仕事のプロ

2026.08.05

オフィス内カフェがコミュニケーションを変える

「バリスタ=コミュニケーター」が果たす役割とは?

コロナ禍以降、リモートワークや出社とリモートのハイブリッドワークが浸透し、オフィスに求められる価値は、「働く場所」から「集う場所」へと変化しつつある。こうしたなか新たな課題となっているのが、社内コミュニケーションのあり方だ。この課題に対して、(株)Gardenは、「おいしいコーヒーが飲める、バリスタがいるオフィス内カフェ」というソリューションを提供している。「バリスタ=コミュニケーター」が果たす役割について、同社代表取締役の青柳智士氏に伺った。
写真)丸の内パークビル共用ラウンジ内のカフェスペース「 Brick8(ブリックエイト)」にて取材

「おいしいコーヒー」が標準装備の、
コミュニケーターとしてのバリスタがいるカフェ

―まずは、Gardenの事業内容についてご紹介をお願いします。


当社では、オフィス内カフェの導入支援サービスを手がけています。事業としては、大きく2つのケースがあります。1つは、複数のテナントが入るビルのデベロッパー向けに、ビルの共用スペースとしてのカフェを提案・プロデュースするケース。もう1つは、個々の企業向けに、オフィス内のカフェを提案・プロデュースするケースです。現在までに双方合わせて都内23か所でカフェを手がけており、今回は主に後者についてお話しします。

私たちが提供する企業のオフィス内カフェの共通コンセプトは、「おいしいコーヒーが飲める、バリスタがいるカフェ」。このコンセプトを軸に、クライアント企業の要望やニーズ、経営課題に合わせてフルカスタマイズしたサービスを提供しています。後述する「おいしいコーヒーが飲める」、「バリスタがいる」という特色に加えて、いわゆるチェーンのカフェではできないカスタム度の高さが強み。カフェの名称は企業ごとに違いますし、企業のミッションを冠したオリジナル・ブレンドコーヒーを開発・提供したり、ご要望やトレンドに応じてコンビニでは売っていないようなスイーツを提供したりもしています。また、カフェの運営をコンシェルジュ的に担い、イベントの企画・運営やイベント開催時のケータリングなども請け負っています。




―青柳さんがオフィス内カフェに注目された理由・背景についてお聞かせください。


私は以前、IT企業で人事役員を務めていました。そのときに常々感じていたのが、フォーマルでもプライベートでもない会話ができる場所や機会がないことでした。会議室で話す内容でもなく居酒屋で話すようなことでもない絶妙な会話というか雑談というか、そうした話が気軽にできるカフェのような場が社内にほしいと思っていたんです。

また、私自身、コーヒーやお茶が好きだということもあり、そういう場での「飲みもの」って大事だなと思っていて。カフェインによる覚醒効果が高いコーヒーは仕事との相性もいいんですが、自動販売機やコーヒーマシンでは味気がないし、やっぱりおいしくないんですよ。オフィスでもおいしいコーヒーが飲みたいよね、じゃあちゃんとした豆でちゃんと淹れたおいしいコーヒーを出すカフェをオフィスに作ろう...と考えたのが、起業のきっかけです。

しかしながら、私たちは「コーヒー屋」ではありません。豆にも淹れ方にもメニューにもこだわるんだけど、おいしいコーヒーというのは、Gardenのオフィス内カフェが提供する価値の本質ではない。あくまでも標準装備の一つ、デフォルトに過ぎない。というのが私たちの考えです。私たちが提供する価値は、社内コミュニケーションのあり方を変えること。おいしいコーヒーを片手に、コミュニケーションのエンジンになるのは「人」です。そこで、「おいしいコーヒーが飲める」は大前提としたうえで、「コミュニケーターとしてのバリスタがいるカフェ」をコンセプトに据えました。

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バリスタは、社内コミュニケーションを
円滑・活性化するためのハブ的存在

―「バリスタ」というと、コーヒーのプロフェッショナルという印象があります。豆を選んだりコーヒーを淹れたりするだけでなく「コミュニケーター」の役割も務める「バリスタ」とは、どのような存在なのでしょうか?


どの業界のどの企業も大なり小なり抱えているのが、社内コミュニケーションの課題です。私たちはバリスタを、この社内コミュニケーションを円滑・活性化するためのハブ的存在と位置づけています。間に入って人と人とをつないだり、ちょっとした情報を拾い上げてそっと会社に伝えたり。バリスタはそんな「コミュニケーター」としての役割を担っています。

ですから、当社が運営するカフェのバリスタは、コーヒーを淹れるスキルよりもむしろ、コミュニケーションスキルに重点を置いて採用・育成しています。オーダーをとってコーヒーを淹れる間やコーヒーを席にお持ちする際に、バリスタは客である社員と積極的に会話を交わします。「最近どうですか?」とか「お仕事、忙しいんですか?」などという感じですね。たわいもない雑談のこともあれば、趣味や仕事の話のこともあるでしょう。ここでは、社員が「職場の人には言いにくいちょっとした話」ができるというのが肝です。業務上の利害関係や上下関係がない第三者だからこそ話せる、プチ自慢や愚痴、失敗談、プライベートの話ってあると思うんです。他人でもなく身内でもない、この絶妙な距離感の関係性を意図的に組み込むことが、社内コミュニケーションの課題解決においては重要なのではないかと、私は考えています。

2_bus_197_02.jpg Gardenが運営するカフェでは、カップのフタにも紙素材を採用。店舗によっては、バリスタがちょっとしたイラストやメッセージを書くことも。




―一方で、バリスタに話しかけられるのを好まない人やタイミングもあると思うのですが、そうしたケースに対してはどのように対応しているのでしょうか?


