組織の力

2020.06.24

中学校における働き方改革の取り組み

学校の「当たり前」を問い直す
                

熊本市教育委員会では2017年度から、「学校改革!教員の時間創造プログラム」と銘打って、小中学校などの教職員を対象にした施策を行っている。目的は、教職員の長時間勤務を改善すること。つまり多くの学校では、多くの企業が今まさに試行錯誤している働き方改革と共通の課題を抱えているのだ。今回は、このプログラムを軸に創意工夫を加えて業務改善を展開する中学校二校の取り組みを紹介する。

生徒と教職員が連携して
学校の象徴である中庭を整備

 一方、2019年度から業務改善モデル校となった武蔵中学校では、教職員が生徒を巻き込む形で業務改善の取り組みを始動させた。改善メンバーの中心を担った工藤照彦先生(2020年4月~熊本市教育委員会勤務)は、その理由を生徒の気質に紐づけて話す。

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写真左から近藤事務職員、原先生、工藤先生、白川校長


「本校では地域ボランティアに参加するなど意識の高い生徒が多く、教職員と生徒の距離が近いのが特徴です。ですから、生徒と教職員、事務職員が力を合わせて活動する形をいったんつくれば、業務改善がうまく流れると確信していました。そこで、生徒会のスローガン"Make a Revolution"と連動させて活動を始めました」

 広々とした緑豊かな中庭は同校の象徴的な場所だが、2019年4月、白川悦子校長の赴任時は手入れが不十分で、快適な環境が整っていなかった。そこで校長は、生徒会と教職員に働きかけて「グリーン&ピース大作戦」というネーミングの中庭整備計画を策定。教職員によるスモールチームを立ち上げ、中庭から活動をスタートした。このネーミングはプロジェクトメンバーの発案だった。PTAの協力も得て草取りをしたり、ベンチを置いたりして、くつろげる場所に変身させた。中庭が目に見える変化を遂げたことで、教職員も生徒も改革に向けて意欲を高めるようになった。



必要な文具の置き場が
ひと目でわかるよう工夫し
業務効率アップ

 業務改善の一環として同校が着手したのが、事務室環境の整備だった。事務職員の近藤佳代さんは、業務改善アドバイザーである齋藤氏の研修を校外で受講し、「環境を整えることで生産性が高まり、業務改善もスムーズに進む」という言葉に刺激を受けたという。

「業務改善モデル校に指定された時期だったこともあり、生徒にも手伝ってもらいながら模様替えに踏み切りました。工夫したのは、文具をしまうプラスチックケースのラベリングです。それぞれの引き出しに文具のイラストを貼り、どの引き出しに何が入っているか一目でわかるようにしました。生徒たちも、自分が関わることで学校が変わっていくのを実感できてうれしかったようです」

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ラベリングは生徒や教職員に好評で、「必要なモノが探しやすくなった」という声が寄せられている。




教職員も生徒も楽しんで
取り組める仕掛けを加える

 業務改善の一環として、校内で十分に使われていないスペースを生まれ変わらせるための取り組みも行われた。もとは音楽室だった生徒会室や更衣室などだ。

 白川校長は教職員に向けて、これらの施設を整備するようユニークな方法で改善を促した。担当の教職員に向けて「果たし状」を出したのである。

「本校の校名は、近隣の武蔵塚(宮本武蔵の墓)に由来しています。そこで、佐々木小次郎から武蔵への果たし状という体裁でミッションを与え、義務感を払拭して楽しみながら取り組んでもらえるよう工夫しました。生徒会室は、遠隔授業実施なども見越したうえでサテライトスタジオに変身させるアイデアを出しました」

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果たし状(写真上)により、教職員が作りあげたサテライトスタジオ(写真下)。バックボードには宮本武蔵をイメージキャラクターとして各部活を表現したイラストを制作。教職員&生徒の知恵と工夫が満載の力作スタジオセット。


 果たし状を受け取った教職員たちは、生徒と力を合わせて部屋を片づけ、空き教室に眠っていた備品を活用して整備を行った。スタジオづくりに携わった原美佐紀先生は、「生徒もとても協力的で、一緒に新しい施設を創り上げる作業を楽しんでくれた」と語る。

「テレビの報道番組などで見かけるインタビューパネルをつくって設置したら、手作り感あふれるスタジオになりました。作業の過程で、生徒との距離もますます縮まりましたね。新型コロナウイルス感染予防対策で卒業式が通常通りにできないときも、在校生がこのスタジオから卒業生にメッセージを送るなどして活用しました。まだこれから職員室の改善なども行う予定ですが、これまでの施策の成功で教職員たちは意欲を高めています」

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4月には職員室の改善が終了し、中庭(写真下)の木や花が見える明るい職員室を実現(写真上)。



熊本市立長嶺中学校

1991年開校。「創造」「誠実」「躍動」を校訓に、自主的精神に充ちた心身ともに健康で 調和のとれた生徒の育成をめざす。男子バレーや軟式野球、女子ハンドボールなどの部活動が県大会にたびたび出場。2017年度から「長嶺中業務改善プロジェクトS」を実践。

熊本市立武蔵中学校

1975年開校。「21世紀をたくましく生きる自律し協働できる生徒の育成」を教育目標に、本校ゆかりの人物である宮本武蔵にちなんで文武二道(文武両道)をめざす。2019年度から業務改善に取り組んでいる。

文/横堀 夏代