ライフのコツ

2013.11.27

今すぐできる! 文房具あそびの魅力

文具王に聞く「楽しみながら道具に慣れるコツ」

“日常で使う便利な文房具の数々は、こどものあそびにおいても大活躍します。そこで今回は、文房具の企画開発に携わり、「文具王」の異名もとる高畑正幸さんに文房具を使ったあそびやその魅力などをうかがいました。手軽で楽しい文房具あそびには、“道具を自在に使いこなせるようになる”という大きな可能性が潜んでいるようです。

文房具には開発した人の素晴らしい知恵が詰まっている
今回取材を行ったのは、高畑さんのご自宅。「色ペン」、「テープカッター」、「シャープペンシル」...種類別に分けられたクリアボックスの数々がところ狭しと並んでいます。そのわけ方は、例えばボールペンひとつにしても、油性・水性・ゲル・特殊と、収納されているのに圧倒されます。「文房具は何かをやるためのもの。だから同じ種類のものでも、目的に合わせて商品ごとに仕組みが違うんですね。だから僕は色柄違いにはほとんど興味がなくて、より便利になるために施された仕掛けの部分に魅力を感じているんです」

大学生のころテレビ番組の「文房具通選手権」で3度の優勝を果たし「文具王」となり、文具メーカーに勤務した後も、文房具に携わる多くのプロジェクトを手掛けてきた高畑さん。もともと小学校のころから、文房具を巧みに使いこなす少年だったとか。

「理科の授業が好きでした。中でも時々あるNHKのテレビを見る授業では、視聴後の残り授業時間中に、見た内容をノートにまとめて提出するきまりでした。ノートがわかりやすくキレイに書かれていると先生の評価が高いのですが、これがだんだんとエスカレートしていき、そのうち文房具などあれこれ使ってみました。砂鉄と磁石を使って"水の対流"を表現したり、"熱が伝導していく様子"を表すのに、絵を描いた透明なセロファンを何枚も重ねて、それをペラペラめくって見るような仕掛けをしたり...。そうすると、返却されたノートに先生が"まいりました"とかコメントしてくれているのがうれしくて、ますます凝ったノートをつくることにのめり込んでいきました」

「あれこれ文房具を使って表現することが好きでしたが、マンガや小説などを創作するのが苦手だったので、身近にある文房具について絵を文章で表現する『素晴らしき文具たち』というコラムを書きはじめました。最初は特に発表の場がなかったので、生徒会報の裏のあまったスペースとかに入れてもらったりしていました」
この文房具レビューは、やがて同人誌へと発展、さらに別件で取材にきたライターの方の紹介で、出版社の編集者の目に留まり、『究極の文房具カタログ【マストアイテム編】』(2006年 ロコモーションパブリッシング)の出版に至りました。
大量の文房具が整然と並べられた高畑さんの自宅スペース。
工夫が詰まった小学校時代の理科ノート。左ページは砂鉄を用いた対流の説明。感心した先生のコメントも見える。
いかに面白がるかが文房具あそびのポイント
このように文房具を知り尽くし、あらゆる使い方を試し続ける高畑さん。文房具から生まれたモノやあそびの数々が膨大にあり、その一部を紹介してもらいました。例えば、ミシン目で切り取れるメモ用紙(「Tidbit(チビット)」)を使ってキリンやゾウといった紙の動物たちをつくってみたり、紙を四角く切り取ることのできるパンチを使い、雑誌から人の顔や顔のパーツを切り取って手帳に貼ったてづくり「フェイスブック」、さらにはデータをダウンロードしてつくるペーパークラフトを縮小印刷して、ピンセットで組み立てるあそびや、ハサミを駆使してつくる紙の作品など、いろんなあそびがどんどん出てきます。
ミシン目入りメモ「Tidbit(チビット)」でつくられた動物たち。
ハサミで紙を微細に切ってつくった本物そっくりの羽。
フォトカッターで雑誌から人の顔や目などを切り取って貼った「フェイスブック」。
ピンセットを用いて組み立てた超ミニ・クラフト。
また、極めてユニークな年賀状も、高畑さんらしい工夫とあそび心が詰まっています。
「新年の挨拶って、今はEメールで済ませられますよね。写真を送るだけならEメールでも充分できますし、両面自動印刷したものを投函するだけなら、紙のハガキで年賀状を送らなくたっていいわけです。だからこそ、"年賀状を出す意味って何なんだろう"ということを改めて考えて、じゃあ絶対にEメールではできない、デジタルでは表現できないものを作ろうって思ったんです。まず、宛名面は絶対にプリンターを使わずに筆ペンで手書きです。これは書いている数分だけでも相手のことを確実に思い出した証拠でもあります。そして中面については、例えば、2013年は巳年だったから、"蛇"と"heavy(ヘビー)"をかけて、年賀はがきに堅紙を重ね貼りして厚く・重くしたものをつくりました。送るのには余分に切手が必要でしたが(笑)、厚さや重さって絶対にデジタルでは表現できませんからね。その前年には、辰年ということで、はがきにミシン目を入れて、切り取って組み立てれば龍が完成するという、ペーパークラフトタイプの年賀状を送りました」

