リサーチ

2022.06.14

法改正、女性活躍推進における課題とは

「配慮」ではなく「やりがい」がカギ

2022年4月の改正女性活躍推進法の施行により、行動計画の策定義務を課される対象が、常時雇用する労働者が「101人以上」の事業主に拡大された(これまでは301人以上の事業主が対象)。より広範囲に女性活躍推進が求められている一方で、女性の管理職登用などが進んでいない現状もある。女性活躍推進における課題と解決の糸口はどこにあるのか、『「日本がジェンダー後進国になっている本質的な背景」に関する調査レポート』から考察する。

※「日本がジェンダー後進国になっている本質的な背景」に関する調査レポートは、XTalent株式会社と株式会社Enbirthが連携し、協力企業25社の社員789人と、XTalentの転職サービス「withwork」登録者211人、合計1000人を対象に実施した調査の結果をまとめたもの。

希望に応じた働き方の実現をめざす
女性活躍推進法

2015年に制定、2016年に施行された女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)は、女性の就業をとりまく状況を改善し、働くことを希望する女性が希望に応じた働き方を実現できるよう、社会全体で取り組んでいくことをめざした法律だ。国や地方公共団体、および、一定規模以上の民間事業主に対して次の3点を義務づけている。

1. 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
(女性採用比率、勤続年数男女差、労働時間の状況、女性管理職比率など)
2. その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表
(定量的目標、取組内容、実施時期、計画期間の記載必須)
3. 自社の女性の活躍に関する情報の公表
(採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女の平均継続勤務年数の差異、男女別の育児休業取得率など)

2022年4月に施行された改正法において変更されたのは、この義務づけの対象となる事業主の規模だ。これまでは、常時雇用する労働者が「301人以上」の事業主が対象だったが、「101人以上」の事業主に拡大された。企業における女性活躍に関する計画的な取り組みをより広い範囲に促すためとされている。




日本の女性活躍推進の現状

これまで国は、1985年の男女雇用機会均等法、1991年の育児休業法(現 育児・介護休業法)、2003年の次世代育成対策推進法、そして、女性活躍推進法と、男女共同参画や女性の活躍を推進する法律を整備してきた。
また、政府の施策として、2003年には「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」という目標も設定された。これらにより、少しずつ状況は改善してきているが、まだまだ道半ばの状況だ。

●就業を希望しているものの育児・介護等を理由に働いていない女性は231万人(※1)
●第一子出産を機に46.9%の女性が離職(※2)
●女性雇用者のうち、56.0%が非正規雇用者(男性雇用者においては22.8%。女性は出産・育児等による離職後の再就職に当たって非正規雇用者となる場合が多いことなどが要因とされる(※3)
●管理的職業従事者に占める女性の割合は、14.8%(※4)
●ジェンダー・ギャップ指数は、153カ国中121位(※5)

※1、※3 総務省「労働力調査(詳細集計)」(2019年)より
※2 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」(2015年)より
※4 総務省「労働力調査(基本集計)」(2019年)より。管理的職業従事者とは、就業者のうち、会社役員、企業の課長相当職以上、管理的公務員等としている。
※5 世界経済フォーラム"The Global Gender Gap Report 2020"より


では、女性が働く環境を整え、働くことを希望する女性が、希望に応じた働き方ができる社会、さらには、男女が等しく働きやすい社会をつくるには、どのような課題があるのだろうか?「日本がジェンダー後進国になっている本質的な背景」に関する調査レポートをもとに考えていく。




女性が望む「仕事の質」が
満たされていない

調査では、家庭での育児負担50%以上、かつ、育休取得経験のある女性96人に、「現在(育休後)に仕事に求めていること」という質問をした。その回答として上位に入ったのが、「仕事が本質的に面白いこと」(67%)、「自分の市場価値向上に繋がるような、スキルや経験が身につけられること」(46%)、「自分の存在意義を感じられること」(44%)、「自分の仕事が世の中に役立っていると思えること」(44%)などだ。

とくに、「仕事が本質的に面白いこと」「自分の仕事が世の中に役に立っていると思えること」は、育休前に比べて育休後の方が仕事に求める人の割合が増加しており(それぞれ9ポイント増)、育休を機に仕事の質ややりがいを求める女性が増えることがわかる。

