リサーチ

2020.07.06

データから読み解く日本の人材トレンド①

働き手の成長意欲が採用のあり方を変え始めている

現代日本において、企業と働き手の関係が急速に変わりつつある。その実情を探るべく、株式会社リクルートキャリアのメンバーが「働く」の現状や未来をデータから読み解くシリーズ記事を3回にわたってお届けする。現代日本の雇用をさまざまな角度から分析し、新しい働き方を提案する同社の提言から、これからの日本にフィットする雇用のあり方を見いだしていこう。

第1回は、新卒採用と中途採用における近年の傾向について、採用市場の最前線に関わる3人のメンバーに聞いた。

業種・職種の壁を超える
「越境転職」がスタンダードに

次に、中途採用市場の動向を見てみよう。この分野で近年目立つのが、業種や職種の壁を超えた転職だ。転職エージェントサービス『リクルートエージェント』利用の転職決定者を対象に2009年から2018年にかけて行われた調査では、越境転職の割合は67.4%にも上っている。転職といえば同業・同職種のイメージを持つ人がいるかもしれないが、もはや同業種転職はスタンダードとは言えなくなってきているのだ。

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出典:『【転職者データから見る】2020中途採用市場 中途採用においては「越境採用力」がカギに』リクルートキャリア



リクルートキャリアでHR統括編集長を務める藤井薫氏は、このタイプの転職を「越境転職」と名づけ、「特に20代と50代以降の人は、業種も職種も異なる企業へ転職する『異業種×異職種』の傾向が強い」と話す。

「20代の人は、業種や職種にこだわらず新たな成長の機会を求める傾向が強いですね。また50代以降になると、これまでの経験を活かして社会貢献をしたいという思いから、新たな業種・職種にチャレンジするケースがみられます」

一方で30代・40代は、蓄積してきた専門性をより深めるために、「異業種×同職種」の転職をする人が目立つ。今までのスキルを活かしつつ、異業種に身を置いて経験の幅を拡げようとする傾向があるのだという。

「終身雇用の慣行が崩れつつある中で、働き手も自らの成長をこれまで以上に志向する傾向が強まり、越境転職に踏み切る人が増えています。企業側も、成長意欲の高い越境人材に事業変革を担ってほしいと期待をかけ、入社後に活躍してもらえる体制づくりに力を入れ始めています」



優秀な人材は
リファラル採用で確保する

近年の転職市場でもう一つ目を引くのが、「リファラル採用」(社員に知人や友人を紹介してもらい行う採用方法)だ。リクルートキャリアでリファラル採用支援サービス『GLOVER Refer(グラバー・リファー)』を担当する高森純氏によれば、リファラル採用が増えている背景には、労働人口の減少があるという。

「人材の確保が難しくなっている中で、『優秀な社員は優秀な友人・知人のネットワークを持っているのではないか』という仮説のもとにリファラル採用の制度を導入する企業が少しずつ増えています。例えば、近年はAI人材の需要が非常に高まっていますが、自社にいる研究者・技術者のネットワークを活用すれば、広く募集をかけるより効率的に、よい人材と出会えるのではないかという仮説です」

企業がリファラル採用で優秀な人材を採用するには、紹介する側の意向も大切だ。リクルートキャリアが、リファラル協力社員(自社の採用に友人・知人を紹介した社員)を対象にアンケートを行ったところ、知人紹介数に最も影響があるのは「自社の経営情報の公開が進んでいる」という要素だった。高森氏は、「情報公開が進んでいる企業は、一言で言えば『風通しがよい』のではないでしょうか」と分析する。

「風通しがよい環境とは、経営層も従業員も同じ経営情報を共有し、安心安全に意見が言い合える環境です。このような企業で働く従業員は、自社の情報を社外の知人にもフラットに発信できるはずです。声をかけられる側も、十分な情報を得て安心して入社を検討できます。つまりリファラル採用では、紹介する人が知人や友人に、その企業の経営情報を風通しよく伝えることができるかどうかが重要になるわけです」

次いで影響がある要素は「自社の推奨度(自分の会社で働くことを友人・知人にどの程度勧めたいか)」だ。しかし、実際に影響があるのは10点満点中満点の場合のみだった。
「逆説的ですが、自社で働くことを心から勧めたい、という特別な思いがある場合を除いて、自社の推奨度は知人紹介数にあまり影響がないということです。企業の人事担当者は、リファラル採用では『社員個人の自社推奨度が重要』と考える人が多いですが、必ずしもそうとは限らないことになります」

新卒採用においても中途採用においても、近年はますます「成長」「信頼」という要素が重視されている。企業にとっては、働く人の成長意欲を大切にしながら信頼感を高める接し方をしていくことが、優秀な人材を確保するための基本施策といえそうだ。

次回は「社員の副業・兼業」という働き方について、「信頼」「成長」がどのように作用しているかを紹介する。

増本 全(Masumoto Zen)


株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所所長。入社以来、新卒採用や就職支援に係る業務に従事。2018年10月より現職。全国求人情報協会新卒等若年雇用部会事務局長や文部科学省「令和元年度大学等におけるインターンシップ表彰選考委員会」委員など複数の公職を務める。

藤井 薫(Fujii Kaoru)

株式会社リクルートキャリア HR統括編集長。入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事し、『TECH B-ing』編集長、『アントレ』編集長などを経て現職。また、株式会社リクルートのリクルート経営コンピタンス研究所を兼務。現在、「はたらくエバンジェリスト」(「未来のはたらく」を引き寄せる伝道師)として、労働市場・個人と企業の関係・個人のキャリアにおける変化について、新聞や雑誌でのインタビュー、講演などを通じて多様なテーマを発信する。デジタルハリウッド大学と明星大学で非常勤講師。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)がある。

髙森 純(Takamori Jun)


株式会社リクルートキャリア 事業推進室 インキュベーション部 リファラルグループマネジャー。外資系コンサルティング会社を経て2012年に株式会社リクルートキャリアに入社。以降グローバル人事、ピープルアナリティクス、入社後活躍等の新領域の事業開発に一貫して従事。

文/横堀夏代