組織の力

2026.10.29

ボトムアップでより良い会社・組織風土をつくる

「出光興産×出光社員会」の新しい挑戦とは?

1911年の創業以来、石油の販売から精製へと事業を広げ、現在では、エネルギーや素材の領域で広く事業を展開する出光興産株式会社。経営の原点である「人間尊重」のもと、「人が中心の経営」を貫いてきた。2024年4月には、全従業員が主体的により良い会社・組織風土を創っていくための職場活動の場づくりを目的に、一般社団法人 出光社員会を設立。会社とは独立した組織として、一般従業員から選出された専任の理事・事務局が運営にあたっている。設立3年目を迎える出光社員会の果たす役割や具体的な活動事例、成果について、同理事長・内山美穂子さん、常務理事・服部朝子さんに伺った。
写真左から)内山美穂子さん、服部朝子さん、ほか社員会のメンバーの方々

独立した組織として、より良い会社・組織風土を
創ることを目的とした一般社団法人を設立

―一般社団法人 出光社員会とはどのような組織で、どのような背景から設立されたのでしょうか?


内山:一般社団法人 出光社員会は、会社(出光興産株式会社)とは別の独立した組織として、2024年4月に設立されました。全従業員の信任投票で選ばれた専任の理事7名と事務局1名で構成され、出光興産の全従業員を活動の対象としています。
設立の背景には、当時の中期経営計画における人財戦略の3本柱「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの進化」「個人の能力・個性の発揮」のうち、「個人の能力・個性の発揮」をさらに促進していくという狙いがありました。その施策として、個を伸ばす支援をする部門として社内に「キャリアデザイン部」を、個が活躍できる「場」をつくる組織として社外に「一般社団法人 出光社員会」を、並行して立ち上げることになりました。
2026年にリリースした現人財戦略においても、出光社員会は、場づくりを通じて行動指針の実践と共創・イノベーションを促進し、人財戦略の実行エンジンとしての役割を担っています。

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内山:キャリアデザイン部は、従業員一人ひとりの自立的なキャリア形成支援を目的とし、ライフキャリアプラン策定の啓発やスキル開発など、主に研修を担っています。
一方、出光社員会は、全従業員が主体的により良い会社・組織風土を創っていくための職場活動の場づくりを目的とし、部門や年代を超えた従業員の交流、従業員主体の提言の促進、エンゲージメント調査に基づくPDCA、経営層との直接対話の企画・実施といった取り組みの推進を担っています。




―なぜ、出光社員会は独立した組織として設立されたのでしょうか?


内山:独立した組織にすることで、社内のヒエラルキーにとらわれず、心理的安全性を確保したうえで経営陣や役職者と直接対話ができると考えたからです。また、(役職者ではない)一般の従業員から理事を選出することには、組織を運営する経験を通じて経営者マインドを育てるという、社員教育的な狙いもありました。
実は社内には、出光社員会の前身となる「Nextフォーラム」という各職場の代表からなる組織があり、従業員の立場から会社の課題を指摘・提言してきました。しかし、業務との兼任だったこともあり、深いコミットメントや横断的な課題把握が難しいという実情がありました。そこで、出光社員会は理事・事務局とも専任(人事上の扱いは、出光興産からの出向)とし、任期は2年と定めました。

1_org_200_02.jpg内山美穂子さん




―労働組合とはどこが異なるのでしょうか?


内山:当社には労働組合はありませんが、労働組合は、組合費を従業員が負担するのが一般的です。一方、出光社員会は、出光興産との業務委託契約に基づき活動費を受け取る形態をとっており、従業員の支出はありません。また、労働組合の組合員には通常役職者は含まれませんが、出光社員会では部長などの役職者も含めて全従業員が活動の対象となっている点も異なります。




各職場から活動推進委員を選出。
従業員の声を起点にしたボトムアップの活動に伴走する

―「全従業員が主体的により良い会社・組織風土を創っていくための職場活動の場づくり」が出光社員会の役割とのことですが、具体的にどのような活動をしているのでしょうか?


