組織の力

2019.12.11

ヤンマーの企業理念を具現化したオフィスで働き方改革を加速 vol.2

オフィスの仕掛けによって社員の働き方は激変する

創業100周年を迎えたことを機に大きな変革を行ったヤンマー株式会社。第1回では、自社技術であるガス発電を取り入れてCO2排出を大幅に削減するなど、ヤンマーのあるべき姿や理念を新本社ビルで具現化することで、社員への企業理念の浸透を図った取り組みを紹介した。今回は、社員の働き方改革としてはどのようなことに着手したのか、総務部長の山田耕一郎氏をはじめ、同社総務部の方々に話を聞いた。

部の壁を越えたら2か月の仕事が2日で終わる
コーポレート部門こそ、ABWの導入を

「ワークスタイル3.0」は実験的導入ということもあり、まずは人事部、総務部、情報システム部のコーポレート部門で実践している。コーポレート部門でABWを導入する意味を山田氏はこう説明する。

「『ABWやフリーアドレスは営業じゃないと無理』といわれる人もいますが、むしろ、バックオフィスやコーポレート部門こそやるべきです。これだけICTが進んでいる時代に、部門長から指示して仕事するスタイルは時代遅れ。総務や情報システムや人事など、オペレーションシステムに関わる社員が近くの席に座って、お互いに思いついたときにアイデアを出し合って決めていくのが今の時代です。これが、かつてのように固定席で部門ごとにわかれていたらどうでしょうか。すべてのことがまずは部門内で議論され、それを部門長が他部門へ共有、そこで課題がみつかれば、また担当部門に戻されて再議論...。これでは、2か月はかかる(笑)。課題が見つかった時点で、部門の枠を超えて違った視点で意見を出し合えば2日で終わります」

部門の壁を取り払うことで、モノゴトを決めるにも課題解決をするにも、スピード感が違ってくることを実感した山田氏。部門の壁を取り払う方法はいろいろあるが、オフィス環境を変えることが、その近道になると語る。

「今回、ワークスタイル1.0、2.0、3.0へと改革を進めてきたなかで、社員の働き方を変えるためには、まずはオフィスを変えることが重要だと改めて実感しています。でも、ただ変えるのではなく、『働き方をどのように変えたいのか』、その目的を明確にしたうえで、社員が自ら実践したくなるような仕掛けをつくっていく。例えば、『これからは部門の壁を超えたコミュニケーションが大切』と、頭ではわかっていても、部門ごとの島になっていたら、わざわざ相談しに行く感じがありますが、目の前に座っていたら、ちょっとしたことでも軽く相談ができるので、部門の壁を超えることが自然とできるのです」(山田氏)

「また、オフィスを変えることで働き方が変わった好事例として、ゴミ箱があります。少し前まで各デスクの横には個人のゴミ箱があるのがあたりまえでしたが、今回、本社ビルが新しくなったのを機に個人のゴミ箱を撤廃し、ゴミを捨てられる場所を一か所にして、ゴミボックスをつくりました。当然、社員からは大クレームです。しかし、個人のゴミ箱をなくすだけで人はゴミを出さなくなるんですね。以前のように印刷に失敗した紙が大量に溢れる、ということはなくなりました。つまり、環境を変えれば、そこにいる社員の仕事のやり方も自然と変わってくるのです」(山田氏)



働き方改革を遂行することは、
会社の理念を果たすことにもなる

ヤンマーの企業理念を具現化した新本社ビル。他のオフィスで働くグループ社員には「こんなオフィスで仕事ができていいな」と言われることも多い。そんな社員に対し、山田氏は「ここは実験場だ」と答えているという。

「ヤンマーは自社の技術の粋を結集したこの新本社ビルで、ブランドステートメントである『A SUSTAINABLE FUTURE(人と自然が共生する持続可能な社会)』の実現に向け、新しい働き方にチャレンジしています。つまり新本社ビルはヤンマーの未来を形にしていくための実験場。ここでさまざまな課題を実験しながら解決し、その後、グループ全体にも還元するつもりで動いています。バックオフィスで働き方改革を遂行し、仕事がスムーズに行われるようになれば、我々の農業機械や建設機械を使っているお客様に対しても、いち早くソリューションを提供できます。こうしたオフィスの改善を通じた働き方改革も同社のミッションステートメントを果たすことにつながっているのです」(山田氏)

新本社ビル移転後も期待していたほどに働き方は変わらなかったヤンマー。わずか1年後にABWを軸とした働き方改革とオフィス改革に着手し、結果、フレキシブルで自律的な働き方が出来る様になった。そして、2019年8月からはABWをさらに加速。オフィスレイアウトを見直し、コミュニケーションやアウトプットの質を向上すべく取り組むなど、ヤンマーの働き方改革は進化し続けている。第3回では、グローバル化を推し進める中で、ボトムアップで実現した社員食堂でのダイバーシティー施策について見ていきたい。

ヤンマー株式会社

1912年創業。農家に生まれ、過酷な労働を目の当たりにしてきた創業者・山岡孫吉が「人々の労働の負担を機械の力で軽減したい」という強い想いから、1933年、世界初のディーゼルエンジンの小型・実用化に成功。現在は農業機械のみならず、建設機械、エネルギーシステム、船舶など幅広い分野の総合産業機械メーカーとして発展を遂げる。2012年の創業100周年を迎え、次の100年に向けて「A SUSTAINABLE FUTURE」をブランドステートメントに掲げ、人と自然が共生する持続可能な社会の実現を目指している。

文/若尾礼子 撮影/スタジオエレニッシュ 岸 隆子