頑張るだけ稼ぐことができて...。なんだかゲームの世界のようで、すぐにこの仕事にハマってしまいました。いろんな方とお会いできるのも魅力です。タクシーでの出会いは、まさに一期一会。他の人には言えないような話をポロっとしてくださる方もいて、そういう存在になれることにも喜びを感じます。また、転職前は老後を考えて不安を感じていたのですが、給与が増えたことで、家族に何かあったときにも私が支えられる、自立できるという自信と安心感が生まれました」
河野さんには3人のこどもがいるが、うち2人はすでに独立し、自宅にいるのは高校2年生の息子だけだ。「家族は自立すべき。夫と息子には、自分のことは自分でやってもらう」というのが河野さんの考え方。家事はするが、仕事をするうえで負担に感じるほどではない。また、タクシードライバーの仕事は休日が固定ではないため、家庭の事情に合わせてシフトを組めるのもいいところだ。
営業所初の女性班長に抜擢!
女性ドライバーを先導する存在に
河野さんは、江東区の東雲営業所初の女性ドライバー。女性専用フロアには、シャワーや仮眠室、ロッカールームなどが完備されている。
「1、2名の事務員以外は全員男性という職場で最初は緊張しましたが、女性が少ないからこそ気にかけて優しく声をかけてくださり、やりにくいと感じたことはまったくありませんでした。女性ドライバーにとってトイレ問題は重要なので、使いやすく清潔なお手洗いの場所を記したマップを会社で準備してくれていたのはありがたかったですね」
現在、東雲営業所には12名の女性ドライバーが勤務している。シフトの関係で頻繁に顔を合わすことはないが、会えば情報を交換し、ときには待ち合わせてランチをとることもある。新人にはトイレの位置や休憩しやすい場所、営業の仕方などをアドバイスし、積極的に声をかけてフォローをしている。
そして昨年9月、河野さんは班長に抜擢された。東雲営業所では初の女性班長だ。班長3名で約100名のドライバーを担当し、ドライバーとしての業務に加えて、配車、納金、勤怠などの管理や指導といった内勤業務を交代で行う。また、他部署への出向もあり、河野さんは現在、kmタクシーの研修施設「km赤坂ホスピタリティカレッジ」にてコーチを務めている。
「班長になってからは周囲から頼られることが多くなり、責任の重さを感じています。ドライバーと管理職との間に立つ立場なので、ただ言われたことを伝えるのではなく、いかにわかりやすく伝えるか、気持ちよく仕事をしてもらえるよう伝えるかを意識しています」
自らの姿を通して、多くの女性に
タクシードライバーの魅力を伝えたい
ドライバーになって3年目を迎える河野さんには、今、プロフェッショナルとしての自信と誇りが芽生えている。
「入社当初は、女性のドライバーさんでよかった、と言われるとうれしかったのですが、最近は、おかげで早くついたよ、などとドライバーとしてのスキルを褒められることがうれしくて。女性ならではの気づかいやきめ細やかさを大切にしつつ、お客さま一人ひとりのニーズを察し、自ら考えて行動するホスピタリティにも磨きをかけていきたいと思います」
女性ドライバーはkmタクシー全体で160名を超え、数年前と比べても同業他社と比べても大きく増えたが、それでもまだ少数派だ。
「タクシードライバーは女性にとっても魅力ある仕事だということを、多くの人に知っていただきたいです。そのためにも、まずは私自身が楽しんで仕事に取り組み、いろんなことに挑戦したいと思います。その姿を見て、タクシードライバーになろうと思う女性が一人でも増えてくれればうれしいです」
女性ドライバーの起用を促進するkmタクシー。現在は、河野さんのようにこどもが成長してからドライバーになるケースが多い。出産・育児を経験する世代にどう対象を広げていけるか、今後のさらなる取り組みが期待される。

河野さんの ある1日


4:30 起床
5:00 家事をしつつリラックスタイム
6:00 朝食
6:40 自転車で東雲営業所に向かう
6:50 東雲営業所到着
7:15 点呼
7:30 出庫
7:30~17:00 タクシー乗務 ※途中、合計1.5時間の休憩あり
17:30 納金・洗車
18:00 退社後、買い物へ
18:30 帰宅
19:00 夕食準備
19:30 家族と夕食
21:00 入浴
22:00 就寝

文/笹原風花 撮影/石河正武