組織の力

2020.11.20

withコロナ時代に求められる「ウェルビーイング経営」とは?〈前編〉

“攻め”の施策で、健康の維持・増進を組織と個人の生産性につなげる

コロナ禍によりはからずもリモートワークが急速に浸透したが、在宅勤務により『睡眠不足が改善された』『ストレスが軽減された』というポジティブな声もあれば、孤独感や不安の増大、意欲の低下などの不調を訴える声も少なくない。こうした状況のなか、改めて注目されているのが、「健康経営」という考え方だ。企業・組織の健康経営や従業員のウェルビーイングに詳しい、武蔵大学経済学部 森永雄太教授に、健康経営とウェルビーイング経営の違いについてお聞きした。

従業員のウェルビーイングには、「健康+意欲・一体感」が必須。
内発的・自律的にいきいきと働ける職場づくりを

では、従来の健康経営からウェルビーイング経営へとステップアップするには、どのような視点が必要なのだろうか。


ウェルビーイング経営で重要なこととは

これまでの健康経営が志向してきた狭義の"健康"という土台のうえに、仕事への"意欲"や集団への"一体感"を積み上げていくことが、ウェルビーイング経営においては重要になる。

「マイナスをマイナスではない状態に戻すのは医療や心理の分野であり、従来の健康経営はそこに取り組みが限定される傾向にありました。一方、プラスを積み重ねて仕事へのモチベーションや組織へのエンゲージメントを高めるのは人事の分野です。両者が連結していないことが、従来の健康経営の課題でした」

「"働くこと"と"心身が健康で満たされた状態"を相反するものと捉えるのではなく、これを両立させ、やりがいを持ちながら内発的・自律的にいきいきと働く状態を生み出そうという視点で考えることが大事なのです」
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ウェルビーイング経営が注目される背景

意欲や一体感が、高いパフォーマンスや組織へのエンゲージメントにつながるというのは、経営学では古くから言われてきた。一方、意欲や一体感を生み出すための要素については、2000年頃から研究者の間でも見方が大きく変わってきた。

「かつては、仕事の与え方やリーダーシップ、報酬制度などが重要だとされていましたが、実際の現場では手詰まり感がありました。また、2000年以降に国際的な調査・研究により日本人の組織へのエンゲージメントの低さが明らかになると、長時間労働の常態化など従業員の健康を疎かにしてきたことも原因ではないかと言われるようになりました」

「従業員が疲弊していると、報酬制度などで意欲を引き出そうとしてもなかなか成果は出ません。そこで、働く土台である健康について見直そうという動きが生まれました」

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「さらに、少子高齢化が進み"人生100年時代"と言われるようになり働く期間が長くなると、キャリアのなかで病気にかかることも増え、病気を抱えながら働き続けるケースも増える。そういう従業員にもいきいきと働いてもらうためのマネジメントがこれまで以上に求められるようになってきました」

「こうして健康経営が注目されるようになったわけですが、今回のコロナ禍によりワーカーの働き方や働く環境が大きく変わるなか、改めて健康経営、さらにはウェルビーイング経営が注目され、また、求められるようになっているのです」

では、企業・組織には具体的にどのようなことが求められるのか。やマネジメント層はどんなことに注意する必要があるのか。後編で詳しく解説していただく。

森永 雄太(Morinaga Yuta)

武蔵大学経済学部経営学科教授。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学)。専門は組織行動論・経営管理論。『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(労働新聞社)など著書多数。

文/笹原風花