リサーチ

2023.04.25

人生100年時代に向けた若手層の意識

未来を楽しみにできないワーカーが増加?

「人生100年時代」が提唱されるようになって数年。今後の日本社会を担っていくと期待される20-30代の若手ビジネスパーソンは、今後のキャリアについてどのように考え、どんな生き方・働き方を望んでいるのか。「VUCAの時代」といわれ未来予測が難しい中で、どんなキャリアビジョンを描いているのか。コクヨが実施した調査をもとに解説する。

若者の4人に1人は
5年以内の退職を希望

今回のアンケートでは、20-30代の若手層に絞って回答していただきました。
まず「現在勤務する企業に今後どのくらい勤め続けたいですか?」と質問したところ、「1年未満」と「1-3年未満」、「3-5年未満」と答えた人の合計が約25%に上りました。つまり、若手層のうち4人に1人は「5年以内に退職したい」と考えていることになります。

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年代別にみてみると、20代後半は5年以内の退職を希望する人が約3割(32.6%)と他世代と比べてやや高めでした。
この年代になると、任される仕事の幅が拡がったり職域・職位が変わったりと、ワークシーンでの成長実感を得る人が増えます。その一方で、「今の会社ではこれ以上の活躍は望めない」「会社の方針と自分のキャリアビジョンが合わない」と判断する人も出てくるでしょう。
こうした変化をきっかけに自分のキャリアと向き合い、「次のステップに向けて外に飛び出したい」と感じたタイミングで転職を検討し始める人が多いのかもしれません。

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さらに転職経験のある人・ない人に分けると、転職経験のある人はそうでない人に比べて、5年以内の退職を希望する人が多いこともわかりました。
転職経験がある人は、他社という比較材料があるだけに、現在の勤務先に対して評価が厳しくなりやすく、よりよい環境・評価を望んで転職を考えるケースが多いと考えられます。また、「会社に頼らずに自分のキャリアを自ら築き上げていこう」という意識を持っている人が多い可能性もあります。

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自己肯定感が高く
会社への課題感が強い

さらに、「所属している企業にどんな印象を持っているか」や「そこで働いている自分をどう評価しているか)についても回答してもらいました。

自己を評価する項目では、「積極的に学んでいる」「新入社員のときより社内での価値は上がっている」「周りに仕事のアドバイスを求めている」と回答した人がそれぞれ6割みられ、自己肯定感が高く、周りと良好な人間関係を築いているワーカー像が見えてきます。

一方、自社を評価する項目では、「周りにロールモデルとなる人がいる」「会社の先輩たちは常に新しいことを学んでいる」「今の会社で通用すればどの会社でも通用する」に「いいえ」と回答した人が5割ずついました。
これらの結果を総合的に見ると、「自分は努力しているし能力もあるが、自社の環境には課題がある」と考えている人が一定数いることになります。

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前述した通り、今回の調査では「現在勤務している企業を5年以内に退職したい」と考えている人が約25%みられました。つまり、逆に考えると5年以内の退職を希望していない人が75%いるわけです。その一因として考えられるのが、ここでご紹介したように「自分は仕事ができる」「上司から信頼されている」といったワーカーの自己評価です。

ただし、「所属する組織(企業)に対する印象」の回答結果からは、「自分は成長に向けて努力しているが、自社の環境には問題があり、今のままでは成長できるとは思えない」といった若手ワーカーの不安も見えてきます。この状況を放置しておくと、早期の離職を希望するワーカーがさらに増えることも懸念されます。




給料だけじゃない!
転職理由は成長実感が得られないから

所属している企業への印象から、自社の環境に課題を感じている若手層が多いことがわかりましたが、離職のきっかけとなる要因をさらに探るため、今勤めている会社に対して、漠然と思っている不安を挙げてもらいました。

上位には「給与が上がらず生活への不安がある」や「業績アップが期待できない」なども挙がっていますが、注目したいのは「仕事で自己成長の実感がない」と回答した人が全体の約2割みられることです。特に、3年以内に退社を考えているワーカーにフォーカスしてみると、4割の人がこの項目を挙げています。

