リサーチ

2016.10.12

いまだ保守的な日本のCEO

世界のCEOと日本のCEOへのアンケート結果の比較を通して、日本企業の傾向・戦略を浮き彫りにする。

世界のCEOと日本のCEOへのアンケート結果の比較を通して、日本企業の傾向・戦略を浮き彫りにする。

 冷戦終結から約20数年が経ち、理想とも思えたグローバル資本主義と呼ばれる経済システムも徐々にほころびを見せ始めている。その象徴的な出来事ともなったのが、イギリスのEU離脱であろう。このような時代の転換点に世界のCEOはいかなる戦略を立てるのであろうか。KPMG/あずさ監査法人は、世界10カ国(アメリカ、イギリス、ドイツ、中国、インド、日本、フランス、イタリア、オーストラリア、スペイン)に拠点を置く企業のCEO1278名を対象にした、今後3年間における経営の見通しとそれにともなう重要課題に対する意識調査を行った。その結果をまとめた「KPMGグローバルCEO調査2015 日本企業との比較分析データ」をもとに、日本と世界のCEOの相違点を挙げていきたい。
 まずは、人材投資。日本のCEOの99%が、今後3年間に人員を増加させる意向を示している。この数値は10カ国全体のCEOの78%と比べて圧倒的に高い。長期にわたる採用の抑制からの反動と、成長期待からくる人材投資への転換と読みとることができるだろう。
 次に大きな違いが現れたのは成長戦略である。今後3年間の成長戦略として、「本業による成長」を挙げている割合が日本のCEOでは90%を示したが、これは10カ国全体の59%と比較してかなり高い。同様の傾向が見られるのが、現行のビジネスモデルに対して「非常に満足している」と答えた日本のCEOが72%いたのに対し、10カ国全体では50%にとどまった点だ。
 他にも、世界の数値と比べて大きな違いが見られたのが、「将来の懸念事項」の項目である。日本では、「競合にビジネスが奪われる可能性」が83%(10カ国全体は68%)、「顧客のロイヤリティ」が91%(10カ国全体は78%)と高い割合を示し、ビジネスが激しい競走に晒されていることが現れた。また、最も懸念しているリスクとして「コンダクト(不正)リスク」を挙げた割合が、世界全体14%に対し、日本は37%となったことも象徴的である。近年、企業の不祥事によってブランドイメージが低下し、顧客離れにつながったケースが多いことから、不正リスクに敏感になっている状況を反映しているのだろう。
 
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 こうした結果から読み取れるのは、日本の企業が激しい顧客の取り合いのなかで、守りの姿勢を見せているということだ。しかし、激動の時代に「守り」だけで勝てるほど世界経済は甘くない。新たな分野への進出、イノベーション(技術革新)による新商品の開発は急務である。企業内で、「正式なイノベーションプロセス・計画の不足」が大きな障害としてあると答えた割合において、日本は10カ国全体と比べ2倍ほどの高い数値を示した。今後、イノベーション環境を整備し、攻めの姿勢で戦略を立てていくことが望まれる。
 
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(出典)KPMGジャパン「KPMGグローバルCEO調査2015 日本企業との比較分析データ」をもとに作成
 
作成/MANA-Biz編集部