"いかに面白がるか"が、文房具を使ううえでの高畑さんのポイント。そして、必ずしもはっきりと目的を持って道具を使おうと考えなくても良い、と言います。
「目的なんて、なくても良いんです。文房具を使って、こどもに何かさせようとすると、大人は決まって何か意味のあるものを描いたり、作ったりさせてしまいがちなんですよね。"貯金箱を作ろう"とかね。でも、例えば1枚の紙をハサミでひたすら細かく切り刻んでいくとか、パンチでひたすら穴を開けるとか、クレヨン1本でひたすら塗りつぶすとか、折り目のないスペースがなくまるまで紙を折り続けるとか...そんなことでいいんだと思います。目的のあることを無理にやらされるより、そのほうがずっと面白くて続けられるし、いろんなことに挑戦できる。それと、"目的のないことに紙やクレヨンを使いまくるなんてもったいない"という気がするかもしれませんが、紙やクレヨンなんて、すごく高価なモノではないでしょう? それならば、いろいろなものを使っていろいろなあそびを試したほうが良いと思います。最初からつくりたいものが頭の中で完成しているわけがないんです。いろいろやっているうちに見えてくる。そもそも、ものを大切にするということは、ただ大事にとっておくことではなく、しっかり最後まで使い切ってあげることだと思うんですよね」

そう話しながら、実際にハサミで紙を切り刻む高畑さん。いつの間にか、驚くほど細い千切り状態の紙ができあがりました。
左が昨年(辰年)、右が今年(巳年)の年賀状。
驚くほど細い千切り状態になった紙の破片。
真剣な大人のサポートでもっと文房具が楽しくなる
高畑さんはさらに続けます。
「なによりも道具を自分の手足の先として、ちゃんと使えるようになることが大事だと思います。思いどおりに道具を使うには身体をどう動かせばいいのかということを、シンプルなあそびの中で身につけていく。そうやって手・身体・脳がうまく同期するようになって、いろんな表現ができるようになってくると思うんです。後々になって実際に表現をするときに、その身についた技術がとても役立つと思うんです」
ちなみに目的のないあそびも、最後にひと工夫加えるだけで意外な面白さが生まれるとのこと。
「さっき紙を切りましたけど、あれをさらに縦横に細かく細かく切っていくと、紙がひとつまみの粉ぐらいになります。それをかわいい形のビンに入れてあげると、なんだかこれだけでも貴重な何かに見えてきませんか? こうすれば作品だ!って言い張れる(笑)。そういう最後のちょっとしたひと工夫を親がやってあげると、こどもはより楽しめるんじゃないかな」

また、道具選びもあそびをより楽しくする重要なポイント。 「さっき文房具は高いものじゃないという話をしましたが、その中で質のいいものを選ぶことをオススメします。例えばホッチキスの針にしても、きちんとしたメーカー製のものは、打ったときに手に伝わる"パチン"という感覚がとても気持ち良い。ハサミも切れ味の良いもののほうが、切っていて楽しいですからね」

最後に、これから文房具を使ったあそびにわが子をチャレンジさせたい!というお父さんやお母さんに、メッセージをいただきました。
「あそびはやっぱり、大人も一緒にやったほうがいいと思いますね。それもやるならオトナゲナイぐらい本気で(笑)、大人が何か面白そうなことをやっていると、こどもって絶対やりたくなるんですよね。僕の昔のノートの話もそうですが、先生が真剣に対応してくれたことで僕も熱が入ったし、僕たちが一生懸命になったことで、先生も本気になれたと思うんですよね。だから親も本気になって、競争して負かすぐらいの勢いで遊ぶといいかも(笑)。そうすると大人が圧勝しちゃうかもしれませんが、それでいいと思うし、勝てなければいっしょに楽しめばいい。料理なんてそうだと思うんです。お母さんの方が圧倒的に上手。でもそれを見て出来るようになっていくわけですし、頑張って大人になったら、あれもこれもできて楽しいってことを教えてあげればいい。大人の凄さを見せつければ、こどもはどんどん本気になってくれると思いますよ」

今後、レシピのコーナーでは文具王が監修したあそびも紹介していくので、ぜひ家族で試してみてください!
小学校のノートから、文房具の同人誌、初出版の本まで、自身の変遷とともに。
高畑 正幸

高畑 正幸

テレビ東京の番組「TVチャンピオン」全国文房具通選手権に出場、1999年、2001年、2005年と3連続優勝を果たし「文具王」の座に
つく。サンスター文具にて10年間の商品企画を経て、マーケティン
グ部に所属。2012年に退社し、同社とプロ契約を結ぶ。その後は
文房具のトークユニット「ブング・ジャム」の結成や、各種文具
イベントを手掛けている。

  文/イデア・ビレッジ 撮影/橋本勝美