4_res_233_1.jpg
ところが、「仕事で満たされている(いた)こと」については、育休前に比べて育休後は「仕事が本質的に面白いこと」は9ポイント減、「能力・強みを発揮できること」は14ポイント減、「自分の存在意義を感じられること」は5ポイント減など、仕事の質ややりがいにかかわる項目は軒並み減少。育休前に比べて、会社からアサインされる仕事にギャップがあることがうかがえる。

4_res_233_2.jpg
また、上の2つのグラフの「昇進に繋がること」の項目を見てわかるように、昇進に対する意欲を示す人の割合は、育休前に比べて育休後は17ポイント減少。仕事で満たされることとして「昇進に繋がること」を挙げる人の割合も、育休前に比べて育休後は24ポイント減少と、大幅に減少している。すなわち、育休後は、女性本人の昇進意欲の低下のみならず、会社から提示される昇進機会も減っていることがうかがえる。




活躍機会を奪い、昇進意欲を削ぐ
「無意識の配慮」

育休から復帰後の「満たされなさ」や昇進意欲の低下、昇進機会の減少の要因の一つとして言われているのが、企業における育児中の女性に対する「無意識の配慮」だ。「育児中の女性は休みを取りやすいようにしよう」「育児中の女性には、負荷の少ない業務を担ってもらおう」といった配慮を、本人の意欲の有無を問わず行うことで、意欲ある女性までも機会が奪われてしまうことが課題視されている。

この調査においても、末子が中学生未満の女性284人、男性178人に対して「勤務先で子どもがいるがゆえに経験したことのあるもの」を尋ねた質問において、「責任の少ない仕事を与えられる」「出張にアサインされない」「必要以上に育児中であることを配慮される」「仕事の負荷(業務量)を減らされる」と答えた女性がそれぞれ16〜20%いた。他方で男性は1〜2%だったことから、育児中の女性のみが配慮される実態があることがわかる。

4_res_233_3.jpg



13%の女性が、育休後に昇進意欲を失う

また、育休後の女性の昇進意欲について、現在の職場で育休取得中または取得経験のある女性157人の回答を見ると、「育休前・育休後とも昇進希望」という人はわずか3%で、「育休前は昇進希望・育休後非希望」という人が13%だった。

そして、育休後に昇進意欲を失った13%の女性における、家事育児負担率は、「70%」が最も多く、4割近かった(n=23)。家事育児の負担も、昇進意欲の消失に影響している可能性がうかがえる。

4_res_233_4.jpg
4_res_233_5.jpg
また、調査では、男女を問わず、家庭での育児負担が50%以上の人が「働き方が、もし○○だったら、もっと評価されるのに...と思うこと」として、「日常的に残業ができる」を37%が挙げており、長時間労働が前提の職場環境がまだまだあることがうかがえる。長時間労働が前提の場合、女性の育児負担率がまだまだ高い現状では、女性が活躍・昇進しづらい環境を生んでいると言えるだろう。

4_res_233_6.jpg



女性活躍推進のカギは
「無意識の配慮」の排除と職場環境の是正

これら調査結果から、女性活躍推進のカギは、「『暗黙知の評価基準(長時間労働が前提など)』をなくす取り組み」「育児中の人材には『配慮』よりも『やりがい』」であること、さらに「男性も制度を公平に使える風土づくり」によって男性の家事育児参加を促すことの重要性が見えてきた。とくに家事育児分担比率の平準化は、育児中の女性の仕事および昇進への意欲を維持または高めることにつながると考えられる。

義務化が先行していた大企業でも、女性の管理職比率など、目標達成には苦労している現状があり、男性中心に考えられてきた制度・ルールや、職場や社会、家庭に根づいているジェンダーバイアス(男女の役割分担に対する固定観念)を変えていくことは容易ではない。

しかし、働きたいと思う女性一人ひとりが望む働き方を実現できる職場環境・風土をつくることは、男女を問わず「働きやすい」「働きがいのある」職場づくりにもつながる。それは、従業員一人ひとりが意欲・スキルを最大限に発揮できる環境でもあり、労働人口の減少と少子高齢化に伴う人員不足という課題に直面している企業にとっては、持続的な成長のための突破口となるはずだ。
女性活躍推進に成功している企業も少なからずある。それらの好事例にならい、各企業が本気で取り組むことが、企業そして日本の持続的な成長のためにも必要ではないだろうか。


【出典】「日本がジェンダー後進国になっている本質的な背景」に関する調査レポート
調査主体:XTalent株式会社、調査実施機関:株式会社Enbirth



作成/MANA-Biz編集部