組織の力

2016.07.08

スポーツ×ビジネス Jリーグが率先する新たな挑戦!

Jリーグマネージャー育成カリキュラムにみるリーダーの資質

2015年、公益財団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)は、立命館大学と連携して人材開発事業「Jリーグヒューマンキャピタル(JHC)」を立ち上げ、サッカーをはじめ日本のプロスポーツ界を担う人材の育成に本格的に着手。Jリーグヒューマンキャピタルグループマネージャーの中村聡さんに、スポーツ界におけるビジネスの課題や求められるスキル・人材像について伺った。

人材育成の先にあるゴールに向け
現場を意識した実践的な学びを提供

JHCでは、1年間の「JHC教育・研修コース(基礎)」をベースに、2年次には選抜制で「Jリーグ研修(実践)」を開講している。「育成した人材をクラブをはじめとしたプロスポーツ界へ送り出すことがゴールなので、JHCの講座では常に現場を意識した学びを提供しています」と中村さんは語る。
 
「JHC教育・研修コース(基礎)」では、一般的な経営の知識を学ぶ授業に加えて、実際に財務諸表を使って事業計画書を作成し、クラブ経営に必要な知識とスキルを身につける「スポーツファイナンス」や、Jリーグの試合運営を現場で学ぶ「フィールドワーク」など、Jリーグのクラブ経営に特化した授業が多数盛り込まれている。グループワークやプレゼンテーションなど意見を出し合い発表する場も多く、それに対するフィードバックも得られるようになっている。
 
 
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提供:Jリーグ
 
初年度(2015年度)の「JHC教育・研修コース(基礎)」は、42名が参加。うち2名が「Jリーグ研修(実践)」へと進み、Jリーグのクラブの第一線で活躍している。そのうちの一人は、Jクラブの水戸ホーリーホックに国際事業企画マネージャーとして着任した。彼に課せられた任務は、“ベトナムのメッシ”と称されるグエン・コンフォン選手を活用したマーケティング活動とクラブの国際ネットワークの強化。ハードルの高さをものともせず、着任直後にベトナム航空をスポンサーに獲得するという快挙を成し遂げた。もう一名も、大分トリニータで経営改革本部長として活躍中だ。
 
そのほか、プロバスケットボール(Bリーグ)をはじめ他のスポーツ界でキャリアをスタートした人もいる。コース修了者はJHCの人材リストに登録され、雇用側と互いのニーズが合えばマッチングが行われる。中村さんによると、最近ではサッカー以外のスポーツの団体からの問い合わせも増えているそうだ。
 
「スポーツ界の経営者には、多くのことが求められます。業界の知識や情報はもちろん、プロダクトとしてのチームや選手についても詳しく知っている必要がありますし、組織体系が未熟なケースが多いため、人材育成から経営判断、広報活動までさまざまな分野の業務をこなす力も求められます。また、ホームスタジアムで負ければバッシングに合いますし、経営トップとして、スポンサーやファン、サポーターといった多くの人からの理解や共感を得る必要があるため、コミュニケーション力や発信力は不可欠です。そして何より、あらゆるシーンで決断力が求められます。その場で即断を迫られるケースも多く、まさに“ライブ”で迅速かつ臨機応変に対応する力が求められるのです。これらの素質を兼ね備えた人材を育てることが、JHCが今後目指すところなのです。
 
Jリーグでは、“スポーツでもっと幸せな国へ”をスローガンに、日本のスポーツ文化振興を目指した“Jリーグ百年構想”を掲げています。今後も、サッカーに限らず、スポーツ界で求められる人材を輩出していきたいと考えています」
 
2年目の今年度は、33名が参加中。その3分の2がスポーツ以外の業界出身者であることからも、スポーツ界への関心の高さが見て取れる。また、政府はスポーツ振興のために昨年10月にスポーツ庁を発足させており、同庁「スポーツ未来開拓会議」の骨子の一つにも、スポーツ経営人材の養成が掲げられている。その中ではJHCの取り組みが民間による先行事例として大きく取り上げられており、今後はさらに注目を浴びることになりそうだ。
文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