服部:理事や事務局を中心にトップダウンでやるのではなく、従業員の声を拠り所にしたボトムアップの活動を大事にしています。
出光興産には、本社の部室に加え、製油所や事業所など国内外に多くの拠点があります。部室・拠点ごとに「出光社員会活動推進委員」と呼ばれる担当を選任し、活動推進委員、部室・拠点長、人事担当役職者を中心に「職場変革チーム」を結成。エンゲージメント調査の結果などをもとに各職場の課題を抽出・分析し、それに対する施策を立案・実行しています。
私たち理事は、それぞれが担当部室を持ち、各職場のミーティングに参加したり活動推進委員からの相談に乗ったりしながら職場変革活動に伴走し、好事例の共有や横展開なども行っています。

1_org_200_03.jpg服部朝子さん

内山:例えば、2024年度に挙がっていた経営課題の1つに、「経営方針の自分事化」についての課題がありました。一方、社内でヒアリングをすると、従業員からは「部室方針は理解しているが、経営方針と自身の業務とのつながりが見えづらい」といった声が多く寄せられました。そこで経営方針の理解・納得・行動に落とし込む場として、部門・拠点別のタウンホールミーティングを実施し会社の経営方針を現場や業務に合わせ「翻訳」してもらうよう各部室長にお願いしました。
私たちが提案したこの取り組みは、活動推進委員の主体的な働きもあり多くの部門・拠点で浸透し、社員のエンゲージメント調査の回答でも「経営方針がどのように変わったのか、どう進化したのか知りたい」と以前よりも踏み込んだものが見られるようになりました。

服部:加えて、共創・挑戦の風土をつくるための組織横断の施策として、テーマオーナーの企画に従業員が部門横断で参加する仕組み「マッチングde部門間交流」や、従業員のアイデアを形にし、企画・実行まで支援する「推し-tie(たい)アイデアコンテスト」、従業員の主体的な取り組みや共創に繋がる活動にスポットをあてる「iine! award」などの企画を実施しています。
活動推進委員を全国の地域・フロアごとに9つに分け、部横断で活動するエリア会も2025 年に組織し、同じ地域内の他部門交流、地域横断の部門交流、異事業部門交流など、さまざまな切り口や掛け合わせで、相互理解・交流を深める機会創出も進みました。

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―出光社員会の理事として、どのようなことを意識されていますか?


服部:活動推進委員は全国に約130名いますが、職場活動が活発な部門は、活動推進委員が積極的に動いていることに加え、上長がそれを認め支える、職場として一体感があるケースが多いです。
一口に職場風土醸成といっても、部門経営の視座で考え、職場の従業員を巻き込みながら進める必要があり、活動推進委員は非常に難易度の高い取り組みに挑戦いただいています。そのチャレンジを後押しする職場環境があってこそ、個の力は発揮されるもの。私たちとしては、各職場の理解や参画がさらに進むよう、全国キャラバンを実施し、現場や役職者を訪問して活動の意義を説明することにも力を入れています。

内山:活動推進委員をはじめ従業員の皆さんに、「(職場活動を)やってよかった」という成功体験を積んでもらうことを意識しています。一方、活動推進委員や職場によって温度差があったり、活動がうまく浸透しなかったりするケースもあります。そんなときは、活動推進委員のウィルをヒアリングしたうえで、こういうこともできるのではないかと提案をしたりもしています。

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出光社員会の存在や活動意義への理解が進み、
エンゲージメント調査結果も有意にポジティブに

―創設3年目を迎えて、当初からの変化や成果はみられますか?


内山:設立当初は、社員間でも「出光社員会って何なの?」「何のための組織なの?」という反応が中心で、存在自体があまり知られていませんでした。一方、徐々に活動を進め成果がひとつずつ見え始めた結果、活動推進委員や役職者を中心に活動の意義への理解や参画が進み、3年目を迎えた今では「変革を興す共創の土台として重要な活動」「組織風土の改革に向け継続して取り組むことが必要」といった前向きな声が多く寄せられるようになっています。

服部:「(会社は)社員の意見に耳を傾けている」「他部室との協力関係」「部門を超えた共創・連携を意識した取り組み」といった項目のスコアも前回実施時から統計上有意に上昇しました。これらも、社員会活動の成果の一つと考えています。
また、従業員を対象にしたエンゲージメント調査をはじめ、年間13,000件以上の声が集まっています。社内会議の場でも、従業員の声の反映や、組織横断の活動に関する文脈で出光社員会への言及が増えるなど、社内での認知度に加え期待感の高まりも感じています。




―実際に活動をされるなかで、独立した組織であることのメリットや難しさについてはどのように感じていますか?


