組織の力

2022.11.29

コロナ禍を好機に変えた山田コンサルティンググループのマネジメント改革〈後編〉

場所をつくるだけでは社員間のコミュニケーションは増えない

企業に向けたコンサルティングで強みを発揮する山田コンサルティンググループ株式会社では、コロナ禍によって社員の在宅勤務が増えたことをきっかけに、マネジメント改革としてさまざまな施策を敢行している。取り組みの具体的な内容について、常務執行役員・経営コンサルティング事業本部長の宮下紘彰氏と、管理本部の増田祥人氏にお話を伺った。

偶発的な出会いの創出に向けて
社員同士が知り合う場を設定

社内で異なる部署間のコミュニケーションがコロナ前から少なかったことについては、宮下氏と増田氏も危機感を抱いていた。その理由について、宮下氏は「コンサルティング会社という企業の特性と深い関係がある」と説明する。

「コンサルティング会社では、基本的には全員がプロフェッショナルのコンサルタント。つまり、会社に所属しなくても仕事の受注さえあれば独立して働くことができるのです。それでも私たちが山田コンサルティンググループの社員として働くのは、幅広い専門分野をもつメンバーたちが連携することで、お客様によりよいご提案ができるからです」

1_org_166_01.jpg 写真:宮下紘彰氏

コロナ禍によって、もともと多くはなかった横のコミュニケーションはさらに減少した。そこで同社では、社員同士にコミュニケーションが生まれるには何が必要かを議論した。
施策の一つとしてはじまったのが、増田社長と社員3~4名が面談する「増田会」だった。前編で紹介したように、社員と社長がダイレクトに話せるのが特徴だが、「メリットはそれだけではない」と増田氏は語る。

「1回ごとの会には異なる部拠点の社員を選んで参加してもらうため、社内の顔見知りを増やす絶好の機会になるのです。増田会をきっかけに、社員間で新たなコミュニケーションが続々と生まれています」

さらに同社では、2022年11月から、異なる部拠点で同じ役職のメンバー6人ずつのチームを構成し、半年かけてコミュニケーションをとる取り組みを開始。各チームは毎月1回ずつ会を開催し、メンバーが順番にプロフィールや関与案件、今取り組んでいることなどを自己紹介する。そして半年ごとにチームを組み替えて続けていく仕組みだ。
会を通じて社内のメンバーがどんな仕事をしているかを知ることで、新しい連携も生まれやすくなると期待できる。これらの取り組みは、宮下氏によれば「社内コミュニケーション活性化の土壌づくりが目的」だという。

「もちろん、オフィスをリニューアルしてコミュニケーションスペースをつくったり、フリーアドレスを導入してさまざまな部署の社員が混じるよう仕掛けることも大切です。しかし、そもそも面識のない社員同士は進んで会話を持とうとはしないのではないでしょうか。まずは顔見知りを社内に増やし、オフィスで偶然出会ったときに立ち話が始まるような土壌をつくることを目指しました」

1_org_166_02.jpg 写真:増田祥人氏




オフィスのリニューアルで
コミュニケーションの場を整備

オフィスのリニューアルを実施したのは2021年。リニューアルの目玉は、社員同士がカジュアルに会話ができるスペースをつくることだった。そこで、コーヒーが無料で飲める自販機を設置し、カウンターテーブルをしつらえた。現在の利用状況について聞いてみると、確かに社員同士が気軽に話す姿が見られるようになったとのこと。しかし増田氏が指摘するところでは、「まだ使い方には課題がある」とのこと。

「コミュニケーションスペースを定点観察してみると、集まってくるのはいつも同じような顔ぶれです。また、コーヒーなどのドリンクが無料で飲めることもあってか、ここで仕事をするメンバーも出てきて、気軽に話ができる雰囲気がやや薄れてしまいました。今後は時間ごとに使い方を決めるなど、ルールを整備していく必要がありそうです」

1_org_166_03.jpg




WEB会議用ブースの導入で
コロナ禍の働き方に合うオフィスに

同社では、オフィスリニューアルに伴ってフリーアドレも導入。一部の部署を除いて固定席をなくし、フリーアドレス席を350程度用意した。社員1人ひとりは自分の氏名を記載したフラッグを持ち、自分の座る席に立てておく。面識がない社員同士でも氏名がわかるため、声がかけやすくなるようにとの工夫だ。
さらに、対面での会議に代わってWEB会議が急増したことに伴い、研修室を縮小してWEB会議も可能な小会議室を8室設置した。会議室は社員の利用率が非常に高く、8室がすべて埋まっている時間帯もあるという。
会議室が利用できない社員は、フリーアドレスの自席でWEB会議をおこなう場合もあり、増田氏は「情報管理や騒音の問題があるため、今後は既に5台設置してあるBOX型のWEBブースの増設や、さらに室数を増やすなどして対応していきたい」と語る。

オフィス環境改善の取り組みは今後も続く。ファシリティを着実にアップデートしていくことによって、社員の生産性向上が期待できるだけでなく、企業として「社員の働き方に配慮し続けている」というメッセージを目に見える形で発信できるのもメリットといえるだろう。




企業文化を浸透させることで
求心力をつくる

会社としての求心力をつくる取り組みとして、同社が力を入れているのが、企業文化の浸透だ。宮下氏はその理由について、「在宅勤務の社員が多いからこそ、企業のカルチャーをこまめに発信することは大切」と説明する。

文化浸透の取り組みとしては、毎週の朝礼で会社の基本理念を唱和したり、兄弟組織である税理士法人山田&パートナーズと一緒に基本理念の1テーマについて話し合ったりするなど多彩な内容が挙げられる。さらに2021年には、増田社長からの提案で、各組織のリーダーが集まって行動指針をつくったという。宮下氏が強調するのは、社員が自ら策定することの利点だ。

「企業の基本理念を実現するための行動指針を社員側がボトムアップでつくることで、ほかの社員に伝わりやすく受け入れやすい内容のものになるのではないでしょうか。行動指針はミーティングルームの壁などに掲示し、朝礼でも唱和をおこなっています」

山田コンサルティンググループのマネジメント改革における取り組みは、企業文化浸透にしてもコミュニケーション促進に向けた環境整備にしても、経営の基本を大切にしたオーソドックスなものだ。しかし、これらの施策をスピーディーに実行することで社員に意識変革が起きれば、めざましい企業成長が期待できる。コロナ禍というピンチをきっかけに、同社はさらに大きく発展するきっかけをつかむことができたのかもしれない。

1_org_166_04.jpg



山田コンサルティンググループ株式会社

1989年創業。国内に13拠点、海外に10拠点をもつコンサルティング会社。「健全な価値観」「社会貢献」「個と組織の成長」を基本理念として掲げ、コンサルティング実績は年間2500件を超える。会計・税務・法律・事業・M&A・IT・海外・不動産・教育の専門スタッフを揃え、幅広い領域で顧客企業の経営をサポートする。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