組織の力

2021.04.13

いま取り組むべきオフィスの防災とは?〈後編〉

防災用品や災害対策の基礎知識

防災用品の選び方や管理方法、災害別の対策のポイントなど、オフィス防災の基礎知識について、コクヨ株式会社HSソリューション部マーケティンググループで企業の防災プランニングを担当する相田勇輝氏が解説する。

水の備蓄方法

水は条例で「一人1日3リットル×3日間×社員数」の備蓄が必要とされているため、保管場所に困る企業が多く見られます。地下倉庫に収納した場合、停電でエレベーターが止まると上階に運ぶのに苦労します。そこで、水は日常で消費しながら備蓄する「ローリングストック」がオススメです。

例えば、ウォーターサーバーを設置している企業なら、その水を備蓄品として活用したり、自販機を設置している企業なら、停電しても利用できる災害用の自販機を導入したり、普段から消費する水を利用し、長期保存水として保管する方法を考えましょう。




簡易トイレは事前に使ってみる

災害時は、平時と違う非日常空間の中で、非日常な精神状態で、使い慣れていないものを使うことになります。そのため、普段から防災用品に触れておくことが重要です。

特に、災害時はトイレが問題となります。ニュースなどではあまり報道されませんが、オフィスに滞留した際に一番困るのはトイレです。破損して使用が不可能な状態になっていない限り、普段通りトイレを使ってしまいがちです。水も流れて一見問題がないように見えても、配管がダメージを受けている場合があり、被害を大きくしてしまうこともあります。そのため、滞留中は簡易トイレを使うのが安全です。

水や食料はある程度、我慢できますが、トイレだけは我慢できません。トイレを我慢するために水を我慢する人もいますが、その結果、脱水症状になるなど体調に大きく影響します。災害時にスムーズに簡易トイレが使えるよう、事前に一度、使ってみるといいでしょう。

さらに、災害時はゴミの収集が遅れる可能性が高く、トイレゴミについても一時的にオフィスのどこかに保管しておかなければなりません。トイレゴミを含むゴミ全般の処理と保管のルールを事前に決めておくことも重要です。

このように、あらゆる状況を想定して防災用品を準備しておくことが、3日間のオフィス滞留期間を心身ともに快適に、かつ衛生的に過ごすことにつながります。




災害別の対策 水害・火災・地震


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〈水害〉

最近は気象予報がかなり正確になっているため、水害は事前にある程度予測できるようになっています。そのため、企業にとって水害は、備えるのではなく回避するのが鉄則です。気象予報などから事前に情報を収集し、社員を出社させないなど、状況に応じた事前対策を取ることで被害を食い止めることができます。

水害を心配する企業が多く見られますが、防災用品を準備するより、いかに早く情報を入手して社員に伝え、危険なところには行かせないようにするかが重要になります。

〈火災〉

現在は火気厳禁のオフィスが多く、防火戸や防火シャッターなども設置されているため、大きな火災は少なくなっています。日頃から、通路に荷物を置かないなど、避難経路を確保し、防火戸や防火シャッターが正常に機能するようにしておきましょう。

〈地震〉

日本は地震大国です。また昨今は「ここでは大きな地震は起こらない」と言われていた発生確率が低い場所でも大地震が起こっています。地震はいつ起こるのか予測が難しく、また復旧にも時間がかかります。被害を最小限に抑える事前対策と災害時スムーズに社員の安心と安全を確保できるよう備えておきましょう。

コロナ禍の今、コロナによって気づかされたオフィス防災の課題を踏まえた見直しが必要とされています。具体的な備えについては、まず、これまでお話ししてきた防災対策を一つひとつ実践することです。そして、いつ・どこで起きるかわからないからこそ、企業や防災担当者に任せっきりではなく、社員一人ひとりが「自分の身は自分で守る」という意識をもち、普段から防災対策に目を向けることが大切です。



相田 勇輝(Aida Yuki)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部 マーケティング本部 HSソリューション部 マーケティンググループ プランナー。2015年、コクヨ株式会社入社。同年より防災事業に参画。年間数百件に及ぶ企業防災のプランニングを行ない、防災担当者との対話を通じた持続性のある取り組みの実現を目指している。また、オフィス防災Lab.リサーチャーとして、実際に防災用品を使用する、被災時下の状況を再現するなどして、想定だけではない実体験に根差した提案を追及している。

文/籔智子