内山:最大のメリットは、会社や部門のルールや慣習にとらわれず、経営陣や役職者とダイレクトにつながり、フラットな関係性で意見交換や説明ができることです。とても印象深かったのが、出光社員会の設立直後に実施した、経営提言のためのタウンホールミーティングです。出光興産の経営陣と出光社員会の理事が円卓に座り、私たちから経営陣に提言する様子が国内外の全拠点にオンラインで配信されました。しかも私は、社長と副社長の間の席で...この上なく緊張したのを覚えています。そして、このときに私たちが提言したインナーコミュニケーションの強化について、経営陣の理解・共感を得られ、部門別タウンホールミーティングや部室長ワークショップなどの機会につながり、エンゲージメント調査結果におけるコミュニケーションのスコア向上にも少なからず貢献できたことは、私にとっても大きな成功体験となりました。

服部:本社だけでなく、全国の支店や製油所、事業所の部門長と率直かつフラットに意見交換ができるのは、会社とは異なる組織という立場だからこそだと感じています。一方、難しかったのは、前例がなかったこと。
一般社団法人という体制でこのような活動を行う組織は、私たちが把握する限りでは他社にも事例がなく、まさに手探りでした。繰り返しになりますが、その中で活動の意義を従業員にいかに理解してもらうか、主体的に参画してもらえるかにも、難しさを感じてきました。

また、私個人として、1つの組織の「理事」という立場を経験し、経営陣や役職者の方々と話をするなかで、視座が上がった成長実感があります。
様々な職場で働く人の声を拾い上げていくなかで、あらためて出光興産という会社の強みや可能性を実感できました。すぐに大きな変化が生まれるものではありませんが、こうした取り組みを継続していくことで、 組織や職場の風土をより良い方向へ変えていけるという手応えも感じています。そうした経験を通じて、仕事や組織に対する私のエンゲージメントも高まりました。

1_org_200_06.jpg写真左から)内山美穂子さん、服部朝子さん




従業員の声を会社の変革につなぐ「縦」と
共創・挑戦の風土をつくる「横」の2軸で活動を促進

―3年目を迎えて、見えてきた課題はありますか?


内山:出光興産の全従業員約5,000人のうち、出光社員会の活動に参画しているのは3〜4割にとどまっています。なぜ出光社員会の活動が必要か、重要かを伝え、腹落ちしてもらう必要があり、そのためにも、どのようにしたら参加してもらいやすくなるか、活動参加への動線づくりが課題だと感じています。




―今後は、どのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか?


内山:中期経営計画の主題の1つである「変革」の実現を目指し、会社全体が一体となってギアを上げていくためにも、出光社員会として活動に集中できる体制を整えたいと考えています。
そのためにも、出光社員会の活動を「縦=従業員の声を会社の変革につなぐ」と「横=共創・挑戦の風土をつくり、つながりを広げる」の2軸で捉え直したうえで、重点的に取り組む領域を絞り込むことが大事だと感じています。一例としては、エリア会を通じて活動推進委員同士の横連携を強化し、各部門の課題を経営陣への提言につなげるルートを整備したいと考えています。
理事・事務局合わせて8人という限られた人数ではありますが、今後も持続的に活動しつつ、出光興産ならではの人財投資の取り組みとして、対外的にも発信していきたいと考えています。




一般社団法人出光社員会

出光興産が掲げる人財戦略を支えるために2024年4月に設立された独立組織


内山美穂子
一般社団法人 出光社員会 理事長、2008年、出光興産に入社。潤滑油部での国内・海外営業、人事部での新卒採用等を経験し、2024年1月に出光社員会設立準備委員会のメンバーとなる。同7月に出光社員会の理事長に就任。


服部朝子
一般社団法人 出光社員会 常務理事、2006年、昭和シェル石油(現・出光興産) に入社。広報部でのPR業務、経理財務部での会計・IR業務等を経験し、2025年に出光社員会の理事に就任、2026年に常務理事に就任任。

文/笹原風花 撮影/石河正武