なお「3年内に退社検討ワーカー」は、多くの項目で全体より高い数値が出ています。中でも「ロールモデルとなる先輩社員がいない」や「社員教育の仕方が自分に合っていない」、「ビジョン・ミッションが共感できない」、「社員教育の仕方が自分に合っていない」といった項目は全体との差が大きく、離職と関連する要素が見えてきました。

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人生100年時代におけるキャリアビジョン

若手層は人生100年時代をどのようにとらえ、どんなふうに働いていきたいと思っているのかを調査しました。

働くのは60代まで

人生100年時代が到来するにあたって、「何歳でリタイア(働くことをやめる)したいと思っていますか?」と質問しました。なお、コロナ禍前に実施した調査でも同じ質問をしているため、今回の結果と比較するために掲載しています。

今回・前回とも、「60代」と回答したワーカーが非常に多いのが特徴的でした。逆に、健康寿命が伸びて働ける期間が長くなると予想されるにも関わらず、「健康な間は働く」や「再雇用制度を活用し、できる限り働く」と答えた人は少数でした。現在のところ、多くの企業で定年退職年齢が60代に設定されているため、若手層の意識にも「働くのは60代まで」が常識として刷り込まれているのではないか、と考えられます。

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若者の7割は「人生100年時代」に不安

100年時代にあたってどう感じているかを尋ねてみると、「とても楽しみ」「まあ楽しみ」と回答した人は合計で22.3%にとどまり、逆に「少し不安を感じる」「とても不安」と感じている人が7割超みられました。「不安」と答えた人に、何が不安なのかをさらに聞いたところ、「金銭面」や「健康面」、「長く働かなければならないから」などの声が大半を占めました。
特に気になるのは、「長く働くのが不安」という意見が多かったことです。長く働きたくないのは、「現在、楽しく働くことができていないから」ではないかと懸念されます。

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自身のキャリア形成が不安要因

若手ワーカーの自分のキャリアへの不安を尋ねたところ、「キャリアの考え方がわからない」「キャリアの実現方法がわからない」と回答した人が2~3割と多くみられました。人生100年時代を楽しみにできないワーカーが多いこととも関連しますが、将来のビジョンを描くことが難しいワーカーは少なくないようです。

ただしこの結果は、「キャリア」という言葉の受け止められ方にも一因があるのかもしれません。日本では、高等教育機関におけるキャリア教育は就職活動と直結した形でおこなわれる場合が多く、「キャリア=仕事における成長プロセス」として重くとらえられがちです。
また近年は、「人生100年時代」「VUCAの時代」といったキーワードと関連づけられ、「しっかりキャリア形成しなければ生き残れない」といった文脈で使われることも増えています。「キャリア」という言葉が威圧的なイメージを帯びつつあることも、若手の不安と関連している可能性があります。

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まとめ

今回の調査からは、自己成長意欲が高く、働くことで成長したいからこそ企業への期待も高い、若手ワーカーの実像が明らかになりました。ただし現状は、現在勤務する企業への不安・不満をもつ若手層が多く、より成長できる環境や経済的な安定を求めて、転職を検討する人も少なくありません。また、人生100年時代に向けて期待を抱けず不安を感じている、未来を楽しみにできないという課題も見えてきました。

超高齢化社会が進行し、今後はますます労働人口が減っていくと予想されています。人生100年時代を担う若手層が仕事への意欲を高め、生き生きと働けるように、企業では自社の若手社員にフィットする施策を検討し続けていく必要があるでしょう。


調査概要

実施日:2022.5.18 -20実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤める20-30代のワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第39回「100年時代に向けた若手層のキャリア意識」


河内 律子(Kawachi Ritsuko)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「ダイバーシティ」をテーマとするビジネス研修を手掛ける。

作成/MANA-Biz編集部