人による好みの差もあれば、急いでいてゆっくり話している時間がないときもあるでしょう。そうしたニーズにも応えられるよう、すぐにお出しできるクイックメニューを用意するなど、グラデーションをもたせた、いわば多様性に対応した運用が、私たちの強みです。事業内容や社員の年齢層、カルチャーなども含めてリサーチし、何が求められているかのヒアリングを重ね、どのようなタイプのバリスタを配置するなども含めて、個々の企業の特性やニーズにカスタマイズ&アジャストしていくことを大事にしています。




求められるのは、人が集い、偶発的な出会いや
コミュニケーションが生まれるオフィス

―「社内コミュニケーションの課題」というお話がありましたが、企業は具体的にどのようなニーズや課題感から、御社に依頼をされるのでしょうか?


企業のブランディングや採用の決定率向上、福利厚生的な文脈での依頼が約半分です。これらに加えてコロナ禍以降に大きく増えたのが、出社率の向上やコミュニケーションの活性化を目的とした依頼です。リモートワークが浸透し、オフィスはただ働くための場所ではなくなっています。そうしたなか志向されているのは、「いかに人が集まる場所にするか」ということ。人と人との偶発的な出会いやコミュニケーションが生まれる場にするため、オフィスの付加価値としてバリスタ、つまり、コミュニケーターのいるカフェを導入したいというニーズは高まっています。特に、新卒・中途採用者数が多く人的流動性の高い企業では、リモートワークによりコミュニケーションの頻度や質が低下し、結果として離職率が高くなるという課題を抱えているところが多いと感じます。




―カフェを導入した企業では、実際にどのような成果が見られているのでしょうか?


まず、当社のサービスを導入していただいた企業の継続率は100%で、高い満足度・評価をいただいていると自負しています。また、第三者機関が行う従業員の満足度調査などでも、コミュニケーションに関する項目で良い変化が見られます。何よりうれしかったのは、ある導入企業様 より、「第2の人事」という評価をいただいたことです。「第1の人事」であるオフィシャルの人事では拾いきれない社内の小さな情報を拾える存在として価値を認めていただけたことは、私自身が想定していた以上の成果でした。そして、一見すると価値が見えにくい「名もなきコミュニケーション」にフォーカスを当てることの重要性を、あらためて感じました。




―それは、バリスタの方がクライアント企業に、社員との会話から拾った情報を共有されているということでしょうか?


バリスタから直接...ではありませんが、私やエリアマネージャーがクライアントとの定例会議の際に、グッドニュースやバッドニュースとしてシェアすることもあります。もちろん、会社には知られたくない情報もあると思いますので、人事采配や業務に直接影響がないカジュアルなものに限り、個人情報にも配慮しています。

2_bus_197_03.jpg 店舗などの商業デザイナーとしても活躍する青柳さんだが、Gardenの事業ではソフト面に特化。カフェのデザインや内装は設計の専門家に任せ、あえて口出しはしないそう。




導入効果は、従業員数300人以上の
互いの顔が見えない状況下でこそ発揮される

―コーヒーマシンとテーブルセットを設置するなど、独自にカフェスペースを設けている企業も多いですが、やはりバリスタを置く意義は大きいのでしょうか?


実は、そうとは言い切れません。これまでの実績から見ると、私たちのサービスの導入効果が如実に現れるのは、従業員数が300人以上のケースなんです。従業員数が300人を超えると、顔と名前が一致しない社員が多数いるという状況が発生します。こうした状況下では、互いに知らない人たちをいかにつなぐか、会社に届きにくい情報をいかに拾い上げるかが、バリスタの腕の見せどころとなります。

逆に、従業員数が300人以下の、社員同士が互いを知っている状況下では、人件費もかかるバリスタのサービスは過剰です。そうした社員の顔が見える規模の職場では、ちょっといいコーヒーマシンとテーブルセットで十分だと思います。大事なのは、企業の課題がどこにあるか。「おいしいコーヒーが飲める、バリスタがいるカフェ」は決して万能薬ではありません。




―最後に、今後に向けた課題やビジョンをお聞かせください。


リモート、出社、時差出勤など働き方の多様化に伴い、「働く」と「食べる」や「休む」との境界が曖昧になってきているように感じます。従来のカフェの食事は、モーニング、ランチ、小腹を満たす軽食やスイーツといったラインナップで、提供される時間帯も決まっていました。「おいしいコーヒーが飲める」という部分は確立できているので、今後は、ニーズの多様化に対応できるような魅力あるメニューの開発や商品提供にも取り組んでいきたいと考えています。その際も、軸になるのはコミュニケーションです。クライアントの声に耳を傾けつつ、より多くの社員が足を運びたくなる場所、休憩の質が高まる場所にしていきたいと考えています。




青柳 智士(Aoyagi Satoshi)

(株)Garden代表取締役。1979年、神奈川県出身。2002年武蔵野美術大学卒業後、インテリアメーカー、(株)サイバーエージェント、(株)VOYAGE GROUP取締役を経て、LUCY ALTER DESIGNを創業。代表取締役 兼 クリエイティブディレクターを務める。2016年には(株)Gardenを創業し、現在は大手企業・ディベロッパーに向けてオフィス内・ビル内のカフェを提案・プロデュースしている。また、2017年に三軒茶屋に世界初のハンドドリップ日本茶専門店「東京茶寮」をオープンさせるなど、「お茶屋」としての顔ももつ。

文/笹原風花 撮影/石河正武